空想惑星エスリン

[題名]:空想惑星エスリン
[作者]:E・C・タブ


 〈デュマレスト・サーガ〉第二十一巻です。
 本巻において、我らがデュマレスト君は仮想世界へ赴くことになります。何でも意のままに創造でき、望むものは全て手にすることができる夢のような世界です。
 ある登場人物はそれを天国と呼び、デュマレストはこう呼びます――地獄と。

 農耕惑星オノールディのとある村を訪れていたデュマレストは、そこを襲撃した奴隷狩りに遭い、他の村人もろとも捕まってしまいました。
 彼が連れて行かれたのは、女尊男卑の惑星エスリンでした。奴隷商人ヒルダ・ヴロウムは、エスリンの女皇キャスリン・アカバロンにデュマレストを売り込もうとしたのです。自分が売られようとする最中、デュマレストは隙を突いてヒルダを殺害し、キャスリンを盾に取ってエスリンを脱出しようとします。しかし、ガスを使われたせいで昏倒し、失敗に終わります。
 目を覚ましたとき、デュマレストは殺人と女皇の命を脅かした罪を問われ、その刑罰は串刺し刑でした。けれども、そこへキャスリンの夫グスタフが提案を持ちかけます。キャスリンとグスタフの娘イドゥナが異星の古美術品タウに心を囚われて昏睡状態にあり、それを救ってくれれば自由を提供すると言うのです。デュマレストには選択の余地がありませんでした。
 イドゥナが昏睡に落ちたのは十二歳の頃でしたが、今は美しい娘に成長していました。身体的には何も問題ないのにも拘らず、その精神だけが別の場所に閉じ込められたように、ずっと目を覚ましません。幾人かの男女がイドゥナを救おうと同じようにタウに触れてみたものの、いずれも廃人と化していました。
 何故、イドゥナだけが昏睡のまま生き続け、他の者の精神は死んだのか。その違いはイドゥナが子供だったからなのではないかと見当を付けたデュマレストは、子供のようにありのままに受け入れる心境でタウに触れます。
 その試みは上手くいき、彼はタウの作り出した世界へ精神のみ入り込みます。そこは、自分の考えたこと全てが実現する、神となれる場所だったのです。果たして、デュマレストの救助対象であるイドゥナもそこにいました。けれども――。

 本書の注目ガジェットは、異星人文明の遺物タウです。
 タウは丸く節くれ立った物体で、「人間の頭の二倍の大きさ」とあるところから直径五十センチメートルほどでしょうか。凹凸のある表面には虹のような光が明滅し、かなり美しいもののようです。
 人間がタウに触れると、意識だけが仮想世界に引きずり込まれ、肉体は昏睡状態になります。タウ内の世界では、ありとあらゆる望みがただ念ずるだけで叶い、全能の力をふるうことができます。(同じように取り込まれた別の人間と、望みがバッティングする場合を除く)
 ある意味非常に理想的な環境ですが、一方でそこには自分が作り出したもの以外が存在しません。他者の全く存在しえない世界で、果たして人は満足できるものでしょうか。

 タウ内部世界において、デュマレストが過去を追体験する場面があり、ここでかつての恩人である船長が登場します。
 彼はデュマレストが地球から密航した船の船長で、本来なら船外へ放り出してしまうところ、代わりに彼が船に留まることを許し、教育を施してくれた人物です。登場するのは、タウ内部世界でデュマレストが作り出したものであり、本人ではありませんが、デュマレストを厳しくも優しく導いてくれます。
 デュマレストは人にも自分にも厳しい生き方を求めつつ、できる限り弱者にも手を差し伸べる優しさを持つナイスガイですが、この人格形成は船長あってのものですね。作中で登場するのはごくわずかですけれど、非常に印象的なキャラクタです。

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