われら顔を選ぶとき

[題名]:われら顔を選ぶとき
[作者]:ロジャー・ゼラズニイ


 本書はイタリア系マフィアをモチーフとする、未来世界での異色サスペンス小説です。
 このお話の位置付けは少々難しいところですね。ゼラズニイ氏は世界各地の神話をベースにしたSFをいくつか手がけられていますが、「それしか書けない」と言われるのが嫌になり、別の種類のものを書こうとしたのが本書とのことです。とは言うものの、若干ではありますがそれら神話SFとの共通点も見られます。この場合、イタリア・マフィアを近代における神話と見なすことになるのでしょうか。
 もっとも、本書を表す上で分類云々よりも強調したいのは、もっと端的に「カッコよさ」の一語に尽きます(^^;) 主人公達(?)の状況の異様さと相まって、そのクールな振る舞いに痺れてしまいますね。
 未来世界によみがえった殺し屋アンジェロ。彼が人類の倫理進化を目指して作り上げた秘密の『一族』は、しかし謎の敵の脅威に晒されることになるのです。

 マフィアに所属する殺し屋、“天使のアンジー”アンジェロ・ディ・ネグリ。彼は一九七〇年代のある夜、クラブを出たところで突然の襲撃に遭い、命を落としました。
 しかし、アンジェロはそうした事態に備え、自分自身の死体を冷凍保存するという手はずを整えていたのです。かくして遥か未来世界にアンジェロは復活を遂げます。
 超光速宇宙船やテレポーテーション技術が確立し、人類が宇宙へと進出し始めた時代――けれどもそこでは、相変わらず暴力が必要とされていました。アンジェロは彼の子孫ポール・ネロに、殺し屋としての資質を買われたのです。アンジェロは未来のシチリアでしばしの時を過ごした後、ポールの依頼を受けることにします。
 ターゲットは半ばコンピュータと融合した人物ハーバート・スタイラー。アンジェロは幾多の妨害に遭いながらも、スタイラー殺害を成し遂げました。ところが、その抗争の結果、人類は滅亡の危機に瀕してしまったのです。
 アンジェロはスタイラーの遺した研究成果を元に、自分自身のクローンからなる『一族(ファミリー)』を生み出し、人類を陰から守護することにします。
 そして時は流れ、人類は十八の惑星上へ広がるまでに勢力を回復していました。但し、人々は《家(ハウス)》の中から出ることを許されず、生まれてから死ぬまで決して外を見ることはありません。『一族』は決して表社会に出ることなく、人知れず社会を操作し、人類の庇護に務めていました。
 そんなある日、事件が起きます。『一族』の一人ラングは、「自分が殺される」という異常事態に遭遇しました。つまり、同じく『一族』のヒンクリーが何者かに殺害され、ラングがその記憶を受け継いだのです。そして、事態を究明しようとするラング自身もまた。
 誰もその存在を知らないはずの『一族』のメンバーを狙う謎の男、ミスター・ブラック。その目的は、そして正体は何なのでしょうか……。

 本作の注目ガジェットは、『一族(ファミリー)』です。
 イタリア系マフィアのファミリーは結束力が高いと言われますが、作中の『一族』はそれ以上と言えるでしょう。彼等は全員同じ遺伝子を持つクローンで、同一人物に近い存在なのですから(^^;)
 メンバーはそれぞれ個性を持っていますが、融合(メッシュ)と名付けられたテレパシー会合によって記憶を共有することができます。『一族』の最年長者は結節点(ネクサス)と呼ばれ、それ以前の『一族』の記憶を持っています。結節点である人物が死ぬと、その記憶は次の年長者が受け継ぎます。
 但し、記憶量が人間の限界以上に達しないよう、定期的に不要な記憶をコンピュータの中に封印し、自分の脳からは除去しているようです。物語の第二部(ヒンクリーが殺されたところ)では、この封印(ピンと呼ばれます)が七回実行されています。

 本書の特に面白い部分は、一人称の語り手が持つ個性の違いですね。
 『一族』の面々は同一人物の派生ながら、別の個性を持っています。作中では語り手が殺される等の事態によって幾度か視点が移り変わりますが、それぞれの人物の状況認識や判断は異なります。多重人格的な状況に近いものの、実際にも個々人は別の肉体を持っているわけです。
 この一種異様なシチュエーションの中で、敵に対処しようとするクールな主人公達(クールでない者もいますが(^^;))と、彼等の抹殺を目論む敵との戦いは実にスリリングです。マフィア的存在でありながら人類の擁護者となった『一族』は、ゼラズニイ氏の神話SFにしばしば登場する「不死の男」に相当するのかもしれません。

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