Child of Earth

[題名]:Child of Earth
[作者]:E・C・タブ


※本レビュー後半では、大きなネタバレを含む考察を行っています。

 〈デュマレスト・サーガ〉第三十三巻にして最終巻です。(残念ながら、現時点で未翻訳)
 本巻はやや経緯が特殊で、別の形で発表された『Child of Earth』と『Figona』という二つの短編を一つにまとめたお話になります。どうやら、この二つは元々前日談として書かれたものらしく、短編版『Child of Earth』はデュマレストが地球を離れるときの、そして『Figona』は最初の惑星フィゴナにおけるデュマレストの成長を綴ったお話だと思われます。(短編版が入手できないため、詳細不明)
 おそらくはこの二つを『The Return』の続きとして再構成したことから、本書は妙に回想シーンの多いエピソードになっています(笑) ただ、単にデュマレストが自ら過去に思いを馳せるのではなく、むしろ強制的に思い出させられるという形式です。現在と過去を繋ぐのは、主要キャラクタであるシャンダハの特殊能力です。

 サイクランの罠を切り抜け、地球へと不時着したデュマレスト一行。しかし、その衝撃のせいで多数の死傷者が出てしまいまい、ナディーンも命を落としてしまいます。その上、着陸地点は氷と雪に閉ざされた場所で、カルダー人が期待した財宝も存在しません。
 デュマレストは船を離れて生き延びる術を探ろうと提案しますが、カルダー人達の一部は、地球にいるとされる伝説の〈輝くものたち〉("The Shining Ones")が助けてくれると信じていました。そして現実に、ハム音を立てて光る煙のような何かが現れ、デュマレストは意識を失います。
 彼が目を覚ましたとき、そこにはシャンダハ("Shandaha")と名乗る黒い肌の男がいました。彼は地球の一領主で、デュマレストを庇護したと言うのです。そして、同じ宇宙船にいた仲間は、医師のチャガル("Chagal")を残して全員死亡したと告げます。
 主人と同じ名前の〈シャンダハ〉というその施設は、命の危険こそないものの、外へ出ることはできませんでした。主人シャンダハの他には、ナダ("Nada")とデリーズ("Delise")という娘がいて、それぞれデュマレストとチャガルの世話をしてくれますが、実際のところ〈シャンダハ〉は牢獄でした。
 そしてシャンダハは、ホストとしてデュマレストにある要求をします。シャンダハは惑星バーツの少女メローム(『超能力惑星バーツ』参照)と同等の特殊能力を有しており、デュマレストの過去の記憶を再体験することを望んだのです。
 否応なしに引き出される記憶の合間に、シャンダハはデュマレストのルーツにまつわる決定的な齟齬を突きつけます。デュマレストは地球を離れるまで、宇宙や地球のことを何も理解していなかったはずなのに、(宇宙からしか確認できないはずである)過去の戦いの傷跡を地球が残しているとどうして知っていたのか、と。デュマレストはこれに答えられませんでした。
 しかし、現実主義者であるデュマレストは謎に煩わされることなく、支配者であるシャンダハの正体について推測を深めていきます。そして、チャガルと共に目論んだ〈シャンダハ〉脱出が不首尾に終わったとき、サイクランに関する思いもよらない秘密が明らかになります。
 シャンダハは何者なのか。そして、デュマレストが知った地球の真相とは……。

 本書の注目ガジェットは、ホモコン素子("Homochon Elements")です。
 ホモコン素子は、超巨大組織サイクランの中核を担う要素で、第一巻『嵐の惑星ガース』から登場する、シリーズでもお馴染みのガジェットですね。しかしながら、その詳細は謎に満ちています。
 ホモコン素子はサイバーの頭蓋の中に埋め込まれた生体素子で、普段は休眠状態ですが、サイバーがサマチャジの相("Samatchazi formulae")と呼ばれる瞑想状態に入ることで活性化されます。ホモコン素子が活動すると、サイバーは恒星間空間を超えた即時通信で、中央知性体と直接精神を結びつけ、情報交換を行うことができます。
 個々のサイバーも高い知能を有する人々ですが、ホモコン素子を使うことで、無数の生体脳を結合し超知性と化した中央知性体から助言を受けることができるわけです。また、中央知性体からの命令伝達や、サイバーから本部への報告など、情報伝達手段としても活用されています。
 もっとも、利点ばかりではなく、ホモコン素子が頭蓋中で肥大化すると命の危険に晒されることになります。作中ではサイバー・アヴロが発症していましたが、彼固有の症状だったのか、他のサイバーにも起きうることなのかは不明です。
 また、本巻ではホモコン素子に関する秘密が明らかになります。これに関しては、かなりのネタバレになってしまいますので、後述の考察で触れさせていただきます。

 ということで、本書にて〈デュマレスト・サーガ〉は全巻の終わりを迎えます。残念なことに、シリーズの中で語られた謎の多くが明かされないままです。
 ただ、そうした点を差し置いても、〈デュマレスト・サーガ〉は非常に壮大な物語であることは間違いありません。広大な銀河と無数の惑星世界、様々な怪物、多種多様な文明、複雑な社会構造、魅力的なヒロイン達。強大で冷酷な敵巨大組織サイクラン。そして何より、クールで寡黙ながら優しさを秘めたタフガイ、主人公アール・デュマレスト。
 故郷を探し求める普遍的な探索物語を、遥か未来の宇宙という舞台と見事に融合させた、ハードボイルド・スペースオペラの傑作です。

  §

 さて、作品紹介はここまでとし、以下はシリーズの残された謎について若干の考察を行いたいと思います。〈デュマレスト・サーガ〉全般、特に本書のネタバレを含むため、内容を知りたくない方はここで中断されることをお勧めします。
 考察と言っても、さほど根拠があるわけでもありません(^^;) あくまで一ファンの戯言としてお付き合いいただければ幸いです。

 レビューでも触れた通り、本巻ではホモコン素子に関連する伏線がいくつか開示されることになりました。これがその概略です。

・地球はサイクランに管理されたホモコン素子の農場である。
・ホモコン素子の正体は、変異させられた地球人の脳の一部である。
・デュマレストの脳内にもホモコン素子が存在する。
・限定的ながら、デュマレストは生身で中央知性体と交信を行うことができる。

 もっとも、一番下以外はデュマレストの推測によるものです。きっかけは、〈シャンダハ〉からの脱出を試みた際、デュマレストが中央知性体からの情報受信状態に陥ったことです。そこから、自分がホモコン素子を有していることと、その理由を考察したわけですね。この「デュマレストの脳内にもホモコン素子が存在する」が事実であり、かつ以前から交信可能だったとすると、作中の二つの謎が解けることになるかもしれません。
 一つは、中央知性体からデュマレストへの情報引き出しです。シリーズ中、デュマレストはしばしば危機的状況に陥りながらもそれを切り抜け、サイクランですらその悪運の良さを単なる偶然ではないと考え始めていました。主人公補正という身も蓋もないメタな説明を除けば(^^;)、これはデュマレストは無意識に中央知性体の情報を盗み見ていたということで説明がつくのではないでしょうか。〈デュマレスト・サーガ〉世界最強クラスの知性の力を借りられるなら、様々な局面、特にサイバーとの対峙において有利になることは疑いありません。
 もう一つは、逆にデュマレストから中央知性体への情報の逆流可能性です。知っての通り、中央知性体は深刻な異常を抱えており、いくつかのサイバーの脳髄が狂気を起こし始めています。原因が明かされないまま物語は終わってしまいましたが、仮にデュマレストのサイクランに対する憎悪がホモコン素子を通じて伝達されていたとしたら、それが知性体の異常を引き起こしたとは考えられないでしょうか。サイバーは若い時期に感情を手術で除去されていますが、サイバー・アヴロの惑星ヘヴンでの体験にある通り、精神的な繋がりによって影響を受けるようです。デュマレストの憎しみを浴びたことで、脳が内に籠ったり、あるいは自傷的になったりすることはありそうに思われます。また、それほど昔から起きているわけではなさそうなので、時期的にも符合しますね。

 上記の「以前から交信可能」が外れだったとしても、ホモコン素子の存在は今後のデュマレストにとって有力な要素であることは間違いないでしょう。サイクランはホモコン素子を利用して、中央知性体を核とする強力な情報ネットワークを形成しているわけですけれども、これに非サイバーからのアクセスが可能であるとしたら、存続自体の危機に瀕することになります。
 デュマレストは本書巻末で、精神共生体を武器にサイクランと戦うことを決意しますが、ホモコン素子の存在はそれ以上に重要かもしれません。なにしろ、彼の同胞たる地球人はホモコン素子を有しているのですから。デュマレストがホモコン素子を使えることをサイクランが気づいていないのであれば、なおのことです。
 果たして、デュマレストの戦いはどのような結末を迎えるのでしょうか。E・C・タブ氏亡き今、そこから先は読者の心の中にあります。

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