外交特例

[題名]:外交特例
[作者]:ロイス・マクマスター・ビジョルド


 L・M・ビジョルド氏の人気シリーズ、〈ヴォルコシガン・サガ〉に属するお話です。作中の時間としては、前作『任務外作戦』/『冬の市の贈り物』の一年ほど後に相当します。
 新婚旅行帰りの途中、ある奇妙な失踪事件とそれにまつわるゴタゴタの解決を依頼されたマイルズ。しかし、当初はさほど大ごとではないと思われていた事件の裏には、恐るべき企みが存在したのです。

 苦難とドタバタの中でようやく結婚した後、一年ほど経って二人で銀河の新婚旅行を楽しむことにしたマイルズ夫妻。彼らが惑星バラヤーへの帰り着く頃、人工子宮で育った二人の子供が生まれる予定になっており、マイルズは生まれる前から親馬鹿を発揮して(^^;)子供達の誕生を心待ちにしていました。
 ところが、彼らの乗るタウ・セチ旅客定期船にバラヤー帝国急使船が緊急メッセージを携えてきました。グレゴール帝からのメッセージ内容は、ある深宇宙施設にてコマール通商船団が拘留されているというものであり、どうやら外交的トラブルに巻き込まれたようでした。大事件ではなさそうだと胸をなでおろしたマイルズは、エカテリンと共にグラフ・ステーションへ向かうことにします。
 グラフ・ステーションはクァディーが居住する宇宙ステーションで、トラブルは二つの事件から成り立っているようでした。一つは、バラヤー警察庁連絡将校ソリアン中尉の失踪。そしてもう一つは、護衛艦プリンス・クサヴの将校コールボウ少尉の無断外泊と、彼を連れ戻す際に住人とトラブルが起きたことでした。その結果、ステーションに寄港中の通商船団が拘留されてしまったのです。
 マイルズはグラフ・ステーション側の責任者と面談したとき、その中にデンダリィ自由傭兵艦隊における部下だったベル・ソーンの姿を発見します。二人は旧交を温めつつ、初対面のふりをして事件解決に当たることにしました。
 遺伝子操作に対して偏見のあるバラヤー人と、バラヤーを粗暴なゴロツキと見做すクァディー。それが二つ目の外交問題を引き起こしていたのですが、マイルズは一つ目の事件に注目します。ソリアン中尉はどこに行ってしまったのか。
 果たして彼の懸念通り、その裏にはバラヤーの対立勢力セタガンダを巻き込んだ凶悪犯罪が隠されていたのです。マイルズは無事、事件を解決することができるのでしょうか。

 本書の注目ガジェットは、クァディー宇宙("Quaddiespace")です。
 クァディー(四つ手)とは、ビジョルド氏の別作品『自由軌道』に登場する、生体工学により生み出された人々のことです。足の代わりに手が生えており、無重量状態に適応しているという特性を持ちます。『自由軌道』は〈ヴォルコシガン・サガ〉と同一世界観を共有する〈ワームホール・ネクサス・シリーズ〉の一作品で、マイルズの時代より作中でおよそ二百年前の出来事とされています。
 『自由軌道』のあらすじを紹介すると、巨大企業に無重量状態作業用として作り出されたクァディー達が、人工重力という新技術のせいでお払い箱になり処分されかかったとき、たまたまそこに居合わせた技術者レオ・グラフの指揮により反乱を起こし、宇宙ステーションを丸ごと乗っ取って脱出する、といった内容です。(ざっくりしすぎですが(笑))
 クァディー達はその後、小惑星はあるものの居住惑星のない恒星系で独自の文化圏を築いた模様で、これがクァディー宇宙と呼ばれます。クァディーにとっては重力は邪魔なものでしかなく、惑星は必要ないというわけですね。もっとも、本作の時点ではクァディー宇宙にも地上人(クァディー以外の人間)が少数存在し、主に人工重力環境で生活しています。(クァディーは重力下ではうまく動けないため、そこではフローターと呼ばれる浮上式の小型機械に乗って移動します)
 ファンにとっては興味深いことに、ごくわずかではあるものの『自由軌道』の主人公レオ・グラフに関する言及が作中にあります。グラフ・ステーション("Graf Station")の名前がおそらくレオ・グラフ("Leo Graf")由来であることも踏まえ、二百年後の今でも彼はクァディー達から尊敬を受けている模様です。また、レオとシルバー(クァディーの少女)の恋愛がバレエの演目になっていることから、その後も幸せな人生を送ったと思われます。
 ビジョルド氏の当初の構想では、『自由軌道』は脱出後のストーリーになる予定だったそうなので、今後そのお話が執筆されることを期待したいところです。

 前々作、前作と、マイルズはエカテリンにお熱で今一つパッとしなかったのですが(^^;)、本作ではミステリタッチの謎解きや緊急事態への対処で大活躍を見せてくれます。どうやらかつてのアドレナリン過剰状態に近かったらしく、自分のことをネイスミスと名乗り間違えそうになる場面もあります(笑)
 また、作中人物としては事件の真相の鍵を握るルッソ・グプタも要注目です。このキャラクタの登場シーンは多くないのですけど、その告白内容から相当な冒険を行ってきたものと推測され、ある意味影の主人公と言えるのではないでしょうか。終盤のマイルズの言葉から、今後の巻で再登場もありうるかもしれませんね。

 なお、やや余談になりますが、本書『外交特例("Diplomatic Immunity")』には、草稿時点でプロローグが存在していたようです。諸般の事情により完成原稿に含まれなかったと説明がされています。
 このプロローグ、現在はビジョルド氏の公式サイトで公開されています(当然ながら英語です(^^;))。内容は、グプタ君が「即効性ペンタ抜きの尋問」で語ったことほぼそのままなので、特に読まずとも支障はありません。(尋問の内容に取り込まれたため、プロローグが削除されたものと想像されます)
 ただ、回想とは異なりグプタがリアルタイムで体感した模様が描かれているため、彼の恐怖と絶望、そして怒りがより強く感じられると言えるでしょうか。さほど長くないので、英語が苦手でない方には一読をお勧めします。

この記事へのコメント

この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/402578098

この記事へのトラックバック