宇宙の戦士

[題名]:宇宙の戦士
[作者]:ロバート・A・ハインライン


 この作品は、ごく普通の少年が一人前の兵士へと成長していく過程を描く、未来世界の軍隊に焦点を当てたSF小説です。
 本書はその思想的側面の強さから、読者の間で大きな論争を巻き起こしたことでも有名ですね。ハインライン氏の書かれる物語には力の論理を肯定する傾向が見られますが、特に『宇宙の戦士』はそれが強く打ち出されている作品と言われています。しかし、同時に本作があくまで小説――しかも極めてエンターテイメント性の高い――であることも忘れてはならないでしょう。作品に込められた思想の肯定・否定はさておき、この物語が娯楽性に優れる点は多くの人が認めるところではないでしょうか。
 ふとしたきっかけで地球連邦軍へ入隊する道を選んだ少年ジョニー。彼は過酷な訓練と厳しい実戦を経て、強化服を身にまとい敵と戦う機動歩兵へと成長していくのです。

 時代は遥か未来、地球人が太陽系外へと進出し、他の異星人と接触を果たした時代です。
 とある裕福な家庭で育った少年ジュアン・リコ(ジョニー)は、高校卒業時に親友のカールが地球連邦軍へ入隊する気であることを知り、自分も同様に志願すると言い出します。もっともそれは本気ではなく、父親に卒業時の火星旅行をプレゼントされたことで意欲はすぐに消えてしまいました。
 けれども、カールの入隊手続きに同行したジョニーは、そこで同級生の少女カルメンと出会います。カルメンもまた軍へ入隊するつもりだと言うのです。そこでジョニーはつい見栄を張って、自分も入隊するのだと口にしてしまいます。そして、それを撤回するタイミングを逸し、ジョニーは正式に入隊することになってしまったのでした。選ばれた兵科は機動歩兵、強化服を着て最前線で敵と戦う武隊です。
 両親と喧嘩別れになった後、アーサー・キューリー・キャンプへと赴いた彼を待っていたのは、過酷な新兵訓練でした。ズイム軍曹を始めとする教官達はジョニーら新兵を徹底的に締め上げます。
 厳しい訓練過程、そして仲間の新兵への軍法会議といった事件を経て、ジョニーはあまりの辛さに除隊願を出すことに決めます。軍隊と、それを務めることにより得られる権利のことなど忘れ、両親の元へ帰ろうと。
 ところが……。

 本書の注目ガジェットは、強化服(パワード・スーツ:"powered suit")です。
 これは機動歩兵("mobile infantry")が従来の歩兵と異なる最大のポイントで、着用者の筋力を倍増させる能力を持つ頑強な防護服といったものです。宇宙服としても使え、中世の鎧など比較にならない程強固、戦車よりも遥かに強力だとされています。
 外観は鋼鉄製のゴリラのような格好で、ゴリラサイズの兵器で武装しています。強化服の内部には無数の圧力伝達装置が配置され、着用者の動きを感知してそれをトレースします。このため、ただ動くだけなら強化服は訓練せずとも操作可能です。(実際には、各種装置の操作や戦闘のための訓練が必要になります)
 作戦実行時にしばしば、機動歩兵は強化服を着た上で更にカプセルへ詰め込まれ、衛星軌道上の宇宙船から弾丸のように射出されて惑星へと降下します。このため、機動歩兵はカプセル降下兵("capsule trooper"または"cap trooper")とも呼ばれるようです。

 作中世界において地球人はいくつかの異星種族と接触を果たしているようですが、この中で明白に敵対関係にあるのが『クモども("the bugs")』と呼ばれる疑蜘蛛類生物です。
 惑星クレンダツウを本拠とし、外観は蜘蛛に似ていますがその生態はむしろ白蟻に近い存在です。労働グモ・兵隊グモ・頭脳グモといった階級に分かれており、その頂点には女王が君臨しています。宇宙船を建造することができる知的生物でありながら、労働グモや兵隊グモは知性を持ちません。
 主人公ジョニーはややアラクノフォビア気味なのか、蜘蛛はおろかエビやカニを食べることすらできないほど節足動物を嫌悪しているようです。その偏見が入っているのかどうかは不明ですけど、作中では『クモども』は人間と相容れない存在として描かれます。

 本作での地球社会は、完全に軍が主導権を握っています。市民権は在郷軍人にのみ認められ、軍務に服したことのない者には投票権が与えられません。(軍人は個人の利益よりグループの福祉を優先するため、とされています)
 地球連邦軍は全て志願兵より成り、下士官から将軍に至るまで全員が新兵からの叩き上げです。女性は宇宙船パイロットへの適正が高いことから海軍には女性が少なからずいるのですが、機動歩兵は完全に男性のみで構成されるようです。(強化服のおかげで男女の体力差はあまり問題にならないはずですけど、その理由は語られません)
 さらに、教育における体罰の肯定、心神喪失の犯罪者への処刑といったエピソードも登場します。また、史実の戦争における英雄の逸話がいくつかの箇所で引用されています。
 こうしたメッセージ性の強さから、本書は軍事主義・全体主義的だとの批判を受けることになったようです。ただ、その内容云々はともかく、このお話があくまでフィクションであることには留意する必要があるでしょう(実際、ハインライン氏ご自身がどこまで本気だったのかすら不明ですし)。
 純粋に娯楽作品として見た場合でも、本書は十二分に面白い成長物語です。作中世界の倫理観に賛同するか、拒否するか、あるいは距離を取るかを問わず、一読の価値がある傑作SFであることは疑いありません。

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