キノコの惑星スカー

[題名]:キノコの惑星スカー
[作者]:E・C・タブ


 〈デュマレスト・サーガ〉第五巻です。
 前巻『共生惑星ソリス』にて、サイクランの重要な秘密を手に入れた我らが主人公デュマレストですけど、彼自身はまだその事実を知りません。
 有毒・有用様々なキノコが繁茂する惑星スカーで、次なる旅への資金を稼ごうとしていたデュマレスト。その背後にサイバーの魔手が伸びようとしていました。

 惑星スカーの一年は九十日で、冬の三十日は豪雨、夏の三十日は酷暑と、人が活動できる環境ではありません。残りの春と秋の間に多種多様なキノコが猛烈な勢いで繁殖し、有毒なものが多いのですが、中には金になる貴重で有用なキノコもありました。スカーの住人は、主としてそうしたキノコを採取して生計を立てています。
 冬の間、デュマレストは一人暮らしの女性サリーニの家へ身を寄せていたのですが、春になったとき数人の強盗がサリーニの家へやってきます。デュマレストは強盗を撃退したものの、彼自身が身に着けているものとよく似た赤い宝石付きの指輪を多数有していたことを訝しみました。
 サリーニの下を去ったデュマレストは、同じ渡り者のクレムディシュとコンビを組み、機密服を着て危険なキノコ狩りへ向かいました。デュマレストはそこで、観察眼と身体能力、そして幸運に助けられ、貴重で高価な黄金の胞子の群生を発見することになります。
 一方、惑星ジェストの領主ジョスリンと、その新妻エドリエンが乗る宇宙船が、銀河嵐の影響でたまたま惑星スカーを訪れることになりました。しかし、それは事故ではなく、エドリエンの側近として船に同乗していたサイバー・エワンの仕組んだものだったのです。エワンの目的、それは――。

 本書の注目ガジェットは、基本食(ベイシック:"Basic")です。
 〈デュマレスト・サーガ〉におけるベイシックとは、カップ一杯で一日分のエネルギーを補給することができる液状食糧です。基本的にスペースマン用のものとされていますが、栄養満点(完全食?)かつ携帯性も良いことから、怪我等の治療後の体力回復や、本作のように野外で栄養補給するために使ったりもします。
 ベイシックはどろっとしたクリーム状で、ブドウ糖の甘ったるさと蛋白質のくどさ、ビタミン類による味付けに柑橘系風味が加わり、あまり美味しいものではないようです。作中でも、デュマレストに飲むよう勧められたヒロインが嫌がる場面がしばしば登場します(^^;)
 本来の使われ方は、おそらく宇宙船の特等旅客が低速代謝中に食事を摂るためのものと思われます。低速代謝状態では動作が数十分の一に遅くなってしまい、食べ物はたちまち冷めてしまうのですが、ベイシックのカップには底にヒーターが仕込まれており、口に運ぶまで温かい状態が保たれるわけです。(消化にも良さそうですし)
 このヒーターは「ベイシックを血液の温かさに保つ」と説明されているのですけど、これが不味いと言われる原因のような気もしますね。冷えていれば、デザートとして美味しく頂けそうです。もっとも、栄養満点なのでたくさん飲めば太ってしまうこと請け合いです(笑)

 物語中盤で、サリーニが何者かに殺されてしまう場面があるのですが、このときデュマレスト君が見せる怒りが印象的です。デュマレストはどちらかと言えばクールで一匹狼な男性なのですけれども、女性や子供への暴力に対しては強い憤りを露わにします。また、このエピソードは宇宙友愛教会とデュマレストの価値観の違いという側面も見逃せません。
 キャラクタとしては、惑星ジェスト領主ジョスリンも興味深いですね。ジョスリンは人の運命をコイントスで決めるようなところがあり、一見すると気まぐれで身勝手な支配者のイメージですが、なかなかどうして味のある人物です。本巻の原題"The Jester at Scar"(直訳すると『スカーの道化』?)が指すのは、文字通りジョスリンのことなのでしょうか。あるいは別の登場人物のことでしょうか。

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