テクノ惑星カモラード

Review-0428:

[題名]:テクノ惑星カモラード
[作者]:E・C・タブ


 〈デュマレスト・サーガ〉第十二巻です。
 本巻でデュマレストが訪れるのは、一見するとテクノロジーによりあらゆる困難が取り去られたかのように見えるユートピア都市、インストーンです。しかしながら、インストーンは理想とは裏腹な闇の部分を抱えています。
 また、本作ではシリーズ全体に関わる重要な要素として、サイクランに起きている異常事態が明らかにされます。デュマレストの有する精神共生体、それを奪い返すことはサイクラン側にとっても急務だったのです。

 物語はまず、首席サイバー・ニコール師の場面から始まります。
 ニコールは銀河に広がるサイクランという巨大組織のトップですが、彼には憂慮すべき事態がありました。サイクランの心髄とも言える、サイバーの脳を摘出して一つに結合した中央知性体、そこに属する古い知性体のいくつかが劣化を始めていたのです。
 知性体の劣化が何らかの伝染性を持つことが危惧され、原因の調査が進められていましたが、究明には至っていません。中央知性体が失われることを防ぐために、今はデュマレストが持っている精神共生体がサイクランには必要でした。ニコールはデュマレストが惑星タイナーにいることを推論し、指示を出します。
 一方、ニコールの推測通りタイナーにいたデュマレストですが、宇宙船スタイアスト号をチャーターしてそこから離れることにしました。しかし、スタイアスト号の船長エグランティンは金に目がくらんでデュマレストを裏切ろうとします。
 持ち前の用心深さでそれを察知し、エグランティンを殺したデュマレスト。ところがその直後、船はワープ(本作中では自然発生的な空間のゆがみ)に巻き込まれ、いずことも知れぬ惑星へ不時着してしまいます。かろうじて生き延びたのはデュマレストと、エグランティンの裏切りに組しなかった吟遊詩人アーブッシュだけでした。
 二人は雪に覆われた惑星上へ出て人里を探そうとしたものの、遭難してデュマレストは意識を失います。気が付いたとき、彼がいたのは雪の中のドーム都市、インストーンでした。そこは、カモルザーなる謎の支配者の下、いくつかの決まり事さえ守っていれば何不自由なく暮らせる、一見すると楽園のような場所でした。
 けれども、インストーンは恐るべき掟があったのです――カモルザーの指示に従わない者に下される、〈選択の鐘〉という名の間引きが。

 本書の注目ガジェットは、中央知性体("Central Intelligence")です。
 中央知性体とは、サイバーの脳を摘出して無数に結合した、言わば生体コンピュータで、サイクランの本体とも言うべき存在です。銀河に散らばるサイバーは、脳内のホモコン素子によって中央知性体と距離を無視した即時交信を行うことが可能で、これによりその超高度な知力の恩恵を被ることができます。
 十分な業績を上げたサイバーは、年老いて体が動かなくなると中央知性体に参加する権利を得ることができ、これが個々のサイバーにとっての究極的な報酬となっています。統一的全体(ゲシュタルト)となり、肉体消滅後も永遠に思索を続けられるというわけです。おぞましくも、ある種の魅力がある設定ですね。:-)
 ただし、本巻ではその中央知性体に異常が起きていることが明かされます。古くなった知性体(サイバーの脳)のいくつかが、発狂とおぼしき状態に陥り始めており、サイクランはその原因を突き止められていません。
 誰も抵抗することができないほど強大な権力を手にていたサイクランですが、思わぬところでその存在が脅かされつつあるわけですね。

 本筋の方では、デュマレストが訪れるインストーンが面白い設定です。無料で上等な衣食住が保証された理想郷ですけど、小説で描かれるユートピアが往々にしてディストピアであるように、美味しい話には裏があります。
 インストーンには社会を乱す程度が順序づけられ、順に排除されていく〈選択の鐘〉という仕組みがあり、デュマレスト君が真っ先にその筆頭に挙げられることになります(笑) 〈選択の鐘〉は、インストーンを守護する半機械のヒューマノイド、モニターとも関連しており、なかなかおぞましい感じです。
 ちなみに、カモラードはインストーンのある惑星名ですが、作中には名前がほとんど出てこず、インストーン以外はあまり「テクノ惑星」でもなかったりします。ここは題名が惑星名縛りになっている日本語翻訳版の苦しいところですね(^^;)

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