宇宙兵ブルース

[題名]:宇宙兵ブルース
[作者]:ハリイ・ハリスン


 この作品は、ごく普通の青年が一人前の兵士へと成長していく過程を描く、未来世界の軍隊に焦点を当てたSF小説――と言うと少々語弊があるかもしれません(笑) まあ、ある意味成長するのは確かですけれど……。
 平たく言ってしまえば、本書は他のSF小説をパロディにしたスラップスティック・コメディです。対象となる作品はいくつかありますが、最も茶化されているのはロバート・A・ハインライン氏の『宇宙の戦士』でしょう。宇宙軍に入隊した新兵の物語という骨子は共通していながら、軍事主義的と言われる『宇宙の戦士』をシニカルな笑いで皮肉っている点は興味深いですね。もっとも、単なる批判に終わらない、独立したお話としても面白い作品でもあります。
 騙されて宇宙軍へと入隊してしまった元農民のビル。彼は宇宙戦闘の際に偶然手柄を挙げたことから、その功をねぎらうために首都惑星ヘリオールへと招かれるのですが……。

 フィゲリナドン第二惑星で農作業をしていた青年ビルは、ふとしたきっかけで宇宙兵入隊募集の行列を目にします。その野良仕事で発達した筋肉に目をつけた徴募係軍曹は、事もあろうに一服盛った上で催眠術をかけ、入隊書類に強制的に署名をさせてしまったのでした。
 かくして宇宙機動歩兵部隊へと『志願』したビルは、キャンプ・レオン・トレツキーへと赴きます。そこで待っていたのは、鬼のような形相のデスウィッシュ・ドラング兵曹による辛くうんざりする訓練の毎日でした。ビルを始めとする新兵達はデスウィッシュを心底憎んでいましたが、反抗した初年兵を殺して食ったという噂の兵曹に誰も逆らえません。
 そうするうちに、敵対する爬虫人チンガーとの戦争が激化し、ビル達は訓練半ばにして前線送りになってしまいます。前線へ向かう宇宙艦隊は最新鋭――最新すぎて、大部分の船が建造中な程です(笑)
 配属された戦艦クリスティン・キーラー号で、ビルはヒューズ交換六等宙士見習に任命されます。ヒューズ室の中で一抱えもある巨大なヒューズをずっと監視して、切れたら即座に交換するという、意味不明な仕事ですね(^^;)
 実際に戦闘が始まると、その攻撃の激しさにヒューズが次々と破裂し、仲間のヒューズ交換士は皆死んでしまいました。ビルは重傷を負いつつもヒューズ室から逃れ、たまたま戦艦の砲手席へと辿り着きます。そこで面白半分に主砲発射ボタンを押したところ、偶然にも敵艦を撃破してしまうのです。
 たちまち英雄と祭り上げられたビルは、勲章授与のために帝星ヘリオールへと招かれました。けれどもそれは、更なる災難の幕開けに過ぎなかったのです。

 本作の注目ガジェットは、膨張推進(ブローター・ドライブ)です。
 宇宙SF、特にスペースペラでは、遠い恒星間距離を超えるためにしばしば超光速航法が『発明』されます。無慣性航法やワープといったものですね。本書の膨張推進もその一つで、中でもとりわけお馬鹿な理論の一つでしょう(^^;)
 このドライブが作動すると、艦を構成する粒子の結合エネルギーが弱まり、その結果(名前通り)艦は恒星系を超えるサイズにまで膨れ上がります。そして、再び収縮して元の大きさに戻ると、目的地へと移動しているとのことです。あまりにもデタラメな理屈ですけど、突っ込んでも無駄です(笑)
 この膨張推進中の船内には、出発前の惑星が小さくなって漂っていたりします(実際には自分達の方が大きくなっているのですが)。この惑星に触れると大災害を引き起こしかねませんのでご注意を。:-)

 本書が茶化している作品はいくつかあるようです。惑星ヘリオールの設定は、アイザック・アシモフ氏の〈銀河帝国もの〉に登場する惑星トランターのパロディですね(思わず「そりゃそうだ」と言いたくなります(^^;))。また、後半でビルが呼ばれる名前「ゴルフ二八一六九マイナス("Golph 28169-minus")」は、ヒューゴー・ガーンズバック氏の代表作『ラルフ124C41+("Ralph 124C41+")』からでしょう。宇宙戦闘シーン辺りの描写は、E・E・スミス氏のスペースオペラかと思われます。(他にもありそう……)
 しかし、やはり最大のパロディ対象は、何と言っても『宇宙の戦士』ですね。当該作品で活躍する機動歩兵及び強化服がそのまま登場しますし(強化服の弱点の指摘は傑作です)、ストーリー構造もかなり似通っています。
 『宇宙兵ブルース』はあくまでコメディですが、同時に全体主義的側面の強い『宇宙の戦士』への鋭い批判を内包しています。かたや、恐れを知らず団結力の高い屈強な兵士達と、厳しいが全幅の信頼を置くことができる上官、そして敵を殲滅する強力な武装。かたや、ぐだぐだで士気の上がらない兵士と、怒鳴り散らすだけでおよそ信頼の置けない上官、ないよりマシだけど心もとない武装。果たして、どちらが「荒唐無稽」なのでしょうか。
 もっとも、そうした部分に注目せずとも本書は楽しめることでしょう。始めから終わりまで不条理な笑いに満ちあふれた、ややブラックな味わいの傑作パロディSFです。

この記事へのコメント


この記事へのトラックバック

宇宙空間、つっぱしるのさ
Excerpt:  超光速航法ネタ、今日が最終回。過去記事は、こちら(→第1回、第2回、第3回) ちなみに、<SFガジェット>のカテゴリーのタイトルは、すべて、「あるもの」を元ネタにしています。暇な人は、考えてみてくだ..
Weblog: リンカーン島
Tracked: 2007-06-27 23:57


Excerpt: 宇宙艦隊宇宙艦隊(うちゅうかんたい)は、宇宙空間における戦闘用艦艇で構成される架空の艦隊である。主に宇宙戦艦や宇宙空母、宇宙戦闘機などから成り、宇宙戦争(星間戦争)を扱った様々なサイエンス・フィクショ..
Weblog: SFフリーク集合!
Tracked: 2008-02-26 12:25