任務外作戦

[題名]:任務外作戦
[作者]:ロイス・マクマスター・ビジョルド


 L・M・ビジョルド氏の人気シリーズ、〈ヴォルコシガン・サガ〉に属するお話です。作中の時間では前作『ミラー衛星衝突』の少し後に当たります。
 日本語翻訳版では、表題作の長編『任務外作戦』の他、サブエピソードを描いた短編『冬の市の贈り物』が収録されています。こちらは、主人公にマイルズの親衛兵士ロイック、ヒロインに『迷宮』登場のミュータント兵士タウラ軍曹を登用した後日談です。

 惑星コマールで起きたミラー衛星にまつわる事件で、マイルズはヴォルの女性エカテリン・ヴォルソワソンと知り合うことになり、彼女に恋心を抱くようになっていました。
 エカテリンは息子のニッキと共に惑星バラヤーへと戻り、伯父・伯母のヴォルシス夫妻の家に身を寄せています。マイルズとしてはエカテリンに求婚したいところですが、彼女は夫を亡くしたばかりで喪に服しており、今はまだその時期ではないと判断しました。そして、エカテリンと親しくなるために、ヴォルコシガン館の庭園をデザインする仕事を依頼することにします。
 しかしながら、従兄弟のイワンが仕掛けたいたずらのせいで、エカテリンの周囲にはマイルズほど慎重でない(^^;)求婚者が三人も現れ、マイルズをやきもきさせることになりました。
 その上、バラヤーのヴォル社会でもいくつか面倒事が起きており、特にそのうち二つにマイルズが大きく関わることになります。一つは、マイルズの友人レネ・ヴォルブレットンが曾祖父ではなく侵略者セタガンダ人の血を引いていることが明らかになり、その国守としての正当性が問われることになってしまったこと。そしてもう一つは、子供のいないピエール・ヴォルラトイェル国守が急死したあと、彼の妹ドンナがベータ植民惑星で性転換して男性ドノ・ヴォルラトイェルとなって帰国し、国守の権利を主張したことです。マイルズはレネとドノを応援することになったものの、ヴォル社会は保守的であることから形勢は有利とは言えない状況でした。
 それに加えて、クローンの弟マークが遺伝子昆虫学者エンリーク・ボルゴスと共にヴォルコシガン館へ持ち込んだ遺伝子改良昆虫・バター虫が大変な騒動を引き起こし、マイルズの頭を悩ませることになります。
 そして、てんやわんやの状況下、夕食会でマイルズは最悪のタイミングと状況の中で求婚せざるを得ない羽目に陥り、エカテリンは答えずにその場を逃げ出してしまいました。果たして、二人の関係はどうなるのでしょうか。

 本書の注目ガジェットは、性別変更です。
 〈ヴォルコシガン・サガ〉の時代では、子孫を残すことに関して男女の役割分担は消滅しつつあります。特に人工子宮は女性の負担を減らし、人工授精と組み合わせることで子供の誕生に男女のペアは必須ではなくなっています。(住民が男だけの惑星アトスなども存在)
 とは言いつつも、性別に対する包容力があるのはベータ植民惑星ぐらいで、他の惑星はベータほど進歩的ではない模様です。特に、長らく孤立状態が続いた惑星バラヤーは男尊女卑かつ偏見が強く、バラヤー女性は社会的な立場においても大きな抑圧を受けています。そうした中、女性であるドンナが男性のドノと変化したことで、バラヤー社会では物議を醸すことになります。男性しかなれない国守の座にドノは就けるのか、といったことですね。
 ドンナ/ドノがベータ植民惑星で受けた処置は、生化学的な調整と外科手術の組み合わせのようです。ドノは外見及び機能的に完全な成人男性となったものの、全身の性染色体は依然XXのままということになります。この点が、ドノの政敵の追求対象となるわけです。
 一方、イワンはかつてドンナと男女の仲だったこともあり、違う意味で困惑することになります(^^;)

 お話の中心はマイルズとエカテリンの恋愛絡みですが、役割的には必ずしも主人公ではなく、複数進展していくドタバタ劇の一つといった位置付けでしょうか。
 いくつかの視点が同時に進行していきますけど、そのうちマークと恋人のカリーンが、カリーンの両親コウデルカ夫妻に交際を認めてもらおうとするエピソードも要注目です。マークは出自が出自だけに、コウデルカ夫妻は娘の相手と認めることを渋っているのですが、そんなマーク達の側には心強い味方が付くことになります。
 本作は全体的にコメディ調ですが、特にバター虫のエピソードがとてもユーモラスです。バター虫はエンリークが遺伝子操作で作り出した昆虫で、それが生産するバターは美味なものの、虫自体は「ゴキブリと白蟻と吹き出物を足して三で割った」とマイルズに評される代物です。この昆虫及び、全く空気の読めないエンリークのせいで、事態は収拾の付かない方向へ驀進して行ってしまいます(笑)
 また、後日談の『冬の市の贈り物』は、一転してシリアス分の多めなお話になっています。内容が本編のネタバレを含むためにあまり紹介できないのですけど、『迷宮』のタウラや、過去のエピソードでマイルズと関わったキャラクタが再登場している点が見所です。
 なお、今作ではマイルズ君の活躍がほとんど見られず、ファンとしては残念なところですが、裏では聴聞卿としての実績を上げている模様です。そうしたエピソードも、いずれ小説化されることを期待したいところですね。

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