嵐の惑星ガース

[題名]:嵐の惑星ガース
[作者]:E・C・タブ


 イギリスSF作家E・C・タブ氏の代表作である長大なスペースオペラ、〈デュマレスト・サーガ〉第一巻です。
 〈デュマレスト・サーガ〉は人類が銀河の星々へ植民を果たした遠未来のお話で、銀河規模の組織がいくつかある他は、人類が居住する各々の惑星を統べる統治機構(いわゆる銀河帝国とか、銀河連盟とか)は存在しない模様です。
 主人公デュマレストは、そうした舞台背景の世界において、惑星から惑星へと旅を続ける渡り者の一人です。スペースオペラに属するものの、宇宙空間が描かれることは稀で、大抵はどこかの惑星上でトラブル(特に女性関連)に巻き込まれることになります(笑)
 故郷を離れてあまりに遠く旅をしてきたため、その在処さえ分からなくなってしまった渡り者の男デュマレスト。彼が探し求める故郷の惑星の名は――地球。

 故郷の惑星・地球を求め、銀河をさすらう渡り者アール・デュマレスト。彼は船旅の間を冷凍睡眠により九十パーセント死んだ状態で運ばれる、下等船客として惑星ブルームを目指したはずでした。
 ところが、デュマレストが目を覚ましてみると、そこは惑星ガースでした。彼が冷凍睡眠された後、宇宙船がカンド女皇国の女皇グロリアにチャーターされ、目的地が変更されてしまったのです。
 惑星ガースは「風が天球の音楽のように聞こえる」という触れ込みではあるものの、荒涼として何もない星であり、次の船賃を稼ぐ手段が存在しません。宇宙船発着場の周りにはデュマレストの友人メガンを初めとする、誤ってガースを訪れてしまった者達が宇宙友愛教会の施しを受けてかろうじて生き延びている有様です。ここは渡り者が訪れてはいけない、どん詰まりの惑星でした。
 そんなおり、発着場へ新たな宇宙船が着陸してきました。乗客の一人エメンド公は自らの権力を誇示するタイプの男で、女皇グロリアの侍女シーナ・ソスの気を引くため、特等の旅費を餌に渡り者を子飼いの格闘士モアドと戦わせようと目論みました。
 デュマレストはその挑戦を受け、持ち前の敏捷さを活かして戦いに勝利したものの、重傷を負ってしまいました。エメンド公を嫌っていた女皇グロリアは、デュマレストを気に入り、侍医に彼を治療させることにします。
 図らずもカンド女皇に接近することになったデュマレストは、女皇グロリアとその被後見人シーナ・ソス、そして側近のサイバー・ダインを巡る陰謀に巻き込まれていきます。

 本書の注目ガジェットは、代謝加速剤です。
 〈デュマレスト・サーガ〉の世界では、薬物投与により人間の代謝速度をコントロールする技術が実用化されています。代謝を遅くすれば活動速度が思考も含めて低下するため、当人からは逆に周囲のものは速く動くように感じられます。逆に、代謝を速くすれば周囲のものは遅く動くように感じられるというわけです。
 代謝加速剤は本来、怪我の治療などに使われるもののようで、本巻でもデュマレストが負った怪我を短時間で治癒させるために使用されています。しかしながら、健常者が使用すると常人の数十倍の速度で活動することができるようになります。(某マンガに登場するサイボーグの加速装置みたいな感じです(^^;))
 もっとも、代謝速度が向上しても物理法則は変化していないため、高速代謝状態で不用意な動作をすると致命的な結果を招きかねません(猛スピードで動いているので、転んだだけでも大怪我の元)。また、活動中は大量にエネルギーを消費するため、時折ブドウ糖の錠剤を摂取しないと餓死する危険性もあります。
 余談ですけど、日本語版では「高速代謝」と訳されている状態は、原文では"slow-time"と表されます。周囲から見て自分が高速で動いているのか、自分から見て周囲がゆっくり動いて見えるのかという捉え方の違いな訳ですが、日英の文化的な認識の差違が現れているようで興味深いですね。

 主人公アール・デュマレストは寡黙でストイックなキャラクタです。幾度も宇宙旅行を行っているため主観年齢と実年齢が一致しない状態ですが、おそらく三十代ぐらいと思われます。
 特殊な能力などは持っていませんけど、高い敏捷さと不屈の精神で様々な危機を乗り切っていくタフガイです。正式な教育は受けていない模様ですが、あちこちの惑星を渡り歩いた経験から、かなりの聡明さを身につけています。
 敵には容赦しないものの、弱者には同情的で、自らの不利益を顧みずに他者に手を差し伸べることがしばしばあります(そのせいで苦境に陥ることも多数)。他者に隷従することを厭う、一匹狼タイプですね。弱点と言えば、基本的に貧乏なことでしょうか(笑)
 作中の時代では、地球という惑星の存在そのものが忘れ去られており、人類の故郷は伝説以上のものではありません。そうした中、デュマレストは地球に関する僅かな手がかりを求めて星から星へと渡り歩くことになります。幼い頃、宇宙船に密航して飛び出した故郷の惑星へ帰還すること、それがデュマレストの願いなのです。

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