燃えつきた橋

[題名]:燃えつきた橋
[作者]:ロジャー・ゼラズニイ


 ゼラズニイ氏によるこの作品は、なかなか凝った構成のお話です。
 氏の著作は〈真世界シリーズ〉や『光の王』など神話をモチーフにしたSFが有名ですけれど、『燃えつきた橋』はそうした傾向のものとは異なります。(強いて言うならアフリカ系神話?)
 テーマという大枠に分類しづらい種類の物語であるため、氏の作品群ではどちらかと言うと目立たない印象がありますね。しかしながら、個人的にはゼラズニイ氏の書かれたもの中でも特にSF的な面白さを強く持っているのではないかと思われます。

 本書は四部構成のお話ですが、第一部だけは少々毛色の違う趣きです――後半でその意味を知るまでは。
 第一部は断片的な段落で成っており、過去の偉人達が志半ばにして倒れていく様が綴られていきます。人の世をより良くしようと努力しながら、それを果たせない人々のお話です。
 そして同時に、ある一人の男とその敵の存在が浮かび上がってきます。黒い肌をしたその男は人々の父の父と呼ばれていて、遥かな太古から人類の創造者と戦っているのです。
 彼の敵は宇宙から飛来した種族で、地球を亜硫酸ガス等汚染物質の満ちる世界へと改造するために人類を進化させました。人類が公害によって地球を汚染し尽くし、その後に滅亡することを狙って。
 人類が自滅の危機を乗り越えることはその種族にとって好ましくないため、優れた思想家や科学者を破滅に追いやったりして人々の意識が向上することを妨げています。男はそれを阻止しようと、彼の妻とともに戦い続けているのです。

 第二部以降は、デニス・ギーズという一人の少年にフォーカスを当ててお話が進行していきます。
 舞台は二十一世紀、この時代ではテレパシーを持つ人間は珍しくありません。
 コミュニケーションの手段として有用なテレパシーですが、一方で幼児期の知覚能力発達にはマイナスとなる面もあります。常に雑多な人間の思考を読んでいると、自分自身の自我を形成できないということなのです。それゆえ、テレパシーを持つ子供は都会から離れた土地で育てられます。
 デニスもまた、そうしたテレパシーを持つ十三歳の少年です。しかしながら、都市から離れた場所にいるにも拘らず今なお自我が発達せず、両親をひどく心配させています。
 デニスに自我が生まれないのは何故なのか――物語が進むにつれて、彼の驚くべき能力が明らかになっていきます。

 今作の注目ガジェットは、テレパシーの応用方法でしょうか。SF作品でテレパシーを扱うこと自体は珍しくありませんが、『燃えつきた橋』では非常に面白い使い方が編み出されています。この応用こそが、本作最大のセンス・オブ・ワンダーであると言っても過言ではないでしょう。そのガジェットが物語中の様々な要素を結びつける核となっており、その鮮やかな手腕に目を見張ります。

 実を言うと、この作品は大変レビューしにくいです(^^;)
 と言うのも、下手に解説してしまうと『応用方法』のネタバレになってしまいかねませんので。しかも、お話中にはとあるトリックが仕掛けられていて、こちらも解説してしまうとアウトなものですから。
 しかしながらゼラズニイ氏の評価は確かなものですし、氏の強みであるエンターテイメント性も十分に含まれています。第三部の『あの方』のエピソードなど、あれだけで独立した短編として成立しうると思います。
 ただし、神話系に代表される流麗な描写――ゼラズニイ調――を期待されると肩すかしになってしまうかもしれません。一つのアイディアによって一本筋が通った、SFらしいSF作品だと言えるでしょう。

この記事へのコメント

この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/4046726

この記事へのトラックバック