夢見る惑星フォルゴーン

[題名]:夢見る惑星フォルゴーン
[作者]:E・C・タブ


 〈デュマレスト・サーガ〉第二巻です。
 在処の分からない故郷を求めて宇宙をさすらう主人公デュマレスト。今回彼は、ある事情を持つ女性を護衛することを契機に、その女性にまつわるお家騒動に巻き込まれることになります。
 一見すると、病弱で心を病んでいるかのように見える娘デライ。しかし彼女には特殊な能力があったのです。

 奇妙な浮遊獣が空を彩る惑星カイルの〈フェスティバル〉で、デュマレストは次の旅費を稼ぐために見世物小屋で格闘技の公演を行っていました。
 〈フェスティバル〉が終わりに近づいた頃、デュマレストは街の管理官モト・シャマスキから、ある若い娘を護衛して惑星ハイヴへ無事送り届けて欲しいという依頼を受けます。娘の名はデライ、ハイヴを支配する〈家〉の一つカルダー家の一員でした。
 デライは子供のようにも見える顔色の悪い娘で、酷く怯えていました。デュマレストは当初、彼女が心を病んでいるのだろうと推定しますが、やがて誤りに気付きます。デライは人の心が読めるテレパスであり、他者の悪意を感じ取ることができたのです。
 自分を庇護してくれるデュマレストを愛するようになるデライ。けれども、ハイヴに到着して従兄弟のアスターが迎えに来ると、デライはデュマレストを置き去りにして去ってしまいます。
 それは、デライを妻にしようと目論むアスターの敵意がデュマレストに向かないようにという意図からのものでした。そうとは知らないデュマレストは、デライが自分を見捨てたのだと考え、地球の伝説を知っていると噂される老人ケイレブを探すことにします。
 凶暴な巨大ミュータント蜂が作り出す延命薬アンブロセイラを、支配階級である〈家〉が独占する惑星ハイヴ。銀河規模の知的集団サイクランは、その星を秘密裏に支配下へ収めんと画策していました。
 そして、物語の舞台が惑星フォルゴーンへ移ったとき、デュマレストはまたも彼らと対峙することを余儀なくされるのです。

 本書の注目ガジェットは、低速代謝です。
 低速代謝は高速代謝と逆に体の代謝速度を低下させる措置です。低速代謝剤を打たれた者は、周囲からはゆっくり活動するように見え、逆に当人からは周囲のものが速く動いて見えるようになります。
 主な利用方法は、宇宙旅行の時間を(体感時間で)短縮させることですね。〈デュマレスト・サーガ〉の世界ではエアハフト航法という超光速航法が実現していますが、それでも恒星間の移動には長い時間がかかるため、お金に余裕のある者は低速代謝剤を用いてそれを短くしようとする訳です(この旅行方法は「特等」と呼ばれます)。例えば、代謝速度が数十分の一になれば、一ヶ月の長旅が一日程度に感じられることになります。もっとも、本人にとっては一日でも、実際には一ヶ月かかっているため、浦島太郎状態になりかねない恐れもありますが(^^;)
 ちなみに、低速代謝の原作での呼び名は"quick-time"になります。こちらも高速代謝と同じく、単語の選び方に文化の違いが現れているのでしょうか。

 星から星へと渡り歩く無宿者のデュマレストですが、行く先々で出くわすのが銀河規模の組織・サイクランの構成員サイバーです。
 サイクラン("Cyclan")は、宇宙の全ての謎を解き明かすという至上命題を達成するための組織です。目的そのものは立派に思えますけれども、サイクランは人間の感情というものに重きを置いておらず、他者は全て道具としか見ていません。しばしば惑星の為政者にサイバーを助言者として送り込みますが、その助言はサイクランの支配力を高めることが目的であり、人民の幸福などは一顧だにされないようです。
 サイクランの正規メンバーであるサイバーは、頭を剃り上げ紋章の付いた真紅のローブを身に纏った、理知的かつ冷酷、そして極めて没個性的な存在です。彼らはは若い頃に脳手術を受けて一切の喜怒哀楽を感じないようにされています。唯一の喜びは知的満足感で、サイバーのことを人間ロボットなどと呼ぶ者もいます。
 サイクランの本部には摘出された無数の脳が連結された中央知性体が存在し、各サイバーの頭に埋め込まれたホモコン素子("Homochon Elements")を通じて超光速通信により指示を出します(ホモコン素子の起動には若干の準備が必要)。サイバーにとって、肉体が衰えた後に自らの脳が中央知性体に加わることこそが報酬です。
 物語中では、デュマレストは大抵サイクランの策略に巻き込まれて酷い目に遭い、反感を強めていきます。もっとも、サイクラン側は当初、邪魔な虫けら程度にしか認識していない模様です。しかしながら、ある時点を契機に、デュマレストは是が非にでも捕獲しなければならない重要人物としてサイバー達にマークされることになります。
 作中での位置付けは「主人公と敵対する邪悪な組織」なのですが、毎回かなりサイバー側のエピソードに筆が割かれており(完全封鎖→サマチャジの相→ホモコン素子起動というプロセスもお約束(^^;))、〈デュマレスト・サーガ〉に欠かすことのできない重要な要素です。悪辣な連中ではあるものの、個人的にはお気に入りですね――サイバーになるのは御免被りたいところですが(笑)

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