大宇宙の少年

[題名]:大宇宙の少年
[作者]:ロバート・A・ハインライン


 SFビッグスリーの一角、ハインライン氏によるジュブナイル宇宙SFです。原題は"Have Space Suit―Will Travel"、日本語翻訳版は『スターファイター』の名前で出版もされましたが、あまり「ファイター」な感じの内容ではありません。:-)
 ストーリーの大まかな流れは、比較的普通(?)の日常を送っていた少年がヒロインとの出会いを境に非日常の事件へ巻き込まれていく、言わば「空から女の子が降ってくる」系のお話でしょうか(本書の場合、「空から」ではなく「宇宙から」ですが(^^;))。少々ご都合主義的な部分はあるものの、各所に骨太な設定が盛り込まれているのが、いかにもハインライン氏らしい印象です。

 ヴァージニア州センターヴィル在住の少年クリフォード・ラッセル(キップ)は、高名で変わり者なラッセル博士の息子ではあるものの、当人はごく普通の高校生でした。
 あるときから月旅行をしたいと強く願うようになったキップ。月面に基地が建設されるような時代ながら、まだまだ一般人の手に届くものではありません。そうしたおり、彼は石鹸メーカーのスカイウェイ石鹸が月世界旅行を優勝賞品とした超特大懸賞コンテストを開催することを知ります。応募方法は、石鹸の包み紙と「わたしがスカイウェイ石鹸を使う理由は……」で始まるキャッチコピーを同封して郵送することでした。
 チャートン薬局でアルバイトをしていたキップは、店主チャートンの助力を得て、客に売ったスカイウェイ石鹸の包み紙を貰い受けることにします。そして、重複しないようにキャッチコピーを考えてリストアップし、送りに送った標語数は五千七百八十二通に上りました(笑)
 当選発表の日、テレビの前で固唾を飲むキップは、自分の考えたコピーの一つが優勝したことを知ります――ただし、同文を送った者は複数おり、消印順でキップは優勝を逃してしまいました。(それだけたくさん送ったら、どれが選ばれてもキップのものと重複しそうですが(笑))
 しかし、キップは代わりに中古の宇宙服をもらえることになりました。旧式ですが本物の宇宙服を手に入れたキップは、それをオスカーと名付け、完全に機能するように整備します。地上では無用の長物である宇宙服に入れ込むキップを笑う者もいましたが、彼は意に介しませんでした。
 オスカーを相棒のように感じ始めていたキップですが、大学進学に資金が必要となり、その足しとするためにやむなくオスカーを手放すことに決めました。最後の夜、宇宙服を着て空想の月面散歩をしゃれ込んでいたキップ。しかしそこで、宇宙服の無線機に本物の通信が入ってきます。
 無線の相手は、謎の宇宙船に乗った十一歳の少女パトリシア(おちびさん)でした。彼女は不思議な異星人ママさんもどきと共に、地球侵略を目論む邪悪な異星人・虫けら面から逃れてきたところだったのです。けれども、キップ共々そのまま虫けら面の手下に捕らえられ、月へと連れ去られてしまいます。
 地球を揺るがす危機に立ち向かう羽目になった、普通の高校生キップと天才でこましゃくれた少女おちびさんの冒険が、ここから始まります。

 本書の注目ガジェットは、キップの宇宙服〈機械人間オスカー〉("Oscar the Mechanical Man")です。
 オスカー自体は使い古しの壊れた旧型宇宙服で、特別な機能があるわけではありません。月旅行を望んでいたキップにとって「外れ」賞品だった訳ですけど(^^;)、本物の宇宙服であることを気に入り、独力で徹底的にオーバーホールして実用可能レベルに仕立て上げることになります。この過程がじっくり描写されており、本書の白眉と言えるのではないでしょうか。
 おちびさんとの遭遇後は話が急展開していくことになりますが、オスカーは様々な場面でキップの助けになります。キップはオスカーを擬人化して対話することがしばしばあり(オスカーが本当に喋る訳ではなく、あくまでキップ自身の内面の声)、精神面においてもキップを支える相棒的な存在です。

 本書の原題"Have Space Suit―Will Travel"は作中で不良少年がキップを揶揄する台詞で、『宇宙服あり――ご報参上』と訳されています。元ネタは西部劇ドラマの"Have Gun―Will Travel"と言われます。
 実はこのフレーズには更にルーツがあり、かつて新聞の個人広告で多用された"Have X, Will Travel"というキャッチコピーが由来のようです。「当方○○所有、どこにでも伺います」といった感じでしょうか。不良少年エースは役に立たない宇宙服を有するキップを、そんな風に広告を出してはどうかとからかった訳ですね。
 キップ少年は自己評価が低いきらいがあり、特に頭脳明晰で勇敢なおちびさんと比べ自分を平凡だと認識しているようですが、なかなかどうしてバイタリティに溢れた好感の持てる主人公です。彼とエースとの会話は、努力を惜しまない人間とそれを斜に構えて笑う人間の対比になっています。
 個人的なことで恐縮ですが、かつて清涼飲料水メーカーが弾道宇宙旅行を賞品とした懸賞を行ったとき、私も応募はがきを送った覚えがあります(かすりもしませんでしたが(^^;))。自分ではたくさん送ったつもりだったのですけど、キップと比べると百倍ぐらい努力が足りなかった模様です(笑)
 言いたい奴には言わせておけ。たとえ人に笑われようとも、やるならとことんまで――そんなハインライン氏のメッセージが感じられる、良作ジュブナイルです。

この記事へのコメント

  • yadogae

    映画化して欲しいですね。
    数年前から、そういった計画があるらしいですが、進んでないみたいです。
    小学生の時に読んだ「大宇宙の少年」が、衝撃でした。クライマックスの地球人が裁かれるシーン、よかったです。ジュナイブル版で読んでから、40年以上たちました。いまでもたまに思い出して、スターファーターを開いてます。
    2014年01月23日 22:37
  • Manuke

    おお、映画化ですか。
    映像的な見栄えも良さそうですから、結構アリな感じですね。内容的にも決して古びていませんし。
    仮に映画化されても、オスカーの扱いが悪くならないことを希望(^^;)
    2014年01月25日 00:27

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