天翔ける惑星ザブル

[題名]:天翔ける惑星ザブル
[作者]:E・C・タブ


 〈デュマレスト・サーガ〉の一エピソードです。
 日本語版では二十四巻になりますが、英語版では本来二十五巻に相当します。また、次巻『女帝の惑星ジュールダン』と話が繋がった、実質的には前後編となっています。
 ある経緯から、黄道十二宮の描かれた冬眠容器を目にすることになったデュマレスト。その装置の持ち主達は、人工世界ザブルに生き、地球へ帰還することを夢見る人々だったのです。

 惑星シャードの郊外で、デュマレストはイバラに囚われ身動きができなくなっていた少年を助けます。しかし、それは追いはぎ達の仕組んだものでした。
 荷物を奪われてしまったデュマレストですが、なんとかそれを取り戻すことに成功します。その過程で渡り者の女性カリーナ・ダヴァランクと親しくなりました。
 カリーナは絵を嗜んでいたのですが、彼女の絵の中に、デュマレストは黄道十二宮の浮き彫りを施された箱を見つけます。惑星カヴァルでその冬眠容器を目にしたのだというカリーナを信じて、デュマレスト達はその星へと渡ります。
 箱は確かに存在し、デュマレストは職人から制作依頼主のことを聞き出そうとしますが、職人はそれを明かそうとはしません。そして、これもまたサイクランの仕組んだ罠だったのです。進退窮まったデュマレストは、運を天に任せ、出荷直前の冬眠容器の中に身を潜めることにします。
 次に彼が目を覚ました場所は、人工天体ザブルでした。ザブルで暮らす人々テリディーは、地球の存在を信じ、いつか自分達がそこへ帰還するのだという教義を抱く〈聖地教徒〉だったのです。そして疑わしいことに、惑星カヴァルで知り合った気のいい仲介人ヌーバー・クシュが、デュマレストの入った冬眠容器に付き添ってザブルを訪れていました。
 果たしてクシュは見かけどおりの人間なのか、はたまたサイクランの手先なのか。そしてザブルには地球への手がかりが残されているのか――デュマレストはザブルの運営側に深く関わっていくことになります。

 本書の注目ガジェットは、ザブルです。
 ザブルは無数の宇宙船を寄せ集めて作られた一つの世界で、どの恒星系からも離れた場所に浮かんでいます。言わばスペースコロニーであり惑星ではないのですが、詩的表現としてはアリですね(^^;)
 ザブル上の人間はテリディー("Terridae")と自称しており、デュマレストはその名称がテラ("Terra")から来ているのではないかと推測しています。詳細不明ですが、貧困とは無縁のようです。
 テリディーの中には、地球へと帰還する「変革の時」到来前に寿命が来るのを恐れ、自ら人工冬眠に入って千年以上も待ち続けている者もいます。このための装置が、あらすじに登場する冬眠容器ですね。贅を凝らした作りになっており、同じ人工冬眠である下等宇宙旅行のように死亡率が高かったりはしないようです。この装置技術を下等旅行に使えば良さそうに思われますが、そうなっていないのは維持費が高いからでしょうか。〈デュマレスト・サーガ〉の世界は、どうにも命の値段が安いですから(^^;)

 これまでに登場した〈聖地教徒〉は文明から遠ざかった生活を送っている人々でしたが、テリディーは高い文明レベルを維持しているようです。ただし、地球を神格し理想郷と見做している点は同じで、デュマレストは地球に関する人々の質問に苦慮することになります。
 デュマレストの故郷が地球ではなくそれを詐称する遅れた星ではないかと指摘する者もおり、これに対してデュマレストが反論できない皮肉な場面があります。実際、デュマレストが主張する地球の実在は客観的な裏付けがほとんどなく、証明する手段もないわけです。展開によっては、「全人類の故郷たる惑星・地球」はただの伝説に過ぎず、デュマレストの妄想だった――などという強引なオチも成り立つかもしれません。(読者に納得してもらえなそうですけど(笑))

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