トリポッド2 脱出

[題名]:トリポッド2 脱出
[作者]:ジョン・クリストファー


※このレビューには前巻までのネタバレがあります。ご注意ください。

 本書は〈トリポッド・シリーズ〉の第二巻です。本来の〈トリポッド・シリーズ〉は三部作であり、オリジナル版では一巻目に相当するお話ですね。原題は"The White Mountains"、以前〈三本足シリーズ〉の第一巻『鋼鉄の巨人』という名前で翻訳されたこともあります。
 この巻以降は主人公がウィル少年へと代わり、描かれる舞台も前巻から百年以上隔たっています。人類がトリポッドに支配され、文明が失われてしまった時代です。
 ジュブナイルでありながらも、本書は非常にシビアな世界設定です。異星人に奴隷化されている地球人類ですが、奪われた自由は身体的なものではなく精神的なものです。読者はウィル君とともに、その恐ろしさを体験することになります。
 十四歳になると頭にキャップを被せられ、異星の機械トリポッドへ忠誠を誓わされる時代。しかし、少年ウィルはそれを良しとせず、自由を求めて旅立ちます。

 異星人の操る巨大な三本脚の機械・トリポッドが地球へ飛来したときから百年以上が経過し、世界はトリポッドの完全支配下にありました。
 技術文明は崩壊し、人々は中世さながらの暮らしを営んでいます。過去の遺物として時計がごく少数残っていたりしますが、整備がせいぜいで、新規に時計を作る技術は存在しません。
 けれども、人々は特に不満を漏らすでもなく平穏に生活しています。その理由は、大人達が頭に被るキャップにありました。
 子供が十四歳を迎えると、トリポッドが村を訪れ、その頭に金属製の網でできたキャップを被せます。すると、その子供は知的好奇心を失い、トリポッドを熱狂的にあがめる性格へと変貌してしまうのです。(ごく一部、その装着に失敗して精神に異常を来してしまう者もあり、“はぐれ者”と呼ばれています)
 イギリスの地方に住む少年ウィル・パーカーは、兄と慕っていたジャック・リーパーが戴帽式を境に変貌してしまったことを目の当たりにし、キャップというものに恐怖と不審を感じ始めます。そんなおり、オジマンディアスと名乗る少々風変わりな“はぐれ者”が村へやって来たのです。
 オジマンディアスと親しくなったウィルは、彼が本当は“はぐれ者”ではなく、そう装っているだけの自由市民であることを知ります。そして、キャップはトリポッドが人間を奴隷化するための洗脳装置であることも。
 オジマンディアスの勧めに従い、ウィルと、そして従兄弟のヘンリー・パーカーは、南の白い山脈にあるという反トリポッド組織へ加わるために旅立つのでした。

 本書の注目ガジェットは、トリポッドです。
 全高二十メートル以上の、関節のある三本の脚を持った巨大な機械で、上部は半球状になっています。また、金属でできた触手を持ち、それを使って人間を持ち上げたりすることができます。
 トリポッドの中はこの巻では明かされませんが、人々はこの機械をまるで神のごとくあがめています。それが理不尽に危害を加えるものだったとしても、キャップによって精神を操られた大人達は異を唱えることはありません。
 一方、キャップを被る前の子供達は、トリポッドやキャップに対して疑念を持つ者が少なくないようです。オジマンディアス達は“はぐれ者”に変装してあちこちの村を渡り歩き、そうした反骨心を持つ子供を探して仲間に加えようとしています。
 このトリポッドですが、H・G・ウェルズ氏の古典的な侵略SF『宇宙戦争』に登場する、火星人の戦闘機械に良く似ています(戦闘機械も劇中で"tripod"と呼ばれる場面あり)。おそらくこれがモチーフになっているのでしょうね。
 もっとも、異星人の侵略という共通テーマを扱っていながら、両者は視点が大きく異なります。『宇宙戦争』はディザスター・ノベル(パニックもの)的な短期のお話であり、火星人操る戦闘機械は日常への闖入者です。一方、〈トリポッド・シリーズ〉は異星人に征服された後の世界を描き、トリポッドは大人達にとって敬愛の(そして主人公達にとっては恐怖の)対象です。どちらもそれぞれ別の面白さがあると言えます。

 旅の途中、ウィルとヘンリーの二人に、フランス人少年のビーンポール(「豆づるの支柱」の意。本名ジャン=ポール)が仲間に加わります。ビーンポールは非常に頭が良い少年で、自力で眼鏡を発明したり、独学で英語を学んだりと、その天才ぶりを見せてくれます。性格も謙虚で冷静、機転を利かせて仲間を助ける場面も多く、頼りになる存在です。
 一方、主人公のウィル君はと言うと、かなりわがままで身勝手、考えなしに行動する場面が目立ちます。一人称主人公で内面が描かれるというのもありますが、他人に嫉妬したり、虚勢を張ったりするシーンも少なくありません。短気が一時的な爽快感を生んでも、後に手痛いしっぺ返しをくらう辺りが児童文学的です。また、欠点の多い少年だからこそ身近に感じられるポイントも重要でしょう。
 ヘンリーは冒頭、苛めっ子の姿で登場しますが、冒険を進めていくうちにウィルと打ち解け、気のいい部分を見せてくれます。お話の中で最も成長を見せてくれる少年かもしれません。
 また、その他の重要人物として、山脈へ向かう途中でウィルと親しくなる美しい少女エロワーズが挙げられるでしょう。彼女との関わりを通じて、ウィルは世界の置かれている現状と、それに立ち向かうことの本当の意味を理解することになります。

 苦難の多い旅の過程で、ウィル達はトリポッドに支配される世界に関する見識を広げていきます。廃墟と化した都市に潜り込むことで、人類がかつて成し遂げた科学技術に驚嘆し、そしてそれをいとも簡単に下してしまった支配者達の強大さを目の当たりにします。
 この、過去の遺物に未来の人間が驚嘆するという展開は、「ポストアポカリプスもの」の醍醐味ですね。彼等にとっては驚きに満ちた、しかし私達にとっては身近な物という構図が、読者を大いに楽しませてくれます。

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