サターン・デッドヒート

[題名]:サターン・デッドヒート
[作者]:グラント・キャリン


 本書は様々な科学情報に裏付けされたハードSFです。とは言うものの、緻密なバックボーンはあくまで舞台設定に徹しており、お話自体はトレジャーハント風のエンターテイメントとしても一級の面白さを持っています。

 物語は近未来、地球と月のラグランジュ・ポイント(L5)にスペースコロニーの集合体スペースホームが建造されている時代です。このスペースホームは企業の形態を取っていますが、実質は国家に相当する力を備えています。そして、地球上にある旧来の勢力と政治的・経済的に対立しているのです。(それほど深刻ではありませんけど)
 主人公クリアス・ホワイトディンプルはスペースホーム大学に勤める齢四十歳の考古学教授です。学者としては優秀かつ洞察力もあるのですが、体力や胆力は少々心もとないタイプですね。
 その彼が突如スペースホーム社長に呼び出され、押っ取り刀で駆けつけたところ、見せられたのはなんと異星人の手による遺物。それは地球人ではない誰かの手により土星の衛星イアペトゥスの表面に置かれたものでした。
 その遺物にまつわるいくつかの謎を解き明かしてみせた我らがホワイティですが、困ったことにその能力を買われて、土星での更なる探索を命じられてしまいます。ホワイティは片道だけで一ヶ月もかかる土星行きなど御免被りたかったのですけど、残念なことに彼の意思は尊重されません(^^;)
 かくして、土星系をまたにかけた一大スペクタクルがここに幕を開けるのです。

 この物語を語る上で外せないのが、ホワイティの相棒ジュニア・バディルの存在です。ジュニアは土星の軌道上で生まれた小柄な少年で、その磁場の影響からか十九歳にして常人の倍以上の知能を持っています。ただし、その代償として彼は老化が早く、あと数年で寿命が尽きるだろうことをジュニア自身受け入れています。
 外観は小鬼(ノーム)のようで、肌は皺だらけ、頭がいいせいもあって大変な皮肉屋です。低重力環境で育ったためか体はあまり丈夫ではありませんが、それを除けば太陽系随一の天才宇宙飛行士でもあります。しかしながら、そうした側面を持ちながらも彼自身は傷つきやすい心を持った少年であり、作中では愛すべきキャラクタとして描かれます。
 主人公ホワイティ(ジュニアからはディンプもしくは提督と呼ばれる)は冒頭では学究肌の人間で、インディー・ジョーンズとはほど遠いのですが、ジュニアと出会い友情を育むうちに、彼自身も大きく変わっていきます。その成長ぶりも本書の魅力の一つです。

 この『サターン・デッドヒート』はハードSFの側面も持つため、SFらしいガジェットには事欠きませんね。複数のスペースコロニーを束ねる巨大構造物〈ピン・ホィール〉。最後の遺物を取得するために建造された巨大宇宙船〈キャッチャー〉、そして〈フローター〉及び〈ランダー〉。もちろん、異星人が遺した遺物そのものも。
 しかしながら、本書で最大の注目ガジェットは土星そのものです。華麗な筆致で描写される荘厳な巨大惑星の姿は、読む者を魅了して止みません。ホワイティやジュニアがいるその場に自分が居合わせないことが悔しく感じられるほどに。

 この作品はハードSFとしても、トレジャーハントものとしても、主人公の成長話としても楽しく読むことができます。
 けれど、私が本書を最も評価しているのは、超一級の宇宙SFとしてです。科学的知識に裏付けられた緻密な描写は、ただの文字を通して土星とその衛星達の姿を迫真の勢いでイメージ化させてくれるでしょう。

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