人形つかい

[題名]:人形つかい
[作者]:ロバート・A・ハインライン


 SF三大巨匠の一人ハインライン氏の手による『人形つかい』は、スピード感溢れる描写の侵略テーマSFです。
 侵略テーマとは文字通り、人類が外敵から侵略を受けるという展開の作品を指します。外敵は地球外の異生物・異星人であることが多いですね(異次元からの侵略だったりすることも)。この外敵をいかに魅力的なものにできるかが、侵略ものの面白さに大きく影響するわけです。
 本書の敵はパペット・マスター(人形つかい)――またの名をはナメクジ――と呼ばれる地球外生物です。その姿だけでなく能力や生態も実におぞましく、物語を大いに盛り上げてくれます。
 読み手は氏のストーリーテリングを楽しみつつ、この恐るべき敵との戦いを堪能することになるでしょう。

 主人公サム(偽名)はアメリカの秘密情報機関のエージェントです。サムが所属する組織は、CIAにすらその存在を知られていないという極秘の存在なのです。タフで勇敢、かつ鋭いひらめきの持ち主ですが、少々子供っぽい部分もあります。
 その彼は、同じエージェントの女性メアリ(こちらも偽名)と機関のトップであるオールドマンの三人で、とある捜査に向かうことになりました。アイオワに着陸したらしいUFOの調査という少々眉唾な内容なのですけど、既に六人の捜査員が行方知れずになっています。
 調査先にあった宇宙船はハリボテの作り物だったのですが、どこか不審なものを感じた三人は事件を報道した放送局へと殴り込みをかけます。そこで彼らは侵略者の姿をを初めて目にすることになるのです。

 本作での注目ガジェットは、おぞましき寄生生物パペット・マスターです。灰色がかった半透明のナメクジに似た外観をしていて、人間の首から背中のあたりに取り付き、宿主を支配します。文字通りの操り人形と化してしまうわけですね。
 寄生された人間は記憶や思考力といったものは元のままですが、判断力や感情はマスターに制御されてしまいます。さっきまで味方だった人間が、取り付かれた途端に裏切り者となってしまうのです。
 パペット・マスターは宿主に対して、騎手が馬に抱くような気遣いを一切見せません。彼らにとって宿主は単なる奴隷であり、使い捨ての乗り物でしかないようです。
 やっかいなのは、ぱっと見ではその人間がパペット・マスターに支配されているのか判別し辛いことです。このため、その侵略者が存在することすらなかなか信じてもらえず、サム達は苦戦を強いられることになります。

 本作は情報機関のエージェントが主人公ということもあり、ハインライン氏の作品に見られがちな力の論理が所々にあります。また、後半の展開には少々ご都合主義的な部分も存在します。
 ただ、そうした短所(と取るかどうかは読み手次第(^^;))を補って余りある本書の長所は、単純ですが『面白いこと』ですね。SF的な仕掛けは多くありませんけれども、緊迫感や爽快感はとても大きなものです。これこそハインライン氏の作品が多数の人に愛される理由でしょうか。
 また、登場人物も魅力に溢れています。赤毛の美女メアリはヒーローに守られて安穏としているタイプではありませんし、オールドマンは一筋縄ではいかない性格だったりと、一癖も二癖もあるキャラクタが味わい深いですね。会話もウィットに富んでいます。
 さらに、ハインライン氏の特徴であるSFとしての背景設定のさりげなさが、本書でも遺憾なく発揮されています。作品の舞台は近未来(と言っても二〇〇七年)ですが、未来的な小道具は日常描写の中に違和感なく埋め込まれており、そこが現代の延長線上にあるのだということを受け入れやすいのです。
 この『人形つかい』に難解な部分はありません。理屈抜きで楽しめる優れたエンターテイメントSFと言えるでしょう。

この記事へのコメント

  • goldius

    侵略ものだが、悲壮感漂わず、まさに優れたエンターティメントでしたね。私はギャグに大笑いしました。
    2007年03月29日 15:25
  • Manuke

    ハインライン氏の文章のセンスが秀逸ですよねー。
    特に一癖も二癖もあるオールドマンが好きです。
    2007年03月31日 00:28

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「人形つかい」 ロバート・A・ハインライン 福島正実訳 早川文庫
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Weblog: 目次が日本一のブログ(自称w挑戦者求む)
Tracked: 2007-03-29 15:22