大尉の盟約

[題名]:大尉の盟約
[作者]:ロイス・マクマスター・ビジョルド


 L・M・ビジョルド氏の人気シリーズ、〈ヴォルコシガン・サガ〉に属するお話です。
 原書では"Cryoburn"の後に発表されたエピソードなのですが、時系列的には本書の方が前であり、このためか日本語版はこちらが先に翻訳されたものと思われます。
 原題"Captain Vorpatril's Alliance"にあるように、本書はマイルズ・ヴォルコシガンの従兄弟イワン・ヴォルパトリル大尉に焦点を当てた物語です。「動いていないと死んでしまう病」を患ったマイルズの陰で、その被害をさんざんに受けてきたイワン君ですが(^^;)、今回はマイルズ抜きで騒動に巻き込まれてしまいます。
 奇妙な縁で、ある女性テユと偽装結婚することとなったイワンは、そのせいでテユの家族であるジャクソン人と関わることになります――彼らがバラヤーでとんでもない騒ぎを引き起こすことになるとはつゆ知らず(笑)

 マイルズの旅行(前作『外交特例』)から三年ほど後、イワン・ヴォルパトリル大尉は相も変わらず、結婚も昇進も望まずにのらりくらりと気ままな独身生活を謳歌していました。彼は今、帝国軍作戦本部長官デスプレインズ提督の補佐として、惑星コマールへの出張に同行しています。
 そのイワンの下を、バイアリー・ヴォルラトイェルが訪れてきました。バイアリーは民間人を装った機密保安庁諜報員ですが、自分の諜報活動に関連して被害に遭いかけている女性ナーニャを連れ出してほしいと彼に依頼します。危惧を抱くものの、女の子のピンチとあらばイワンに断る術はありませんでした(^^;)
 かくしてナーニャに近づくイワンですが、その部屋へ入った途端、スタナーで撃たれて気絶させられてしまいます。彼女は実はコマール人ナーニャではなく、先だって攻め滅ぼされたジャクソン統一惑星商館の娘テユでした。遺伝子操作で造られた生きた宝石であり姉でもあるリッシュと共に、敵対商館の追っ手から逃げ回っており、イワンは誘拐犯だと勘違いされてしまったのです。
 本物の誘拐犯が現れたことで誤解が解け、とりあえず自分の仮住まいにテユとリッシュを匿うことにしたイワン。ところが今度は警察に、失踪した二人をイワンが誘拐したのではないかという嫌疑をかけられてしまいます。もしテユ達を警察に引き渡してしまえば、二人は国外退去となり、ジャクソンからの追っ手から逃れることはできません。
 そこでイワンが思いついたのは、イワンとテユの偽装結婚でした。イワンはバラヤー貴族たるヴォルであり、テユが彼の妻となれば国外退去の恐れもなくなります。この思い付きは功を奏し、イワンは二人を連れて惑星バラヤーに帰国しました。
 逃亡のための偽装結婚という形式を超えて惹かれあっていくイワンとテユ。しかしそこへ、死んだと思われていたテユの家族達が、地球にいた祖母と共にバラヤーへやってきたのです。テユは再会を喜ぶものの、したたかなジャクソン人である彼等はテユに会うためだけにバラヤーを訪れたわけではありませんでした。
 その野望のため、首都ヴォルバール・サルターナは未曽有の混乱に陥ることになります。果たして二人の恋の行方は……(^^;)

 本書の注目ガジェットは、細菌穿孔器("Mycoborer")です。
 テユの家族であるアルクワ一家の目的は、ヴォルバール・サルターナの地下に隠された財宝を手に入れることです。ただし、発掘がバラヤー人に見とがめられることは避けたいため、ドリルやらプラズマ・ビームやらを使った物理的掘削は使えません。そこで、無音で土を掘り進む細菌穿孔器が使用されることになります。
 この細菌穿孔器は、バイオテクノロジーにより作り出された、掘削を行うための生物です。日本語訳では「細菌穿孔器」(もしくは「細菌穿孔機」)となっていますが、原文では"myco-"(菌類の)+"borer"(穴をあけるもの)ですし、作中にも菌糸という表記がありますので、どちらかと言うとキノコ・カビ類なのかもしれません。
 細菌穿孔器は棒状に固められており、それを必要量だけカットして土に埋め込み、アンモニアを撒くことで活性化されます。菌は土を食べて穴を掘り進み、壁の周囲を排出物で固め、決められた時間経過後に自滅します。結果として、そこそこ丈夫なパイプもしくはトンネルが形成されるわけです。
 便利そうですが、作中ではこの細菌穿孔器はまだ実験段階で、実地テストが行われていません。そんなものが作ったトンネルに潜るのは遠慮したいところですね(^^;)

 本巻はほぼシリアス分のないコメディ回で、特に終盤の機密保安庁司令部ビルの顛末はほとんどコントのノリです(笑)
 物語はイワン視点とテユ視点が交互に繰り返される形で進行していきます。どちらも三人称なので区切りが分かりづらい場所もありますが、テユ視点では一貫してイワンがミドルネームを含めた「イワン・クサヴ」と地の文で表記されるため、そこで区別することができます。
 今回のマイルズ君はほんのチョイ役ですが、イワンから見た従兄弟の鼻持ちならなさ(^^;)が見て取れるのが面白いですね。子供もすくすくと成長し、幸せな家庭を築いている模様です。
 また、アルクワ一家は極めて濃いキャラクタ揃いなのですけれども、特にテユの祖母レディ・モイラ・ゲム・エスティフが個人的お気に入りです。セタガンダの元ホート・レディという特異な立ち位置で、高齢ながらも誇り高い老貴婦人ですが、どこか抜けたところに愛嬌が感じられます。

この記事へのコメント

この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/428789280

この記事へのトラックバック