聖者の行進

[題名]:聖者の行進
[作者]:アイザック・アシモフ


 本書はアイザック・アシモフ氏による、〈ロボットもの〉を含む十二編の物語を収録した短編集です。
 収録作のうち、〈銀河帝国もの〉へと通ずる未来史に属すると思われる作品は、『女の直観』・『心にかけられたる者』・『バイセンテニアル・マン』です(『三百年祭事件』も含まれるかもしれません)。特にこれら三つの〈ロボットもの〉は、アシモフ未来史において重要な位置を占める短編ですね。
 また、それ以外のものは各々独立したお話ですが、いずれも論理を物語の基本とするアシモフ氏らしい作品群と言えるでしょう。

◎男盛り

 これはSFではなく、アシモフ氏ご自身のことを詠った詩です。
 四十歳台にて既にSF文壇の長老扱いを受けていたアシモフ氏の嘆きが込められています(^^;)

◎女の直観

 〈ロボットもの〉であり、かつキャルヴィン博士の登場する最後の作品です。
 偉大なスーザン・キャルヴィン博士の引退後、USロボット社の主任ロボ心理学者の座を継いだクリントン・マダリアンは、ある野心的なロボットの制作を目論んでいました。陽電子頭脳の回路に予測できない刺激を与える細工を施し、その結果今までのロボットにはなかった創造性を持たせるというものです。
 USロボット社の役員会は、創造性を持つロボットが世間の反感を買うことを危惧します。それに対し、マダリアンはある提案をしました。ロボットを女性と位置付け、その創造性を「女の直観」なのだと説明してしまえば、民衆はそれを取るに足りないものだと見なすだろうと(^^;)
 “直観”を持ったロボット、JNシリーズの制作は困難を極めますが、数年の歳月と大量の予算を費やしてついにジェーン-5が出来上がります。そしてマダリアンはデモンストレーションのため、“直観”で太陽系外に存在する居住可能惑星のありかをジェーン-5に探させることにしたのですが……。

◎ウォータークラップ

 月面都市の安全技術者であるスティーヴン・デマレストは、地球を訪問していました。プエルト・リコ海溝の海面下約八千五百メートルに建造された深海実験部市を訪れるためです。
 デマレストは海上からバチスカーフへと乗り込み、凄まじい水圧に耐えるべく球形ユニットを連結した形の実験部市へと到着します――ある思いを胸に秘めて。

◎心にかけられたる者

 スーザン・キャルヴィン博士が世を去ってから一世紀以上が経過し、USロボット社には一つの危機が訪れようとしていました。ロボットに対する規制がさらに強化され、USロボット社は地球からの立ち退きを要求されることになったのです。
 ここで、研究部長キース・ハリマンはあることを思いつきます。最新型ロボット・ジョージ-10に、この打開策を探ることを命令したのです。
 通常のロボットは、相手が犯罪者や子供であろうとその命令に服従するだけです。しかし、JGシリーズはロボット工学三原則を適用する相手を判断する能力を有する画期的なロボットでした。ハリマンはその高度な判断力に一縷の望みを賭けます。
 ロボット三原則というガジェットを扱った作品群の中でも、ある意味究極と言えるエピソードです。

◎天国の異邦人

 家族というものが過去の遺物と成り果てた未来の話です。
 ウィリアム・アンティ-オートとアンソニー・スミスは非常に珍しい、同じ父母から生まれた兄弟でした。この時代では普通、男女が固定のペアとなることはなく、従って両親ともが同じという兄弟は稀だったのです。
 それは不道徳とまでは言えないものの、破廉恥なことと見なされていました。従って、ウィリアムとアンソニーは互いの存在を厭い、保育園を卒業したところで交流も途絶えてしまいます。
 弟のアンソニーは成長して遠隔通信技術者となり、水星開発計画へと従事することになりました。しかしマーキュリー計画は、水星という遠く離れた極限環境で無人活動するためのロボット開発に難航します。そこでアンソニーは、人間の脳を参考にするために専門家を招くべきだとチームに提案したのです。
 ところが、彼のアイディアに従い招かれた遺伝子工学者は、事もあろうにアンソニーの最も会いたくない人物、彼と同じ顔を持つ兄ウィリアムでした。

◎マルチバックの生涯とその時代

 人類に訪れた大破局の時代に、生き残った者を救い文明の復興を促したのはコンピュータでした。コンピュータはそれ自身を改良し続け、遂に全世界規模のネットワークからなる極超大型コンピュータ・マルチバックが誕生します。
 地球上に生きる五百万の人々は、マルチバックのおかげで何不自由なく暮らしていました。しかし、それでも人間は不満を感じていたのです――マルチバックが人類を支配していることそのものに。
 あるとき、そうした不満を持つ者の一人サイモン・ハインドがマルチバックを破壊しようとし、失敗します。それを目撃していたロナルド・バクストは彼を告発し、ハインドは刑罰を受けることとなりました。その結果、バクストはマルチバックに媚を売る裏切り者として、人々の軽蔑を浴びることになってしまいます。
 バクストはその非難に耐えながら、ある科学的パズルの研究に没頭します。彼には一つの思惑があったのです。

◎篩い分け

 アーロン・ロッドマン博士が発明したリポプロテンは、生命の機構を究明する上で画期的なものでした。それは細胞膜構造の違いにより、個体によって別の作用をするという物質だったのです。
 しかし政府の役人達にとって、それは別の意味を持つものでした。人によって異なる作用をする物質とは、選択性毒物として使うことができるからです。
 西暦二〇〇五年、地球の人口は六十億人に達し、飢餓が世界を脅かし始めていました。世界食料機構はこの対策として、人口過密地域への配給食料にリポプロテンを混ぜることをロッドマンへ提案します。誰が生き延び、誰が命を落とすのかの篩い分けを、リポプロテンの作用の違いに委ねようと言うのです。

◎バイセンテニアル・マン

 本作『バイセンテニアル・マン』(原題"The Bicentennial Man")は、後にロバート・シルヴァーバーグ氏によって長編化され(原題"The Positronic Man"、邦題『アンドリューNDR114』)、更に映画化(原題"The Bicentennial Man"、邦題『アンドリューNDR114』)されることになった、アシモフ氏の作品中でも記念碑的な短編です(題名の変遷がややこしいですが(^^;))。また、この短編集自体の原題は"The Bicentennial Man and Other Stories"であり、本来の表題作となります。
 マーチン家に奉公することとなったロボット・アンドリュウは、陽電子頭脳を製造する上での偶然によって、ある驚くべき能力を持っていました。彼は芸術的・創造的才能を持つロボットだったのです。
 その才能をマーチン家の人々に愛されたアンドリュウは、他のロボットとは全く異なる道を辿り始めます。そして、その道の果てにアンドリュウが見いだした自らの望みは――人々に自分を人間と認めてもらうことでした。

◎聖者の行進

 作曲家でトロンボーン奏者のジェローム・ビショップは、精神病の治療を行っているクレイ博士に協力を求められました。
 クレイ博士は最新式のレーザー・レコーディングで患者の脳波を記録し、それを音声に変換するという処理を行っていました。作成された音楽(のようなもの)は患者の脳の状態を反映しており、そこから異常な波形を取り除いた音楽を患者自身に聞かせることにより症状が改善されることを発見していたのです。
 しかし、この効果は一週間程度しか長続きしませんでした。クレイ博士はこの効き目を持続させることができないものかと、音の専門家であるビショップを頼ったのです。

◎前世紀の遺物

 宇宙鉱夫(アストロ・マイナー)のベン・エステスとハーヴィ・フナレリの二人は、突然訪れた事態のせいで死の淵にありました。彼等の乗った宇宙船が偶然、小惑星帯に潜んでいた小型のブラックホールと遭遇してしまったのです。
 船の燃料タンクは破損し、無線装置も壊れてしまいました。おまけにフナレリは、ブラックホールに接近したときに潮汐効果のせいで怪我を負っています。
 電力と食料事情から、残された時間は二週間。なんとか救いを求める方法はないものか、あるいはせめて危険なブラックホールの存在を皆に知らせることはできないものか。彼等は思案するのです。

◎三百年祭事件

 二〇七六年七月四日。合衆国の独立三百年祭で、ある事件が起きました。警固にあたっていたレロンス・エドワーズが上空から見守っていたそのとき、市民と握手していた第五十七代大統領ヒューゴー・アレン・ウィンクラーが突如として白煙と化してしまったのです。
 エドワーズを始めとする目撃者達は、大統領が暗殺されたのだと思い、動揺しました。しかしその直後、ウィンクラーは演壇の上に姿を現します。そして、それまでのボンクラで大法螺吹きという評価を覆す、目の覚めるような演説を行ったのです。
 公式には、それは大統領の影武者ロボットが破壊されたのだということにされました。しかし、時が経つにつれエドワーズは疑念を抱き始めます。物質分解装置で煙になってしまったのは、本当に身代わりロボットだったのか、と。

◎発想の誕生

 世界初の実用的タイムマシンを発明したのは、SFの愛読者でした。正気の物理学者なら、そんな荒唐無稽な理論を追求するはずがないと言うわけです(笑)
 発明者シメオン・ウェイルは早速、そのタイムマシンを使って時間旅行をしてみることにします。ところがウェイルが予想していなかったことに、時間を遡るにつれ彼の知能は逆回しするように低下してしまったのです。
 到着したのは一九二五年、マンハッタン南部の公園でした。そこで心神喪失状態のウェイルは、ある一人の男性と出会うのです。その男の名は――

 本書では他ならぬアイザック・アシモフ氏ご自身が、それぞれの短編小説執筆時のいきさつ等を、軽妙な語り口で解説してくださいます。
 中でも興味深いのが、『ウォータークラップ』を書かれることになった経緯です。このお話は当初映画会社から持ちかけられたもので、ハリウッドで映画化するための原作を望んでいたようです。ところが、アシモフ氏は会社側が希望した登場人物やエピソードが気に入らず、あくまでご自分の好みを押し通した結果、映画化のお話は流れてしまったとのこと。
 映画会社がどのようなものを望んだのか、どこがアシモフ氏のお気に召さなかったのかは述べられていません。しかし、書き上がった『ウォータークラップ』を読むと、その部分が少しだけ垣間見える気がしますね。「海底を舞台にした話」ということで、あくまで想像になりますがディザスター・ノベル(パニックもの)系かと思われます。人物に関しては完全に不明ですけど、アシモフ氏が嫌いな、非論理を是とする性格付けだったのではないでしょうか。
 こう言ってしまっては何ですが、『ウォータークラップ』は本書の中でもとりわけ地味なお話で、およそ映画化できそうにありません(^^;) けれども、その地味具合がいかにもアシモフ氏らしく落ち着いており、エスプリの利いた良作の短編SFだとも感じられます。
 また、成立も含めて数奇な運命を辿った『バイセンテニアル・マン』にも要注目です。オリジナルになかった要素が少々追加されているものの、映画版は基本的に原作を尊重したものになっているのが原作ファンとしては嬉しいところですね。(少なくとも、『アイ、ロボット』よりは(笑))

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Tracked: 2007-05-26 21:22