いさましいちびのトースター火星へ行く

[題名]:いさましいちびのトースター火星へ行く
[作者]:トーマス・M・ディッシュ


※このレビューには前作『いさましいちびのトースター』のネタバレがあります。ご注意ください。

 このお話は、主人を探しにいく電気器具達の冒険を描いた『いさましいちびのトースター』の続編にあたる童話です。
 今回、トースターを始めとする器具達が出かけるのは、タイトルにありますように火星です。前作では郊外の夏別荘から都会への旅というささやかなものでしたが、今度は宇宙空間を超えてお隣の惑星だというのですから、大変なスケールアップですね(^^;)
 また、前作ではほとんどSFらしい部分のない、純粋なおとぎ話に近いものでしたけど、今作ではその移動方法も含めてSF的な側面がいくつか見受けられます。とは言うものの、童話としての体裁を損なうほどではありませんし、小さな子供から大人まで楽しめる暖かい物語であることは請け合いです。

 前作での冒険を終えて、お年を召したバレリーナに仕えることとなったトースター達五台の電気器具。新たに電子レンジ等の仲間を加え、几帳面な女性主人の下で器具達は幸せに暮らしていました。
 そんなある日、奥さまが以前バザーで買ってきた補聴器のことで器具達は少しばかり議論になります。補聴器は電池が切れており、旧式電池のため補充もできません。奥さまは買ってきたきりその補聴器のことを忘れて放置してあったのですが、器具達はこの電池を何とかできないものかと相談していたのです。
 協議の結果、電池に詳しい電卓が補聴器の充電を試みることになりました。そして首尾よく息を吹き返した補聴器は、驚きの事実を皆に告げます。
 なんと、この補聴器の発明者はかの高名なアルバート・アインシュタイン博士であり、かつ試作品であるこの補聴器を博士が愛用していたというのです。(補聴器発明のくだりは史実だそうです)
 しかも、補聴器はアインシュタイン博士のパートナーとしてずっと働いていたため、博士が完成させた(世間では完成しなかったと思われている)統一場理論を全て理解していました。そして理論を応用した役立つ知識を仲間の電気器具達に教えてくれたのです。
 その結果、掃除機は重力を制御する方法を使い、以前よりもゴミを簡単に吸い取ることができるようになりました。また、目ざましラジオもオーストラリアのような遠方のラジオ放送を受信できるほど感度が向上します。
 ところが、ここである奇妙なことが起こりました。感度の増した目ざましラジオは、なんと火星からのラジオ放送をも受信してしまったのです。
 その放送は電気器具が行っているもので、地球を侵略して人間達を殺してしまおうという恐ろしいものでした。奥さまを敬愛する器具達にはとても許しがたいことです。
 なんとかその侵略を食い止めようと、トースター達は一念発起し、火星へと旅立つのでした。

 本書の注目ガジェットは、火星旅行です。
 補聴器は前述の通りアルバート・アインシュタイン博士の愛用物で、統一場理論に基づく脱重力の方法を掃除機に教えています。この手段を宇宙旅行へと応用するわけです。
 現実では、アインシュタイン博士は重力と電磁気力の統合を達成できなかったと言われています。作中では、この理論は完成したものの、悪用を恐れて公表しなかったとしているようです。
 童話ながら、つじつま合わせがSFらしくて面白いですね。

 火星に存在するのはポピュラックス火星解放軍を自称する電気器具達で、パンの代わりにミサイルがポップアップする戦闘トースター、地球の大気を吸い尽くそうとする軌道掃除機大隊、焼夷ビスケット・ウォーマー等、恐ろしくもどこかユーモラスな面々です。
 これらポピュラックス製品達は、人間に使役される仲間の電気器具を解放するべく決起しているのですが、その由来や、トースター達がいかにそれらと対峙するかという点がなかなか凝っています。
 前作の居場所を探す旅と比べ、本作は地球の危機を救うというかなり大仰な目的ですけど、明るく楽しい作品のイメージは変わりありません。旅の途中で出会う風船達のエピソード等、思わず微笑んでしまう場面がいくつも登場します。
 と言うわけで、ご愛用のトースターがいつの間にか擦り傷だらけになっていたとしても、大事に使ってあげてください。地球侵略を阻止するために、人知れず火星へ旅行してきたのかもしれませんから。

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