三惑星連合軍

[題名]:三惑星連合軍
[作者]:E・E・スミス


※このレビューにはシリーズ全般のネタバレがあります。ご注意ください。


 ドク・スミスの代表作である〈レンズマン・シリーズ〉のサブエピソード、前日談的ストーリーです。
 〈レンズマン・シリーズ〉は、不死のレベルに到達した超種族アリシア人とエッドール人の対立というバックボーンがありますが、本書では長年に渡るエッドール人の暗躍と、それを陰から阻止せんとするアリシア人の一端が描かれます。
 もっとも、メインとなるのは中盤以降、人類が太陽系に進出し三惑星連合を形成した時期です(『ファースト・レンズマン』より少し前)。高度な知識を持つ凶悪海賊グレー・ロージャーと三惑星連合軍。両者の戦いに、もう一つ別の勢力が加わり、事態は混迷を深めることになります。

 二十億年もの遥かな太古、銀河系とランドマーク星雲(後に第二銀河系と呼ばれる)の二つの銀河がすれ違い、両銀河に多数の惑星が誕生することになりました。
 銀河系に存在した唯一の知的生命体アリシア人は、このすれ違いの数億年後、ランドマーク星雲内にて別の知的生命体エッドール人と接触します。この時点で両種族は既に超知性を獲得し、事実上の不死でしたが、その中身は全く異なるものでした。アリシア人は精神を信奉し知的探求を至上命題としていたのに対し、エッドール人は精神と物理を重視し他種族を支配することこそが目的だったのです。
 アリシア人は二つの種族が互いに相いれないことを認識すると、エッドール人から接触の記憶を拭い去り、自分達の存在を秘匿することにします。そして、アリシア人自身ではどうあってもエッドール人を倒せないことから、エッドールを破壊する能力を持つ種族の育成に取り掛かります――それは、何億年もの後に第三段階レンズマンを銀河に誕生させるための、遠大な計画でした。
 時は流れ、二つの銀河にはアリシア人とエッドール人以外の知的種族が誕生していきます。エッドール人第二席ガーレーンは現地人に化け、各惑星の未熟な文化に入り込んで民主的な活動を歪めていきます。地球ではアトランティス、古代ローマ、そして近代にかけて、ガーレーンの魔手により無数の暴虐が行われたのです。しかし、アリシア人の密かな助力により、地球文明は少しずつ前進し、遂には太陽系進出を果たすまでに至ります。

 そして舞台は、地球・火星・金星の住人が手を組んだ三惑星連合の時代から始まります。
 惑星間定期客船ハイペリオン号に乗客として乗っていた青年コンウェー・コスティガンは、同じ乗客の美しい女性クリオ・マースデンとの歓談中、有毒のV2ガスに襲われます。それは、乗客を装って乗船した海賊の一味が、ハイペリオン号を奪取せんと目論んだものでした。
 けれども、コスティガンはまさにこの襲撃のために送り込まれた秘密要員だったのです。コスティガンとクリオ、ハイペリオン号船長ブラッドレーの三人は拿捕され、高度な技術を有する謎の海賊グレー・ロージャーの人工小惑星に連行されるものの、コスティガンの有する技能と装備により脱出に成功します。そして、三惑星連合軍の宇宙艦隊が集結し、ロージャーの人工小惑星と華々しい宇宙戦闘を始めたのです。
 ところが、ここで誰も予期していなかったことが起こります。別の太陽系から鉄を求めてやってきた両生型知的生命体ネヴィア人が、宇宙艦隊や人工小惑星から鉄を奪取し、コスティガンら三人を貴重な生命体サンプルとして拉致したのです。
 果たして、コスティガン達の命運やいかに。

 本書の注目ガジェットは、超種族エッドール人("Eddorians"、エッドア人とも)です。
 エッドール人は不定形で、どんな生命体にも化けることができる技能を有する生物です(軟体ではなく、体を任意に硬化させることが可能)。分裂で増殖し、誕生した子供は親の完全な記憶を受け継ぐとされています。彼らエッドール人は別の時空体系から我々の宇宙へやってきた生命体であり、この時点でアリシア人同様、精神攻撃以外では事実上の不死となっています。
(なお、作中ではガーレーンが、同じエッドール人の敵対者を殺したという記述があります。惑星エッドールの堅牢な障壁に守られていなければ、全くの不死というわけではない模様)
 不寛容・支配的・貪欲・冷酷・残虐と、極めて不快な連中ですが(^^;)、同時に知能が高く有能でもあります。その生存目的はほぼ権力のみであり、他者を支配することにこそ喜びを感じるようです。元々は同一種族間で延々と権力闘争を行ってきたのですが、互いに殺すことが不可能な段階に達したため、被支配者を求めて宇宙を移動してきたわけです。はた迷惑ですね(笑) とは言え、決して排他的な種族ではなく、自らの支配欲を満たす相手には十分な報酬を与える側面もあります。
 もっとも、このエッドール人、本書ではあまり良いところがありません。冒頭でアリシア人にあっさり接触の記憶を消されたほか、身内への猜疑心のせいでアリシア人の暗躍に気づけないばかりか、グレー・ロージャー(正体はガーレーン)が格下の地球人やネヴィア人に打ち負かされるなど(ガーレーン本人は無事ですが)、超種族の割には近視眼的かつ隙が多いようです。
 一方で、アリシア人は正体を隠した上で、数億年もかかる対エッドール生物兵器(=第三段階レンズマン(笑))の育成を計画するなど、用意周到さでは遙かに上です。正直なところエッドール人は、アリシア人であれば簡単にあしらえそうなチョロい相手のように感じられます。:-)
 にも拘わらず、これほどまでにアリシア人がエッドール人を危険視した理由を妄想(^^;)してみると、それはもしかしたら恐怖だったのかもしれません。エッドール人の物質・物理知識はアリシア人を上回る節があり、実際にボスコニア戦争最終局面では惑星アリシアの破壊手段を開発しかけていました。アリシア人にとってエッドール人は初めて接触する異星人であったはずですが、当初から和睦の試みを放棄している辺り、理念を共有できない対等の相手の存在に危惧を抱いた、という側面もあるように思われてなりません。

 さて、本書『三惑星連合軍』ですが、元々は〈レンズマン・シリーズ〉ではなく、単独のスペースオペラとして『銀河パトロール隊』より前に執筆されたもののようです。
 現時点で、単独版及び〈レンズマン・シリーズ〉版の"Triplanetary"はパブリック・ドメイン化されており、どちらも閲覧可能です。比較してみると、コスティガンの活躍する三惑星連合時代のお話はほぼそのままで、グレー・ロージャーの正体がエッドール人である点以外に大きな修正は行われていません。(元の作品では、ロージャーは地球人の血を引く不老の海賊と思われます)
 つまり、エッドール人にしては迂闊なガーレーンの行動は、無理矢理別作品を〈レンズマン・シリーズ〉に組み込んだことで生じた弊害なのかもしれません。そうすると、前述のエッドール人に関する考察もかなり的外れになってしまいそうですが(笑)
 一つ興味深いのは、本書後半で無慣性航法が実用化される部分です。ネヴィア人の技術に刺激を受け、三惑星連合軍の研究者クリーブランドとロードブッシュによって完成された慣性消去技術により、新型戦艦ボイス号が予期せず光速を越えてしまいます(^^;)
 このシーン、かなり『宇宙のスカイラーク』を彷彿とされるものがあります。ドク・スミスのもう一つの看板である〈スカイラーク・シリーズ〉では、相対性理論は現実に合わないものとして光速の壁をなかったことにしてしまいますが、『三惑星連合軍』では「慣性を消す」ことで突破するという(一応の)理屈が付けられているわけですね。この設定が〈レンズマン・シリーズ〉に受け継がれることになります。
 SF作品ではしばしば、超光速を実現するための架空の技術が作中に登場しますけれど、その嚆矢と言える無慣性航法はここから始まったわけです。なかなかに感慨深いですね。

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