希望の惑星アス

[題名]:希望の惑星アス
[作者]:E・C・タブ


 〈デュマレスト・サーガ〉第十八巻です。
 今回の舞台は、ある特殊な事情を抱えた惑星アス("Ath")。デュマレスト君ならずとも、「それって地球("Earth")と関係があるんじゃ……」と疑う惑星名ですが、残念ながら(シリーズ途中ですので(^^;))まだ地球に到達することはできません。しかし、予期せぬ理由によりデュマレストは地球の在り処に関わる情報を掴みかけることになります。

 惑星ジューバのスラム〈迷路〉にて、デュマレストは強盗に襲われていた女性サーディアを助けました。
 サーディアは元ダンサーで今は美術商をしているのですが、〈迷路〉にいる男から仕入れた絵画に非凡な才能を見出し、その画家と接触するためにジューバを訪れていたのです。デュマレストは絵画に興味などありませんでしたが、サーディアの持っていた絵を見せられ、驚きます――そこには、彼自身が子供のころに見上げた、地球の月が描かれていたからです。
 二人は協力し、画家がジューバではなく別の惑星アスにいることを突き止めました。その名前にいっそう興味を掻き立てられるデュマレストでしたが、紹介料と運賃が足りないためやむなく闘技場で戦い、辛くも勝利をおさめます。そして、サイクランの追っ手を撒くためにトリックを使い、宇宙船シヴァス号へ乗り込んでアスに到達しました。
 アスは地球ではないものの、他の惑星とほとんど関わりを持たない奇妙な世界でした。ここでは支配階級〈ショード〉と被支配階級〈オーム〉が存在し、〈ショード〉は仕事もせず楽園のような世界で何一つ不自由なく暮らしています。アスには宿泊施設すらなく、外世界からの来訪者を〈ショード〉が客人として迎える権利を競うという風習がありました。
 サーディアが探し求めた天才画家コーネリアスは、お気楽に生きる大勢の〈ショード〉の中では例外的に、絵画を描くことにのめりこんでいました。そして、自分の絵の理解者であるサーディアに惹かれていくことになります。
 一方、〈ショード〉の女性アーシュラの客となったデュマレストは、ふとしたことからアーシュラが地球に関する知識を有していることを知ります。彼は慎重に、アーシュラから地球のことを聞き出そうと試みるのですが……。

 本書の注目ガジェットは、〈ショード〉です。
 作中における〈ショード〉が持つ能力の扱いは重要ですので、少々ネタバレになってしまうのですが……ごく簡単に説明すると「脳内ググり機能」です(笑)
 人間が、その知識を学習して獲得するのではなく、外部のデータベースに対して(自分の知識同様)容易にアクセスすることができるとしたら、果たしてそれは当人の知力と言えるのかどうか、という点が興味深いですね。実際のところアイザック・ニュートン氏の「巨人の肩の上」という言葉にあるように、私達は先人の築き上げた知識データベースを基に教育がなされるわけですから、そう簡単に切り分けられないとは思いますが。
 現状でもインターネット上には膨大な情報が存在しており、「脳内」でこそないものの私達は検索エンジン等を通じて容易にアクセスし、己のものとすることができます。実を言えば、このレビューもそうです(「巨人の肩」の言葉は、検索してニュートン氏が原典ではないことを知りました(^^;))。さて、このレビューは「私が書いた」と胸を張っていいものでしょうか……。

 本シリーズの主人公アール・デュマレストのキャラクタ的特徴の一つが素早さです。反応速度や肉体の動きはしばしば他者が目を見張るほどで、俊敏性をもってピンチを切り抜けることも少なくありません。
 ところが、本書では闘技場で、素早さにおいてはデュマレストを上回る闘士イーマと戦う羽目になります。危機的状況ではあるものの、デュマレストは冷静に相手の力量を見極めることで戦いに辛勝します。
 イーマは闘士としてはプロフェッショナルでも、純粋に生き延びるための経験値ではデュマレストにかなわなかったようですね。ただ単に身体的能力が高いというだけではない、総合的な意味での強さがデュマレストの魅力と言えるでしょう。

この記事へのコメント


この記事へのトラックバック