トリポッド1 襲来

[題名]:トリポッド1 襲来
[作者]:ジョン・クリストファー


 本書はジュブナイルSFの傑作との誉れも高い、クリストファー氏のポストアポカリプスSF(破滅の後の世界を描いたお話)、〈トリポッド・シリーズ〉に属する作品です。〈トリポッド・シリーズ〉はかつて〈三本足シリーズ〉として少年少女向けに翻訳されたことがあり、こちらの名前で記憶されている方もいらっしゃるでしょう。
 但し、オリジナルの〈トリポッド・シリーズ〉は三部作であり、第一巻となっている本書『襲来(原題"When the Tripods Came")』は後に書かれた前日談になります。二巻~四巻のストーリーが、異星人に征服されてしまった後の地球を舞台としているのに対し、この巻は文字通り「トリポッドが地球に襲来したとき」を描いています。時代にかなり開きがあるため登場人物は共通せず、主人公も本巻だけ異なります。
 オリジナル三部作では間接的にしか語られなかった異星人による地球侵略が、本書のメインです。この侵略方法が実に醜悪(グロテスクなシーンがあるのではなく、社会が変容していく様が)で、思わず背筋が寒くなるほどです。子供向けの小説と侮るなかれ。
 異星から地球へ飛来した巨大な三本脚の機械・トリポッド。当初大した脅威ではないと見なされていたそれは、しかし人々の気付かぬうちに世界を崩壊させていくのです。

 時は現代、明記はありませんが二十世紀後半でしょうか。
 イギリスに住むごく普通の少年ローリー・コードレイは、友人のアンディと一緒にオリエンテーリングに参加していたところ、奇妙なものと遭遇します。
 二人は道に迷い、農家の納屋で一夜を過ごしていたのですが、夜中に爆発音を耳にしました。そして翌朝、目覚めた彼等は母屋の向こうに、全高二十メートル以上もある巨大な三本脚の機械を見つけたのです。
 トリポッドと呼ばれるようになるその機械は、農場主の男性を殺し、近づいてきたイギリス陸軍の戦車を金属の触手で握り潰した後、戦闘爆撃機のミサイルによって破壊されます。
 後にローリーが聞いたところ、トリポッドは宇宙からアメリカ、カザフスタン、そしてイギリスの三カ所へ飛来し、そのいずれもが破壊されたとのことでした。ローリーとアンディの二人はその光景を間近に見たことで一躍時の人となりますが、すぐに騒ぎは収まります。異星からの侵略者は大した脅威ではなかったと見なされたのです。
 しかし、事態はそれで終わったのではありませんでした。
 ローリーの妹アンジェラは、トリポッドを題材にしたトリッピー・ショーというテレビ番組に夢中でしたが、その熱狂ぶりは度を超していました。あるとき、ローリーが頼まれたトリッピー・ショーのビデオ録画に失敗したところ、アンジェラは半狂乱になってローリーをなじり、凶暴に彼を攻撃したのです。
 トリッピー・ショーの熱狂的なファンはトリッピーと呼ばれ、次第に社会問題へと発展していきました。トリッピーはことあるごとに「トリポッド万歳!("Hail the Tripod!")」と叫び、まるで救世主か何かのようにトリポッドをあがめていたのです。専門家はトリッピー・ショーに洗脳効果があるのではないかと危惧します。
 そうした混乱の中、それに拍車をかける事態が発生します――トリポッドが再び地球へと飛来したのです。

 本書の注目ガジェットは、洗脳です。
 作中では当初、テレビ番組を通じて人々に対する洗脳が行われます。
 トリッピー・ショーは、少々悪趣味な内容ではあるものの普通のアメリカ製子供向け番組です(テレビ番組が悪趣味であることは別に珍しくありませんし(^^;))。しかし、その映像中にはサブリミナル効果等の仕掛けが施され、視聴者は知らないままにトリポッドをあがめるよう催眠術がかけられてしまいます。
 物語が進むと、更に恐ろしい事態が待っています。トリッピー達は番組を見ていない人々をも洗脳するために、被るだけでマインドコントロールを行うキャップを作ってしまうのです。キャップを被った者はキャップ人("Capped")と呼ばれ、トリポッドに忠誠を誓うのみならず、知的好奇心を失い、身内以外に冷淡な保守的性格に変貌してしまいます。

 この〈トリポッド・シリーズ〉は児童文学であり、メインターゲットは十代前半だと思われますが、決して子供騙しな内容などではありません。
 第一巻主人公のローリー君、そして第二巻~第四巻の主人公ウィル君は、軽率な行動によってトラブルに陥ることが幾度かあります。一人称にて語られる彼等の内心は、ときに友人に嫉妬したり、あるいは身勝手な自分を恥じたりと、ごく等身大の子供らしいものです。どこにでもいる普通の少年が、トリポッドという存在の引き起こす事件に巻き込まれてしまうという構図が、作品世界をとても身近なものに感じさせてくれます。
 また、描かれる内容も衝撃的ですね。異星の巨大な機械の襲来というインパクトのある冒頭を過ぎると、その後はじわじわと、しかし劇的に社会が崩壊していきます。洗脳により人々が変貌してしまう様は実に恐ろしい印象です。
 思想を無批判に受け入れてしまうことへの警鐘も見て取れ、少年少女向けではありながらそのストーリーは非常にシビアです。いや、むしろ子供向けだからこそ、でしょうか。そして同時に、それらの要素は大人にとっても本作を魅力あるものにしていると言えるでしょう。
 ローリー君が目にしたトリポッド襲来事件は本巻でひとまず終わりです。次巻は百年以上後、地球がトリポッドに支配された時代へと移ります。

この記事へのコメント

  • Kimball

    あ、こういう作品だったのですねー!?

    おやじ、えらい勘違いを数十年していました。

    「トリポッド」=「トリフィド」のことだと
    おもっていました。\(^o^)/

    ふ、ふか~く!! \(^o^)/\(^o^)/
    2007年07月28日 08:03
  • Manuke

    どっちも三本足ですしね(^^;)
    そういえば、クリストファー氏とウィンダム氏はイギリスの作家さんですね。二人ともA・C・クラーク氏の『白鹿亭綺譚』にちょこっと登場してますし、接点が意外と多いかも……。
    2007年07月29日 00:04
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