緑の星のオデッセイ

[題名]:緑の星のオデッセイ
[作者]:フィリップ・ホセ・ファーマー


 フィリップ・ホセ・ファーマー氏の初期作品です。デビュー作ではないものの、最初に出版された長編小説に当たるようです。
 舞台は未来のとある惑星上で、未開惑星に不時着した主人公の冒険が描かれます。どちらかというとヒロイック・ファンタジー寄りの内容となっており、ストーリーは比較的シンプルです。
 ただ、後年〈リバーワールド〉や〈階層宇宙シリーズ〉といった魅力的な舞台を構築することになるファーマー氏の作品傾向が本書でも見られます。それは車輪の付いた帆船が疾走する草原の海、クスルデムールです。

 海洋食品の専門家である地球人アラン・グリーンは、乗っていた貨物宇宙船の事故に遭い、脱出カプセルで無名の惑星に漂着しました。
 その惑星には遺伝的に地球人と同じ人々が暮らしていましたが、その生活は中世ヨーロッパレベルでした。現地語の話せないグリーンは、小国家トロパットの公爵の奴隷にされてしまいます。
 そして遭難から二年後、言葉を学び立ち回る術を覚えたグリーンは、台所奴隷の小頭と、公爵の妻ズーニの男妾という地位を手に入れていました。公爵の妾だった美貌の奴隷アムラを強制的に娶らされ、二人の間には娘も生まれていましたが、そこに自由はなく、嫉妬深く傲慢なズーニに振り回される生活に飽き飽きしていました。(妻アムラは美しく聡明なものの口うるさいので、グリーンにとって安らぎとはなっていない模様(^^;))
 そうしたおり、トロパットを訪れた貿易商ミランから、別の国エストリアで空から鉄の船で落ちてきた二人の男が捕まったという情報がもたらされます。この世界では、人が空を飛ぶなどあり得ないことであり、二人は悪魔として牢獄に入れられたと言うのです。
 ミランの言う「鉄の船」が宇宙船ではないかと推測したグリーン。この星を離れるには、ここを脱出して二人に接触する他はないと考え、ミランに儲け話を持ち掛けて自分を密かにエストリアへ乗せていってもらう約束を取り付けます。
 ところが決行直前に、ズーニのせいでグリーンはあわや処刑されかかります。トロパット公爵お気に入りのガラス製の鳥を人質(?)に取り難を逃れたグリーンは、ミランの帆船車《幸運の鳥》へ逃げ込みました。驚いたことに、その船には見捨てていくつもりだった妻アムラが、彼らの娘パクシや義理の子供達を連れて乗船していました。アムラはグリーンがトロパットを脱走することを事前に気づいていたのです。
 かくして、エストリアに向けて広大な草原に滑り出した《幸運の鳥》。彼らの行く手には何が待ち受けているのでしょうか。

 本書の注目ガジェットは、草原の海クスルデムールと帆船車です。
 クスルデムール("Xurdimur")は山に囲まれた広大な土地です。地面は非常に平坦で、草はまるで刈り取られたかのように一定の高さを保ち、常に風が吹いています。船の難破や隕石の墜落といった、草原の平滑さを損なう状態が発生しても、いつの間にか地面が平らに均され痕跡も消えてしまうという不思議な現象が起きます。現地人はこれが謎の生物ウールーの仕業だと信じていますが、ウールーの姿を見た者は誰もいません。
 この「非常に平らな草原」という特性を生かすため惑星住人が考案したのが、風の力を受けて進む車、帆船車("windroller")です。帆船車は海の帆船に車輪を付けたような形状をしており、《幸運の鳥》は実に二十八輪のゴム製タイヤで支えられています(水上帆船と比較して、帆がやや小さめの模様)。この惑星には海もあるようなので、単純に帆船を陸に上げたという発想だったのかもしれません。
 少々ネタバレになりますが、クスルデムールは自然にできたものではなく、ある設備により管理・維持されていたことが作中で判明します。この設備、巨大ではあるのですけどなんとなく行動が可愛らしい印象ですね(^^;)

 主人公アラン・グリーンはごく普通の地球人のようですけど、体内自衛装置("the Vigilante"、装置と言うより人工生物?)という共棲物が埋め込まれており、このおかげで常人よりも大きな力を発揮できます。また、怪我もすぐに治ってしまい、体内の毒素も中和可能です。
 しかしながら、この共棲物はエネルギーをかなり必要とするため、グリーンは普通の人間よりも大喰らいです。更に、エネルギーが不足すると代わりにグリーン自身の肉体を食べ始めてしまうという恐ろしい性質があり、グリーンは餓えを恐れているようです(^^;)
 こういった身体的特性に加え、高度な知性と常識を超えた知識を持ち、様々な危機的状況をものともせず乗り越えていく(ように見える)ことから、義理の息子グリズケトルから英雄視されています。
 ただ、本人はさほどヒーロー的な性格とは言えず、どちらかと言えば自己中心的な人物に感じられますね。逃げる際に返却を約束した、トロパット公爵にとっては命より大事なガラスの鳥も、結局返さずじまいですし。:-)

 本作品の肝は「草原の海を航行する帆船車」にあり、それ以外の特徴はさほど多くありません。シンプルでストレートな冒険小説で、肩肘を張らずに楽しむエンターテイメントですね。
 展開次第では、クスルデムールを海になぞらえた魅力的なシリーズになり得たように感じられますが、残念ながら舞台としては単作で終わってしまったようです。
 物語の最後で、グリーンは再会を約束して家族と別れることになります。しかしアラン・グリーン君、果たしてこの約束を守るでしょうか。個人的には、守らないような気がしてなりません(^^;)

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