ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン

[題名]:ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン
[作者]:ピーター・トライアス


 第二次世界大戦が枢軸国側の勝利で終結した世界にて、変容したかつてのアメリカ合衆国――ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパンの姿を、二人の主人公の目を通じて描く〈歴史IFもの〉です。しばしば、P・K・ディック氏の〈歴史IF〉『高い城の男』と、巨大ロボット&怪獣映画『パシフィック・リム』を混ぜ合わせたようだ、と表されたりします(^^;)
 前者に関しては、作者であるトライアス氏ご自身がはっきりと影響を明言されており、作品の雰囲気は近いところがあります。ただ、決して続編や二次創作ではなく、独自の世界構築がなされています。(個人的には、ディストピア小説『一九八四年』のテイストを強く感じる部分もありました)
 ただ、ロボットに関する部分はどうでしょうか。本作にはメカと呼ばれる巨大ロボットが登場しますけど、メインストーリーに大きく関わる要素ではありません。作品の重苦しく猥雑なタッチと打って変わって、メカ(及び、パイロットの久地樂)の登場する場面は、イメージ的にも技術レベル的にもかなり異質です。もっとも、それがアンバランスな魅力を醸し出している点でもあるのですが(^^;)

 一九四八年七月、第〇五一番戦時転住センターに強制収容されていた日系人らは、大日本帝国軍人により開放されることになりました。皇国は新型爆弾と、ビルより高い巨人を用いてアメリカとの戦争に勝利したのです。
 しかし、日系人のエゼキエル・ソンとルース・イシムラの二人は、軍人達が天皇への忠誠を強制すること、そして原子爆弾に壊滅させられたサンノゼの惨状を目の当たりにして不安を覚えます。
 そして、時は流れて一九八八年六月末、二人の息子である石村紅巧(べにこ:女性名であることがコンプレックス、通称ベン)大尉は、USJ(テーマパークではなくユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパンのこと(^^;))ロサンジェルスのサンタモニカ検閲局でゲームの検閲を行う仕事に就いていました。
 この時代には、電卓("portical")と呼ばれる個人用携帯コンピュータ(現実でのスマートフォンより更に進化したデバイス)が普及し、社会の様々な場面で活用されています。
 ベンの仕事は主に、電卓ゲームにおけるプレイヤーの反社会的な行動を取り締まることでした。しかし、彼の勤務態度は良好ではなく、怠惰で女性にだらしのない男だと周囲には思われています。ベンには両親を反逆罪で告発し処刑させたという過去があり、その忠義が評価されつつも軽蔑の対象になっていました。
 ある深夜、かつての上司である六浦賀将軍からベンに異様な方法で連絡がかかってきます。それは、娘のクレアが亡くなったため、キリスト教式で弔って欲しいという内容のものでした。
 夜が明けてベンが勤務先へ向かうと、そこには特高(特別高等警察)の槻野昭子が待ち構えていました。六浦賀将軍はテロリストグループのジョージ・ワシントン(GW)団と手を組み、アメリカが大戦に勝利したという内容の発禁扱いの電卓シミュレーションゲーム『USA』を違法に配布しており、昭子はそれを追っていました。そして、ベンがクレアの生死について問い合わせたことが、彼女の興味を引くことになったのです。
 昭子は高圧的かつ独善的で、任務遂行のために拷問も辞さない典型的な特高課員でした。そして、六浦賀将軍を捕らえるため強制的にベンを同行させます。ベンはその言動とは裏腹に、電卓プログラミングにかけては非常な有能さを見せました。
 しかし、GW団に捕らえられてしまった昭子は拷問を受けて両腕を失い、かつ捜査の過程で犯した殺人その他の行動で皇国憲兵から国賊の冤罪を被せられてしまいます。連行される途中、憲兵の車から昭子を救い出したのはベンでした。
 二人が生き延びる術はただ一つ、六浦賀将軍の首級を挙げ、その栄誉をもって冤罪を晴らすことです。かくして、ベンと昭子はある目的を持ってカタリナ島を目指すことになるのですが……。

 本書の注目ガジェットは、メカ("mecha")です。
 メカとは要するに、人間が乗って操縦する巨大ロボットのことです。大きさは様々のようですが、ハリネズミ號の場合は描写から推測して全高五十メートル前後でしょうか。形態も、四脚や二足歩行など様々です。
 メカのブリッジは頭部にあり、パイロットは無数のケーブルに繋がれた状態で球形のゼラチン媒質の中に浮かんでいます。壁は全てマジックミラーになっていて、全方位を見渡せます。操縦方法は詳細不明ですが、パイロットの動きをトレースして動くのではないかと思われます。
 ベンが直接乗せてもらうことになるのはハリネズミ號とムササビ號で、いずれもパイロットの名前は久地樂(くじら)ですが、同一人物ではなく親子です。母久地樂はUSJ最高のメカパイロットで、優秀過ぎる故に最高機密扱いになっています。また、メカに搭乗中は総帥権があり、多少の命令違反は咎められません。一方、久地樂少年の方は皇国に属さず、完全なアウトサイダーです。
 メカが開発されたのは大戦中ですが、その後も改良が続けられています。ただし、コンピュータのサポートにより操縦しやすくなった分、機械任せのためパイロットの意図しない動作が起きることがあり、旧型をエースパイロットが操縦した場合には新旧の強さが逆転している模様です。
 アニメや特撮の世界から出てきたような巨大ロボットですけれど、作中での登場シーンはさほど多くはなく、またストーリーにもあまり関連しません。他の世界設定と比較して技術レベルが異質ですし、二人の久地樂のキャラクタ性も陰鬱な監視社会であるUSJからは少し浮いているように感じます。もっとも、そのためストーリー上で強いアクセントとなっており、重苦しい展開が続く中でメカの場面は少しホッとする部分です(^^;)
 作者のトライアス氏は日本のサブカルチャーに強い影響を受けたようで、メカはそれらへのリスペクトのようです。作者ご自身のお言葉によれば、巨大な大日本帝国を象徴させたイメージでもあるようですね。イラストレーターのジョン・リベルト氏が描かれる表紙との相乗効果で、非常に格好いいガジェットであることは疑いありません。

 メカのことばかり語ってしまいましたが(笑)、本書の核となる部分はUSJというディストピアにあります。
 戦後のアメリカは、冷戦状態の日本とドイツにより分割統治されており、西側がUSJになります。この辺りはディック氏の『高い城の男』に近いものがありますが、社会形態はずっと踏み込んでいますね。天皇を神聖化した抑圧的な軍事国家が形成されていて、一見すると人々は普通に暮らしているように見えますけど、反逆を疑われると(事実であるかどうかに関わらず)あっという間に転落してしまう恐怖を秘めています。
 主人公の一人ベンは、過去の出来事のせいで立ち位置を見失っている男性です。実際はかなり有能かつ行動力のある人物なのですが、その言動にはどこか「自分」というものが欠けているように思われます。
 もう一人の主人公・昭子はいかにも特高課員らしい態度ですが、実際にはベン以上に自分を見失っているのかもしれません。似た部分がありながらもかみ合わない二人の様は、ときに滑稽ですらあります。
 この二人の主人公に加え、全ての元凶と言える六浦賀将軍、昭子に命令を出した若名将軍、そして暗黒街ボス・工匠や電卓ヤクザのモスキート、久地樂親子といった数多くの人々を通じ、日本に支配されたアメリカ、ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパンという社会が描き出されていきます。それは到底心地よい世界とは言えません。
 一方、日本の占領に抵抗してUSJの転覆を目論むアメリカ人グループのGW団も、もはや自由の志士ではなくテロリストと化しています。残虐さにおいてはUSJと大差なく、八方ふさがりですね。
 加えて、ナチスドイツ側は更に恐ろしい社会だとUSJの人々からは認識されていて、この作品世界の未来は暗澹たるものです。あるいは、その対立すらも『一九八四年』のごとく虚構であったりするのでしょうか。
 ディック氏の『高い城の男』は現実的な社会とは言いがたい(あまり日本人らしくない)設定でしたが、本作は歴史に「もし」があったらこうなったかもしれない、と思わせるリアリティがあります。
 余談になりますが、作中の時間は終戦時と現代(一九八八年)に加え、十年前と二十八年前のエピソードがありますけど、そのどれもが六月末から七月冒頭の期間内です。特に、サンノゼに原子爆弾が投下されたのは七月四日です。なかなか意味深ですね。

 作者のトライアス氏はゲーム制作に携わっていたことがあるようで、エレクトロニック・アーツの『ゴールデンアイ ダークエージェント("GoldenEye: Rogue Agent")』等複数のゲームのクレジットに氏の名前を確認することができます。本書作品中では、コンピューターゲームの開発に関わる部分が少なからずあり、トライアス氏の経験が生かされているのでしょう。
 「巨大なロボットがドンパチするSF」という(決して嘘ではない)紹介から軽い気持ちで読み始めると、予想外のストーリーの重さに驚くことになるかもしれません(^^;) 重厚な世界設定と、登場人物達が織りなすドラマ、サイバーパンクばりの猥雑さ、そして巨大ロボットが混ざりあう、異色の傑作〈歴史IF〉です。

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