The Return

[題名]:The Return
[作者]:E・C・タブ


 〈デュマレスト・サーガ〉第三十二巻です。
 本巻は現時点で日本語に翻訳されていないのですが、実は執筆自体は前巻『最後の惑星ラニアン』からそれほど間を置かずに完了していたようです。詳細は不明ですけれど、出版社絡みのトラブルがあった模様(経緯は後述)。
 本レビューは英語版を元にしていますが、英文の読み違いがあるかもしれません。あしからずご了承ください。また、訳語はかなり適当です。:-)
 タイトル通り「地球への帰還」が描かれることから、仮に日本語版の題名ルールにのっとるとしたら、やはり『故郷の惑星・地球』が相応しいでしょうか。もっとも、地球は最後の最後に登場するだけなので、むしろ『略奪惑星カルダー』とした方が適切かもしれません(^^;)
 地球に持ち帰るための貨物を略奪され、それを取り戻したデュマレスト。彼は略奪者カルダー人達を雇い、地球へ帰還するための最後の旅に向かいます。

 地球の座標を手に入れたデュマレストは(『最後の惑星ラニアン』参照)、荒廃した地球へ太陽光発電装置を大量に持ち帰ろうと、商取引の活発な惑星アーパガス("Arpagus")へやってきていました。
 ところが、突如来襲した宇宙船によりアーパガスの倉庫が略奪に遭い、貨物は奪われ、多数の死傷者を出してしまいます。そのとき、倉庫の番犬を殺害した女に出くわしていたデュマレストは、その女ゼハヴァ・ポステル("Zehava Postel")が惑星カルダー("Kaldar")の略奪者一味であることを白状させました。しかし、略奪船は既に去り、デュマレストの貨物も持ち去られてしまいます。
 カルダーは惑星全体が略奪を是とする星で、奪ってきた戦利品を競売にかけて利益を得ていました。デュマレストはゼハヴァを伴い、装置を取り戻すため惑星カルダーへと向かうことにしました。途中、ゼハヴァは次第にデュマレストへの好意を示すようになります。
 カルダー到着後、なんとか太陽光発電装置を取り戻したデュマレストですが、代わりにカルダー人の反感を買ってしまいます。これをなだめる意味もあり、デュマレストは装置の地球への輸送にカルダー人の宇宙船ジニア号("the Geniat")を雇うことにしました。この輸送には、有力者の姪ナディーン・カヴァロ("Nadine Cavallo")も同行することになります。
 けれどもその途中、エアハフト・フィールド・ジェネレーターの調速機が故障し、ジニア号は修理のため辺鄙な惑星フィオヌラ("Fionnula")へと立ち寄ることになります。異邦人を歓迎する意を表したフィオヌラ人ですが、どこかおかしな点がありました。
 果たしてデュマレストは、再び地球へ向かうことができるのでしょうか。そして、手に入れた座標に、本当に地球はあるのでしょうか。長きに渡ったデュマレストの旅は、ついにクライマックスを迎えます。

 カルダー人("Kaldari")は男女問わず粗暴かつ短絡的で、臆病であることを恥とする人々です。あまり良い隣人とは言い難い連中ですけれど(^^;)、その分冒険心に富んでいます。
 カルダーは他の星を襲撃して財産を奪うことで社会が成り立つ、いわゆる略奪経済を行っている惑星のようですが、住人の性格が災いしてか、あまり社会的な統率は取れていない模様です。
 また、惑星カルダーにはガンニ("ganni")と呼ばれる労働種族がいます。異なる太陽系から奴隷として連れてこられた人々で、体の大きさは大人の人間と同じですが、顔は知的障害のある子供のようにうつろで、非常に無気力です。人類の亜種か、あるいは非人類なのかもしれません。

 本作にはゼハヴァとナディーンのダブルヒロインが登場します。
 ゼハヴァはあらすじにある通り典型的なカルダー人で、その性格は非常に苛烈です。終盤の展開もあって、強く印象を残すキャラクターですね。もっとも、デュマレストから見たら自分の荷物を略奪した連中の仲間なので、ゼハヴァへの態度はかなり素っ気ないように感じられます。
 一方、ナディーンはお嬢様気質で、思いやりのある穏やかな女性です。ただ、こうした性格はカルダーでは尊ばれないようで、特にゼハヴァからは臆病者と毛嫌いされています。デュマレストも、ナディーンを「生まれる星を間違えた」と評しています(^^;)
 なお、ナディーンにはもう一点、読心能力者という特徴があります。これはテレパシーのような超自然能力ではなく、『秘薬の惑星エリシウス』に登場したザルマンと同じ、相手の仕草から内心を読み取る技術です(作中には"Balman"とありますが、これは"Zalman"の間違いでしょう)。この能力もあり、ナディーンはかなり有能ですが、同時に孤独でもあります。ただ、ザルマンのように知ったことを考えなしに口に出してしまうという悪癖はないようです(笑)

 なお、本書では一つ、重要なポイントにデュマレストが気づくことになります。それは、サイクランと宇宙友愛教会の関係についてです。
 両者は〈デュマレスト・サーガ〉における超惑星国家規模の二大組織で、かたや理性と真理の信徒、かたや感情と友愛の信徒として、表立ってはいないものの対立しています。
 ところが惑星カルダーにおいて、デュマレストは教会のブラザー・ヴァイヤー("Brother Weyer")から、地球を探すべきではないと警告を受けます。地球は災いを閉じ込めた箱であり、その箱を開けてはならない、と。
 つまり、宇宙友愛教会は地球の存在を知っており、かつ〈聖地教徒〉の伝説にも通じ、更には地球の存在が公になることを良しとしていないわけです。この点において、サイクランと教会は同じ立場を取っています。その上どちらの構成員も、享楽を拒絶し目的に人生を捧げる、ローブを着た禿頭で痩せぎすの男達とあっては、疑うなというのが無理ですね(笑)
 デュマレストはサイクランと教会に対し、一枚のコインの裏表なのではないかと疑念を抱きます。残念ながら事の真相は明らかにされずじまいですが、「地球を探すな」という言葉はデュマレストにとって受け入れがたいことですから、彼が宇宙友愛教会に不審を抱いたのは当然かもしれません。

 さて、『The Return』の経緯について少し触れておきましょう。
 〈デュマレスト・サーガ〉は第九巻『幻影惑星トーマイル』以降、アメリカの出版社DAW Booksから出版されており、創業者のドナルド・A・ウォルハイム氏はこのシリーズを永遠に続かせる、つまりデュマレストは決して地球に辿り着けないことを意図していたようです(^^;)(もっとも、作者のタブ氏としては、一旦地球に帰還した後、新たな展開を構想していたそうですが)
 けれども、ウォルハイム氏が亡くなって娘のエリザベス氏へ代替わりしたとき、DAW Booksは女性読者を対象とする方向へ舵を取ることになります。このため、マッチョな主人公の〈デュマレスト・サーガ〉は敬遠され、打ち切りとなったものと思われます。
 しかしながら、『The Return』は打ち切りが決まった時点で執筆が終わっており、フランス語版のみが翻訳されて出版にこぎつけたほかは、原語であるはずの英語版も含めてお蔵入りになってしまったようです。英語版はその後、別の出版社の働き掛けで出版されることになったのですけど、残念ながら日本語訳版は未翻訳のままです。
 なお、タブ氏ご自身は、前巻『最後の惑星ラニアン』をシリーズの区切りと捉え、本巻はデュマレストの地球における新たな冒険の始まりと意図していた模様です(とは言うものの、地球には到着しただけですが(^^;))。『Child of Earth』はかなり番外編的な作品のため、メインストーリーとしては本書が最終話に近いのかもしれません。

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