幻影惑星トーマイル

[題名]:幻影惑星トーマイル
[作者]:E・C・タブ


 〈デュマレスト・サーガ〉第九巻です。
 当シリーズの登場人物は基本的に地球由来の人類(地球の存在は忘れられているものの)で、デュマレストは人間対人間、特にサイクランとの対決を強いられるわけです。しかしながら、本書はシリーズ中でも異色の、非人類知性体がメインとなるエピソードです。
 窮地に陥ったデュマレスト達を救ったその相手とは――惑星生命体トーマイル。

 サイクランの魔手から逃れつつ地球を探し求めようと、デュマレストはある宇宙船に旅客として乗船していました。
 同じ船に乗る高貴かつ我儘な娘ロリス・イーガスは、デュマレストにすげなくあしらわれたことに腹を立て、処置係を買収し本来ならば許可の下りない船倉へ入り込みました。しかし、船倉の中では奇妙で恐るべき猛獣が檻から逃げ出しており、大騒ぎになってしまいます。
 猛獣は何人もの人間を殺した後、宇宙船のジェネレータを破壊して息絶えました。当座の危険は去ったものの、デュマレスト達は宇宙空間で漂流する羽目に陥ってしまいます。
 そうした中、乗客の一人であるジェンカの歌姫マイエンヌがたまたま通信機のそばで歌ったところ、何者かがそれに反応して応答を返してきました。壊れているはずの宇宙船が動き始め、見知らぬ惑星に強制着陸させられます。
 その相手は惑星自身、知性を持ち悠久の時間をかけて星々の間を動き回る巨大知性体トーマイルでした。それは退屈し切っており、遭難した宇宙船を暇つぶしのために引き寄せたのです。実験と称して様々な試練を与えるトーマイルにデュマレスト達は苦しめられます。
 そして、デュマレストにはもう一つの懸念がありました。生き残った仲間達の中に、サイクランの手先が潜んでいるのではないか、と。

 本書の注目ガジェットは、惑星知性体トーマイルです。
 惑星自身が自然に知性を持ったのか、あるいは人工的に作り出されたのかは作中では明らかになりませんけど(書籍商ゴーリクは機械ではないかと推測するものの、詳細不明)、活動のエネルギー源として恒星周辺の放射線を必要としているらしく、恒星の死滅と共に別の恒星系へ移動することを繰り返している模様です。複数の恒星の死を経験していることから、誕生より数十億年以上が経過しているものと思われます。
 トーマイルは自分自身の表面を意のままに作り変えることができ、加えてテレポーテーションのように物体(宇宙船や人間)を遠隔地から取り寄せたりすることもできます。半ば神のごとき能力と知能を持つわけですが、永劫に近い時間を孤独に過ごしてきたせいか情緒面ではあまり発達していないようです。
 何にでも変化できる惑星サイズの知的生命というと、『ソラリスの陽のもとに』のソラリスの海が思い浮かびますけれども、トーマイルはあそこまで理解を絶する存在ではありません。ただ、在り方の異なる知性の接触という観点で見たとき、両者の対比が興味深いですね。『ソラリスの陽のもとに』は人間側の、本書は惑星知性体側の悲劇と読むこともできそうです。

 登場人物(?)として評価するなら、トーマイルは本書のヒロイン格なのですが、もう一人のヒロインである歌姫マイエンヌと比べ、デュマレストの態度は冷淡です。
 なにしろデュマレストは女性にもてまくるので(笑)、大きな権力を持ちながら自分を我が物にしようとする相手のあしらい方は心得たもの、ということでしょうか。人間に対する実験へ深入りするあまり、デュマレストに夢中になってしまったことがトーマイルの不幸と言えるかもしれません。:-)

この記事へのコメント


この記事へのトラックバック