スラン

[題名]:スラン
[作者]:A・E・ヴァン・ヴォクト


 SFには数多くのテーマが存在しますが、その中の一つにミュータント・テーマというものがあります。この場合のミュータント(突然変異体)とは、我々人間から派生した新人類を指すことがほとんどですね。
 本作『スラン』は、このミュータント・テーマにおける金字塔と言っても過言ではないでしょう。このお話が世に出たのは一九四〇年とかなり昔ですが、その後のミュータントものに対しての影響力は相当に大きなものですから。

 この物語に登場するのは、スランと呼ばれる超人類です。知能及び身体能力にすぐれ、さらにテレパシー能力までも有するスランですが、それゆえに物語中では人類から恐れられています。いかに優れていようともスランは少数勢力であり、迫害を受けているのです。 
 人類社会は独裁者キア・グレイの元、スランを狩り出すことに力を入れていて、正体がばれたスランは死あるのみです。彼らがこうまで嫌われている理由は、人類のスランに対する劣等感に加えて、生まれてくる人間の子供に彼らが改造を加えてスラン化しているという噂によるものなのですが……。

 物語は主人公であるスランの少年少女、ジョミー・クロスとキャスリーン・レイトンによって紡がれていきます。
 ジョミーはある重要な秘密を持った子供ですが、両親をスラン狩りで失い、人に身をやつして貧民窟に身を潜めます。一方、キャスリーンは独裁者キア・グレイに「社会学の研究材料」と称して養われており、周囲の人間の憎悪にさらされながら一人孤独に宮殿の中で暮らしています。
 お話はこの二人の視点から交互に綴られていき、次第に人間とスランとの関係、もう一つのグループの存在、そしてスランにまつわる謎が明らかにされていきます。

 この作品の注目ガジェットは、やはりスランそのものですね。とある科学者が人体実験によって生み出したとされる彼らは、人類を遥かに上回る知能の高さ、頑強で疲れを知らない肉体、そして最大の特徴である読心能力を持っています。髪には金色に輝く巻き毛――触毛が混じっていて、スランがテレパシー能力を使うときにふわりと持ち上がるのです。この触毛を除けば、スランは人類と外見上の違いはありません。
(主人公の二人はいずれも子供であり、同時に孤独であるため、彼ら自身スランという種族に関しての知識が不足しています。物語を進めていくうちに読者はジョミー達とともにスランの真の姿を知るという、上手い展開運びですね)
 また、お話が進むともう一つの種族である無触毛スランというグループが出てきます。文字通り触毛がなく、読心能力も持たないのですが、高い知能と身体能力は純スラン(触毛がある方をこう呼ぶ)と同様です。彼らが物語とどう関わってくるのかは、実際に読んで確かめてみてください。

 なお、この物語では主人公がスラン側ということもあり、我々旧人類はひどく愚かで残忍な者達として描かれます。特に、貧民窟でジョミーを匿う強欲な老婆グラニー(お婆ちゃんの意)がそうです。もっとも、このグラニーはその強烈な個性故に、登場人物中でも群を抜いて魅力的なキャラクターなのですけどね(^^;)
 『スラン』は、こうした様々な人間・様々なグループの思惑が絡み合いながら、結末へと収束していきます。個々の事象はやや単純な部分はあるのですが、多面的であるためにお話全体では深みを感じさせてくれます。

 最後に一つ。『スラン』では小説の一番最後の文章に最大のネタバレがあります。あとがきを先に読もうとしたりする場合、これが目に入らないように気をつけましょう。
 ……って、私がそれをやっちゃったものですから(笑)

この記事へのコメント

  • ココット

    新コンテンツの開設、おめでとうございます。
    SF系のブログを公開されたのですね。
    それではちょこっと記念カキコをば。

    『スランだ!殺せ!』 の合言葉でお馴染みの 『スラン』 ですね(笑)
    この "人間という種が異端狩りを行う" というテーマは、SFだけでなく
    ファンタジーの世界でもわりと良く取り上げられていますよね。

    良い人なんだけど、魔族だから殺せとか、良いけど獣人だから殺せとか、
    良いけど吸血鬼だから殺せとか、良いけどファティマだから……(ry

    うゲームでは魔族が迫害される 『幻燐の姫将軍2』 とか言ってもアレかもしれ
    ませんが、吸血鬼が迫害される 『月姫』 さんとか言ったら通りが良いかな(笑)

    人間という種は脆くて弱いが、強大な吸血鬼よりも数で圧倒し、また群体として
    異端を駆逐する能力に優れているので、結局は人間が一番強いんじゃよ~
    とか語られていましたよね。

    こういうテーマのルーツを辿って行くと、実はこの古典 『スラン』 の影響が
    大なり小なりあったのではないか、という話もあります。 つまり

    つ 【スランすごいよスラン】 ということで(笑)


    余談になりますが、『スラン』 の金色に輝く巻き毛の読心者に対して
    『夜が来る!』 の金髪ツインテールのサトリ・七荻鏡花を引き合いに出してみたり。

    いつもキツめなぐらいにハッキリとモノを言う彼女ですが、後に主人公に対する
    呟きの中で、自分はいつも相手の心が解るけど、相手は私の心が解らない、
    「それってすごくフェアじゃないから、わたしはいつも思ったことを包み隠さず言う」

    というサトリ(読心者)としてのスタンスは好感度大なのですよー。
    # えー過去に黒い事いっぱい考えてんじゃんよーとか言っちゃ駄目


    ──ということで、読んだことのある 『スラン』 を見つけたので、SF方面からの
    切り口はManukeさんのお任せして、自分は萌え方面からの切り口でスランを
    述べてみました。 これが欄外コラムの一助にでもなれば幸いです。

    # なんつって、実はSF知識としてのスランがだいぶ抜けてたからじゃんよー
    # とか言っちゃ駄目ですー(笑)

    # 実は趣味に走った単なる感想なのでした。 長文すみませぬ。
    # それでは新コンテンツの開設、おめでとうございます。 (ぺこり)
    2005年06月01日 02:34
  • Manuke

    コメントどうもです~。
    なるほどなるほど、ヴォクト氏はそうした方面にも影響を及ぼしているのかもですね。

    あと、『スラン』の日本への影響を考える上で、竹宮恵子氏の『地球へ…』の存在はことのほか重要だと思います。
    それから、ほぼ同時期に萩尾望都氏も『スター・レッド』というミュータントものを書かれていました。
    今考えると、当時の少女マンガには優れたSFがたくさんあったんですよね~。特に両氏の功績は素晴らしいものでした。
    2005年06月01日 23:26
  • Longhorn

    こんにちは、はじめまして。
    「スラン」というと、昔々の、確か「シミュレーター」誌か「TACTICS」誌で触れられていた別訳版
    「新しき人間スラン」の迷訳ぶりが非常に印象に残っていて、いつか読んでやろうと思いつつ早十数年経過してしまっております。
    WEB検索でも出てこないのですが、ハヤカワ版「スラン」を読むのはそれからにしようと思っているうちに老人になってしまうのかもしれません。
    2005年06月18日 12:57
  • Manuke

    こんにちわです。
    そんな翻訳もあったのですか(^^;)
    海外物を読む上では、誰が翻訳されるかによっても雰囲気が随分変わったりしますからね。野田元帥だったりすると、海外SFでも「べらんめぇ」口調にされてしまったりと(笑)
    2005年06月19日 01:21
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