ジュラシック・パーク

[題名]:ジュラシック・パーク
[作者]:マイクル・クライトン


 太古の昔に絶滅してしまった古生物には、とかくロマンをかき立てられるものですね。その中でも最も人気が高いのは、なんと言っても恐竜でしょう。巨大な体躯、バリエーションに富んだ数々の種、二億年程の間地上の覇者でありながら突如として滅んでしまったという悲哀。子供から大人まで、多くの人々を魅きつけて止まない生物です。(私もその一人です(^^;))
 本書『ジュラシック・パーク』は、緻密な状況設定とスピード感溢れるストーリー展開を得意とされるマイクル・クライトン氏の、現代を舞台とする恐竜SFです。そしてもちろん、恐竜映画のエポックメイキング作品である映画版『ジュラシック・パーク』の原作でもあります。
 太古の恐竜達を現代によみがえらせ、見せ物にしようと計画された〈ジュラシック・パーク〉。しかし、そこに潜む危険性を人々は軽視していたのでした。

 コスタリカの西に位置するイスラ・ヌブラル(霧の島)で、何やら怪しいことが起き始めていました。イスラ・ヌブラルに建設中のテーマパークの作業員が、どう見ても咬み傷にしか見えない怪我で命を落としたのです。しかし、管理者は切削機に巻き込まれたのだと言い張ります。
 また、付近の村ではトカゲに子供や赤ん坊が襲われるという事件が頻発していました。けれども様々な関係者の思惑から、事態は世間の目に触れることはありませんでした。
 そうした中、モンタナ州のバッドランドで恐竜の発掘をしていた古生物学者アラン・グラントに対し、ハモンド財団創立者にしてInGen社社長ジョン・ハモンドから連絡が入ります。イスラ・ヌブラルに建設中の自然保護区に関して相談に乗って欲しいと言うのです。莫大な報酬を約束されたグラントは、同僚の古植物学者エリー・サトラーとともに現地へ向かうことにします。
 数学者イアン・マルカム、弁護士ドナルド・ジェナーロ、そしてシステムエンジニアのデニス・ネドリーを加え、一行はイスラ・ヌブラルへと到着しました。そして彼等は驚愕の事実を目の当たりにします。そこには太古に滅んだはずの恐竜達が大地を我が物顔で闊歩していたのです。
 滅亡した恐竜を現代へ復活させ、島丸ごとをテーマパークとして公開しようと目論む〈ジュラシック・パーク〉。それがInGen社の狙いでした。
 しかし、復活させた恐竜を完璧に管理下へ置くことの困難さを、ハモンドを始めとするInGen社の面々は軽視していました。そして、恐ろしく忌まわしい事件が幕を開けるのです。

 本書の注目ガジェットは、恐竜の復元です。
 作中では、琥珀の中に閉じ込められた中生代の蚊の体内から恐竜の血液を取り出し、そこからDNAを復元して恐竜を復活させるという手法が取られています。InGen社が復元したのは以下の恐竜十四種及び翼竜一種です。

・アパトサウルス(竜脚類)
・オスニエリア(鳥脚類)
・ヴェロキラプトル(獣脚類)
・エウオプロケファルス(曲竜類)
・スティラコサウルス(角竜類)
・ステゴサウルス(剣竜類)
・ティラノサウルス(獣脚類)
・ディロフォサウルス(獣脚類)
・トリケラトプス(角竜類)
・ハドロサウルス(鳥脚類)
・ヒプシロフォドン(鳥脚類)
・プロコンプソグナトゥス(獣脚類:※学名抹消)
・マイアサウラ(鳥脚類)
・ミクロケラトプス(角竜類)

・ケアラダクティルス(翼竜)

 個人的には竜脚類の代表的存在アパトサウルスが含まれているのが嬉しいですね。
 但し、作中に登場する獰猛で利口なハンター恐竜・ヴェロキラプトルは、どちらかと言うとデイノニクスにするべきだったと専門家からは指摘されています。またプロコンプソグナトゥスは、現在では複数の化石が混ざったものと分かり、学名抹消という憂き目にあっています(^^;) 古生物学も日進月歩ですから仕方のないところではありますが……。
 現実問題として、蚊の体内でDNAはすぐに消化されてしまうため、そこから遺伝情報を取り出すのは困難だと言われているようです。しかしながら、実際に琥珀に閉じ込められた数千万年前のハエDNAを抽出することに成功した例もあり、全くの絵空事とも言い切れません。
 更に、二〇〇五年に米モンタナ州で発掘されたティラノサウルス・レックス化石の中から血管等の軟組織が見つかったという驚くべき報告がありました。将来本当に恐竜が復元される可能性も、ゼロではなくなりつつあります。
 もっとも、本書のようなトラブルまでは実現して欲しくないですけど(笑)

 映画版『ジュラシック・パーク』との違いにも軽く触れておきましょう。
 バイオテクノロジー産業への警鐘を核とする密度の高い原作とは異なり、映画版は社会風刺面がやや控えめでシンプルな構成になっています。とは言うものの、ストーリーのツボが良く押さえられた取捨選択です。
 主役である恐竜達は、巨大竜脚類がアパトサウルスからブラキオサウルスへ変更(ちょっと残念(^^;))された他、遠景でのパラサウロロフス、そしてダチョウ恐竜ガリミムスの躍動的なシーン追加が大きな違いですね。逆に、後半に登場する翼竜ドームの場面はばっさりカットされています(映画三作目で、少々納得のいかない形で映像化されましたが)。
 主要人物はほぼ同じです。一番目につく違いは、アラン・グラント博士が小説版では子供好きなのに対し、映画版は子供嫌いという点ですね。映画ではグラント博士と二人の子供の交流が大きく取り上げられていますが、原作ではそれほど重要な要素ではありません。

 本書及び映画版『ジュラシック・パーク』は〈恐竜もの〉のマイルストーン作品と言えますが、その最大の功績は恐竜温血説を世に広めたことではないでしょうか。
 古生物学者ジョン・オストロム氏やロバート・バッカー氏によってこの説が提唱されたのは一九七〇年代ですが、一般の目に触れる恐竜復元図は相も変わらず鈍重で愚鈍な爬虫類というイメージでした。それが本作のヒットを境に、しっぽを高く持ち上げた躍動的な形で描写されることが多くなったように思います。また、ティラノサウルスに代表される二足歩行恐竜も、某怪獣のような上半身を起こした姿勢ではなく体を水平にした形態で表現されるようになりました。
 本作は娯楽や風刺的側面だけでなく、科学による新しい恐竜像を啓蒙してくれた意味でも大いに意義ある、恐竜SFの傑作です。

この記事へのコメント

  • 三毛ネコ

    はじめまして。私はクライトンのファンで、彼の作品はすべて読んでいます。ジュラシックパークは、その非凡な着想、スリリングな展開、まさに彼の最高傑作ですね。

    良かったら、私のブログも読んでみてくださいね。
    2007年06月18日 05:56
  • Manuke

    クライトン氏の作品は、いずれも綿密に練り上げられている点が素晴らしいですよね。
    中でも本書は、現代に恐竜を蘇らせるという〈恐竜もの〉の新しい切り口を見いだしてくれた点も評価したいです。

    三毛ネコさんのブログを拝見させていただきましたが、色々なジャンルを幅広く読まれてらっしゃるのですね。切り口が面白いです。
    ウチはSFオンリーですけど、お互い頑張っていきましょう。
    2007年06月18日 23:23
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