都市

[題名]:都市
[作者]:クリフォード・D・シマック


 本書『都市』は、人類の衰退を長大なスケールで描いた短編オムニバスです。
 このお話の面白い点は、作品自体が犬の視点で解説されていることです。収録された八つのエピソードそれぞれに対して、『第N話への覚え書き』という形で〈犬類〉の伝承研究者の見解が挟まれ、その内容に関しての(犬から見た)説明がなされています。
 つまり前提として、本書は「知的生物となった犬が、人類滅亡後にその伝承を編纂したもの」という形態を取っているわけです。人間は神話化され、存在そのものが架空のものだと一般的には受け止められています(人間が実在の生物だと考える犬も一部あり)。
 社会構造の変革により、都市を持たなくなった人類。しかし、それは大いなる衰退の第一歩でもあったのです。

 時は二十世紀末、原子力利用の進展と小型飛行機の普及、そして水耕栽培の発達によって、人々は狭苦しい都市生活に縛られることはなくなりました。多くのものが都市を捨て、広い郊外へと居を移していきます。その結果、かつて大都会だったものは例外なく寂れ、その道路は整備されぬまま荒れ果てていきます。
 しかし、中には都市に留まり続ける者もいました。昔を懐かしむ老人、往くあてのない浮浪者、そして権力に固執し続ける為政者達です。
 ジョン・J・ウェブスターも市会議員として都市に留まっていた一人でしたが、すでに失われて久しい巨大都市の幻にすがり続けることに嫌気がさし、自然豊かな土地へとウェブスター家を移すことに決めます。
 こうして都市は消失し、人々は地球の各地に離れて点在するようになりました。しかしそれは同時に、社会性生物であった人間の協調心が希薄化することでもあったのです。
 そして、ウェブスター家の者は人類文明の衰退と大きく関っていくことになります。
 ジョン・Jの子孫ブルース・ウェブスターは、人類が知的生物として孤立しているのが良くないのだと考え、共に歩むべき存在である犬に喋る能力を与えました。異なる思考形態を持つ両者が手を携えれば、もっと文明は豊かになるはずだと。
 しかし、人類の終焉は思いもよらないところからもたらされることになるのです。

 本作の注目ガジェットは、犬の文明です。八つのエピソードを挟む形で挿入される覚え書きで、断片的ではありますが〈犬類〉がどのような文明を築いているのか伺い知ることができます。
 人間は完全に滅んでいて、あくまで伝説上の存在でしかありません。ウェブスター家のものが人為的に犬を進化させたという逸話は、どちらかと言うと真面目には受け止められておらず、神話として扱われています。
 生物としての犬は、我々が知るものとそれほどかけ離れてはいないようです。身の回りの手伝いはロボットにやらせているようですが、犬にとってロボットは非常に身近な存在であるため、ほとんど体の一部と見なされています。
 面白いのは、犬の文化が人間とは異なる方向性を持っているらしき点です。例えば、エピソード中に登場する宇宙旅行はただのホラ話と考えられています。かなり高度な文明を有しながらも、夜空に輝く星々が別の世界であることを犬達は知らないわけです。

 短編連作の形で発表されてきた経緯からか、各エピソードには様々なアイディアが盛り込まれています。第一話『都市』で扱われる都市崩壊から始まって、ロボット、火星人とその哲学、超知性を持つ人類のミュータント、木星生物ローパー、そして〈犬類〉といったガジェットです。
 各話にほぼ登場するウェブスター一族、そして一族に仕える執事ロボット・ジェンキンズという要素はあるものの、それぞれの短編は比較的独立しています。また、第七話『イソップ』は、題名通り童話的なテイストがありますね。
 もっとも、エピソード間を繋ぐ覚え書きによって、それらのお話に一本筋が通っているのが面白い部分です。むしろ、ある程度雑多な方向性を持つ作品群だからこそ、「祖先から伝わる伝承を集めた神話集」らしさが出ているのではないでしょうか。

 冒頭で、本書はシマック氏の愛犬ナサニエルに捧げられています(ナサニエルは第三話に登場する犬の名前にもなっています)。作品を読むと、シマック氏の犬への深い愛情が感じられますね。
 全体的に流れる牧歌的なトーンと相まって、本書は人類の滅亡という悲劇的テーマを扱いながらも、どこか優しい印象の作品です。ここがシマック氏の持ち味と言えるでしょう。

この記事へのコメント

  • RAS

    今はなき立風書房ジャガーバックスの一冊『宇宙SFベム図鑑』の最後が、『都市』のラストのロボットと犬の会話「はるか昔、ヒトという生き物がいて…」のネタで締められていましたね。
    2013年06月30日 10:47
  • Manuke

    その本は読んだことがないのですけど、そういうネタはにやりとさせられますね(^^;)
    昔はSF小説系のネタ本(豆たぬきとか)が結構あったと記憶してますが、最近もあるのかな?
    2013年07月01日 00:09
  • RAS

    子ども向けの本の割りには、様々なSF小説に登場する宇宙生物や怪物のイラストだけではなく、作品名・作者名・生態・作品中のエピソードが紹介されていました。しかも、巻末に有名SF作品内の出来事をまとめた歴史年表まで付いているという本格派の本でした。「パペッティア人は臆病なんだなあ」とか「1984年が来たら僕の自由はなくなるんだなあ」(笑)とか色々空想の楽しみを教えてくれた、SFに興味を抱く切っ掛けを与えてくれた本です。
    2013年07月01日 10:14
  • Manuke

    それは素敵ですねー。
    私も豆たぬき本の『SFワンダーランド』というガジェット紹介本を持っていまして(ボロボロですが、今でも本棚にあります(^^;))、当時はまだ見ぬSF小説に想像を膨らませていました。
    こういう入門書って、結構重要なのかもしれません。
    2013年07月03日 00:51

この記事へのトラックバック