アシモフ初期作品集2 ガニメデのクリスマス

[題名]:アシモフ初期作品集2 ガニメデのクリスマス
[作者]:アイザック・アシモフ


 アシモフ氏が作家活動の初期に発表された作品を集めた短編集第二弾です。
 前巻収録作の時点ではSF作家になりたてのほやほやだったこともあり、まだあまり氏ならではのテイストは少なめの印象ですが、本巻ではかなり「アシモフらしさ」の方向性が定まりつつあるように感じられます。単に「アシモフらしさ」という言い方では曖昧に過ぎるので、個人的な印象でいくつか列挙してみると、

・ロジックパズル傾向(≒推理小説的)
・社会派SF
・どんでん返し的オチ
・暴力の忌避
・恋愛要素の薄さ(笑)

 といった辺りでしょうか。もちろん、アシモフ氏の作品は非常に数多く、これに当てはまらないお話も書かれていますけど(恋愛では『神々自身』とか?(^^;))、全体としてはこうした傾向が見え始めています。
 おそらく、この方向性のせいでアシモフ作品はあまり映像映えしないため、SF界の重鎮ながら氏の小説を原作とする映像作品がほとんどない(『アンドリューNDR114』と『アイ,ロボット』は実質二次創作が原作)という事態になっているものと思われます。ロボット三原則や心理歴史学は絵で表現し辛いですし。:-)

◎地球種族

 銀河系内のヒューマノイド型種族で構成される銀河系連盟は、太陽系に生息する地球種族(ホモ・ソル)が恒星間宇宙旅行を実現させたことを喜び、彼らを自分達の仲間に迎え入れようとしていました。
 銀河系連盟では心理学が発達しており、社会を正しく機能させることに不可欠なものとなっていました。銀河系議会はアルクトゥルス大学の高名な心理学者タン・ポーラスに、地球への心理学者派遣を要請します。しかしながら、タン・ポーラス自身は奇妙なヤリイカの行動を研究中であり、大して珍しくもない新種族参加などには興味がなかったため、代わりに自分の学生ロア・ハリディンを行かせることに決めました。
 ところが、この地球種族は新米心理学者の手に余る連中で、銀河系連盟への参加を拒否してきたのです。この異常事態に銀河系議会は紛糾し、タン・ポーラスは重い腰を上げざるを得なくなるのですが……。

◎金星の混血児たち

※『カリストの脅威』収録の『混血児』の続編になります。

 地球人と火星人の混血であり、両者の利点を併せ持った新たな種族トゥイーニー。彼らのリーダーであるマックス・スキャンロンは、地球人との衝突を避けるためトゥイーニーの一族を宇宙船に乗せ、まだ未開拓の地が残された金星へと移住しました。
 金星到着後、マックスはリーダーの座を長男アーサーへと譲ります。そして彼らは地下都市建設に取りかかりました。
 一方、マックスの次男ヘンリーは恋人のアイリーンと共に湖へ遊びに行き、そこで人懐こい大型両棲類に出くわします。報告を受けたマックス達は湖へ赴き、その両棲類フィーブが高い知能と接触テレパシーを持つ温和な知的生命であることを発見するのです。
 しかし、金星のトゥイーニー植民地近辺にも地球人の開拓民が押し寄せて来ようとしていました。彼らは開拓民と諍いが起こることを危惧し、歪曲二次元静電光線(何かバリヤーっぽいもの(^^;))が完成するまで、地下に潜ることを決断しました。
 けれどもヘンリーとアイリーンは、その隠匿生活を何とか回避できないものかと、年長者達に内緒でフィーブ達に助けを求めに行くことにします。

◎虚数量

※『地球種族』の続編です。

 地球種族の騒動を解決後、心理学者タン・ポーラスは再び奇妙なヤリイカの研究に戻り、常識外れの大胆な手法でこれを解決しました。彼は心理学方程式に虚数量を導入したのです。人々の中には、心理学に虚数量を用いることの意味を見いだそうとする者が少なからずいましたが、タン・ポーラスは意味を追及せず役立つ道具として応用したのみでした。
 難問を解決したタン・ポーラスは、長らく留守にしていたリゲル第四惑星の自宅へ里帰りすることにしました。彼は心理学の大家で、どんな人間も思いのままにあしらうことができます――自宅で彼の帰りを待つ妻ニナでさえも(^^;)
 ところがニナは、タン・ポーラスを出迎えたときも予想された涙や怒りを見せませんでした。心理学の予測に反した行動を取る妻に、タン・ポーラスは困惑を隠せません。
 一方、彼が留守中のアルクトゥルス大学では、学生がタン・ポーラスのヤリイカにちょっかいをかけたせいで大変なことが起きていました。ヤリイカが発生させた“死の場(デス・フィールド)”のせいで、銀河に滅亡の危機が迫っていたのです(笑)

◎遺伝

 人類が太陽系へ進出した時代、一つの大がかりな実験が行われました。それは一卵性双生児の男児を、一人は開拓地のガニメデ、もう一人は古い文明化された地球で育て、二人が成人した暁に両者を引き合わせて遺伝と環境のどちらが優勢な因子なのかを調べるというものでした。
 かくして二十五回目の誕生日に、ガニメデ出身の兄ジョージと地球出身の弟アレンは火星で出会い、宇宙製薬株式会社の火星農場を共同運営することになります。ジョージは機械に頼りっきりで洒落者の弟を軟弱と見做し、アレンは機械嫌いで野暮ったい兄を頑迷な田舎者と認識し、仲が悪いままでした。
 そうした中、大規模な砂嵐が農場を襲い、機械類が壊れてしまいました。悪いことに、ちょうど同時期に近隣の都市アーレソポリスで地震が発生し、農場で育てていた薬草の花が必要になります。
 ジョージは肝心なときに限って機械が壊れて役に立たないと主張し、アレンも認めざるを得ませんでした。二人は旧式の砂トラックを使い、花をアーレソポリスに輸送しようと農場を出発するのですが……。

◎歴史

 地球と金星は戦争状態に突入しました。
 地球在住の火星人歴史家ウレンは、戦争という愚行を嘆きつつも、過去の歴史に関わること以外には大して興味がありません。戦いの趨勢はは金星側に傾きつつありましたが、どちらが勝とうとウレンにはどうでもいいことでした。
 ところがウレンは、軍に入隊した地球人の友人ジョニーに対し、地球側がなぜ崩崩兵器(火星の古代戦争で使われた兵器)を使わないのかとうっかり尋ねてしまったことで、大きなトラブルに巻き込まれることになります。

◎ガニメデのクリスマス

 ガニメデ物産は木星の衛星ガニメデにドームを構え、原住民の駝鳥型生物オストリ人を労働力として雇っていました。
 一週間後にクリスマスを控えたある日、社員のオラフ・ジョンスンがオストリ人達に、ついサンタクロースの話をしてしまいました。おとぎ話をすっかり信じ込んでしまった純朴なオストリ人は、自分達は良い子にしているのだからサンタクロースがプレゼントをくれるはず、サンタクロースが来ないのなら働かないと言い出します。
 このままオストリ人のストライキが続けば、出荷ノルマを達成することができません。スコット・ペラム隊長は怒り心頭に発しつつ、余計なことをオストリ人に吹き込んだオラフに責任を取らせることにします――すなわち、彼にガニメデ流サンタクロースの扮装をさせることで(笑)

◎地下鉄の小男(ジェイムズ・マクレイと共作)

 ニューヨーク地下鉄の車掌カレンは、ある日奇妙なことに出くわしました。先頭車両の乗客だけが、なぜか駅に降りないのです。
 乗り込んでくる客はいたため、やがて先頭車両は超満員になりますが、次の駅に到着しても誰も降りようとせず、別の車両に移るものもいません。彼が試しに先頭車両だけドアを開けないようにしてみても、文句を言う者はいませんでした。
 終点のフラットブッシュ街駅に到着しても、それでも乗客は降りません。困惑したカレンは運転士のガスに話しかけようとしたのですが、運転室にいたのは見知らぬ年寄りの小男でした。
 そうするうち地下鉄の出発ベルが鳴り、カレンは慌てて電車から降りようとするものの、間に合いませんでした。そして、あろうことか電車は線路がない方向へ動き出し、存在しないはずのトンネルへ進入していきます。

◎新入生歓迎大会

※『地球種族』と同じ世界です。

 アルクトゥルス大学の二年生ミロン・トゥバル、ビル・セファンの二人は、生物社会学で落第点を取ったため休み中も大学に残らざるを得なくなり、暇を持て余していました。そこへ、心理学専攻のワリ・フォラセがやってきて、早くも大学を訪れていた新入生を一つからかってやろうと持ちかけます。その新入生達は新たに銀河系連盟へ加わった奇妙な種族で、いささか手荒な新入生歓迎大会でもてなしてやろうというのです。
 かくして地球人の新入生十人は、見知らぬ異星人に宇宙船へ押し込まれ、未開惑星へと置き去りにされます。上級生達は一晩だけ新入生をスピカ系第四惑星に放置して肝を冷やさせた後、翌朝迎えに行くという魂胆だったのです。
 しかし、ここで予想外のことが起きます。宇宙船が隕石に衝突して故障したため、修理してスピカ4へ戻るまでに八日間かかってしまい、置き去りにした場所へ行っても地球人はいなくなっていました。
 いたずらでは済まされない大ごとになってしまった、と三人は焦るのですが……。

◎スーパー・ニュートロン

 アナニアス名誉会議と名付けられた昼食会がありました。彼らは毎月の第一日曜日に昼食を共にするのですが、その際議長に選ばれた者が奇想天外な嘘をつき、矛盾を突かれれば他のメンバーの昼食代は議長持ち、というしきたりだったのです、但し、その嘘は複雑でなおかつ華麗なものでなくてはならず、かつ真実のように聞こえなくてはなりません。その上で、他のメンバーの追求を全て躱さなければならないのです。
 その日は「わたし」(名前不明)が議長当番だったのですが、傍聴者扱いの非メンバー、ギルバート・ヘイズが、自分に議長役を変わって欲しいと願い出ます。彼は「太陽系は本日午後二時十七分半きっかりに終末を迎える」と宣言したのです。興味を引かれた一同は、ヘイズに発言の機会を与えました。
 ヘイズが語り始めたのは、スーパー・ニュートロンなる謎の天体が太陽に迫りつつあるという、世にも奇妙な話でした。

◎決定的!

 ガニメデ植民局長官ニコライ・オルロフは、着任から三ヶ月の間ずっと放置してきた“たわごとめいた木星人騒ぎ”の件で、ガニメデ人レオ・バーナムに詰め寄られることになりました。
 バーナムの話は、木星の濃密な大気の中に住む木星人が最後通告をしてきたというものでした。木星人は傲岸かつ数が多く、科学力も侮れない存在です。彼らは超高圧の木星表面から離れられないと思われてきましたが、力場(一種のバリヤー)を使えば木星人にも宇宙旅行が可能かもしれないという危惧がありました。
 容易ならざる事態であることをやっと理解したオルロフはバーナムと共に、力場を研究中の物理学者エドワード・プロッサー博士の下を訪れることにしたのですが……。

◎幽霊裁判(ジェイムズ・マクレイと共作)

 ろくでなしの男ラッセル・ハーリーは、叔父ゼブが死亡してその遺産を相続したため、叔父の家を売り払おうと考えました。
 シエラネバダ山脈近くにある古い木造家屋ハーリー・ホールへ赴いたハーリーですが、しかしそこには血を垂れ流す幽霊が住み着いていて、彼を追い返してしまいます。這々の体で逃げ出したハーリーは、レベル・ビュートの町へ歩いて辿り着き、幽霊ハンクの存在を知っていた町の人々に笑いものにされました。
 そんなハーリーに、幽霊退治に詳しいという男ニコルズが声をかけてきます。ハーリーが半信半疑ながらも、ニコルズの言う通り悪臭のする薬草と呪文を使ってみたところ、見事ハンクをハーリー・ホールから追い出すことに成功したのです。
 とろが、事態は思ってもみなかった方向へ転がり出します。ゼブの生前に彼と親しく付き合っていた幽霊のハンクは、自分にはハーリー・ホールの先住権があるのだと主張し、弁護士を雇ってハーリーを訴えたのです。
 前代未聞の幽霊裁判の行方やいかに。

◎時猫

 「ぼく」(名前不明)が子供の頃、近所の掘立小屋にマックじいさんという老人が住んでいました。
 マックじいさんはかつて探鉱技師で、採鉱ブームのときには小惑星へ赴いたこともありましたが、そのころは七匹の猫に囲まれてのんびり暮らしていました。「ぼく」が何故猫好きなのかと尋ねると、マックじいさんは昔飼っていた猫そっくりのペットを思い出すからだと説明しました。
 その猫は四次元的存在で、長さはおよそ一フィート、高さは六インチ、幅は四インチ、そして次の週の中程まで伸びていたと言うのです。

 短編のうち『地下鉄の小男』と『幽霊裁判』の共作者ジェイムズ・マクレイ氏は、フレデリック・ポール氏のペンネームです。ポール氏はアシモフ氏と同世代(ポール氏が数ヶ月年上)で、同じSFサークルに属していたことから親しくなったとのことです。一九四〇年代、ポール氏は編集者としていくつかのSF雑誌立ち上げに関わった他、作家としても活動されていたようですが、当時はあまり芽が出なかった模様ですね。一九七〇年代になって、ポール氏はサイボーグSFの傑作『マン・プラス』や連作『ゲイトウエイ』を書き上げ、メジャーなSF作家への仲間入りを果たすことになります。

 収録作で興味深いのは、『地球種族』関連三作です。この作品群は、ヒューマノイド型異星人が多数存在する銀河系という舞台背景なのですが、数学で裏打ちされた高度な心理学が人々の社会的行動を予測・制御することができるという設定が盛り込まれています。これが後に、〈ファウンデーション・シリーズ〉の心理歴史学というガジェットへ発展する訳ですね。
 個人的お勧めは、ドタバタ具合が楽しいユーモア作品『ガニメデのクリスマス』、どこか後年の名作推理小説『黒後家蜘蛛の会』を思わせる法螺話(?)『スーパー・ニュートロン』、科学者と技術者の問題解決に対するアプローチの違いを表現した『決定的!』辺りですね。また、異色ファンタジー『幽霊裁判』は既にアシモフ氏ご自身でもどこまでが自分の書かれた部分なのか忘却の彼方だったようですけど(^^;)、状況のトンデモ具合とオチのエスプリが楽しい作品です。

この記事へのコメント

  • しろくま

    こんにちは
    「ガニメデのクリスマス」楽しいですよね。
    アシモフ氏Manukeさんもお好きなようですが、私もかなり好きです。
    アシモフ氏のいいところは「天才なようで秀才だけどやはり天才」な気が...(意味不明?)
    フレデリック・ポール氏亡くなられたんですね。
    21世紀になっていろんな方なくなられてますね、確かにさびしいです。
    2013年09月28日 09:12
  • Manuke

    アシモフ氏もデビュー作近辺はまだパッとしない感じなんですよね(^^;)
    ただ、そこから実力を付けていくまでのペースが凄いと言うか……。
    天賦の才もあったと思いますが、キャンベル氏の指導も少なくなかったのではないかと。
    新人SF作家がSF界の巨人へ成長していく様が見られる本作品集は本当に面白いです。
    2013年09月29日 00:49

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