アシモフ初期作品集1 カリストの脅威

[題名]:アシモフ初期作品集1 カリストの脅威
[作者]:アイザック・アシモフ


 本書は二十世紀SFの大御所アイザック・アシモフ氏が手がけられた作品のうち、その経歴初期に公表されたお話を集めた短編集です。(作品は執筆順に収録されています)
 他の短編集同様、幕間には氏ご自身による作品執筆時のミニエピソードがふんだんに盛り込まれており、寸評よりよほど面白いのがレビュアー泣かせですね(笑)
 アシモフ氏は今でこそSFビッグスリーの一角と認識されていますけれども、そのデビュー時はそれほど衆目を集める方ではなかったようです。商業デビュー作である『真空漂流』や、本書収録の『カリストの脅威』を書かれた時点でのアシモフ氏の年齢は十八歳、SFファンが高じてSF作家になってしまったというタイプですね。:-) 特に初期のころは、あちこちの雑誌社に持ち込んでは掲載を断られる、という苦労をされた模様です。

◎カリストの脅威

 アシモフ氏が初めて商業作家になった、記念すべき作品です。(雑誌掲載は『真空漂流』の方が早いのですが、執筆はこちらが先)
 木星の衛星ガニメデからカリストへ向けて出発した偵察船セレス号。彼らは木星の衛星探査を行う第八次隊でした。六人の荒くれ男からなる探査隊は、しかし先行する七つの隊が全滅していることに不安を隠せません。
 そうした中、キャプテンが船倉に隠していた酒を隊員二人がガメて飲んだくれていると(^^;)、コンテナの中に隠れていた密航者の少年を見つけてしまいます。少年スタンリー・フィールズはガニメデの孤児で、宇宙探検に憧れてセレス号に密航したのです。
 当初は隊員から厄介者と見做されたスタンリーですが、彼が乗組員達を“十セントの宇宙物語”に登場するヒーローと見ていたことからプライドをくすぐられます。マック・スティードン老人などは、大ボラを吹きまくってスタンリーから尊敬を受ける始末です。
 やがて、セレス号はカリストへと到着しました。遭難した第二次探査隊の船近くに着陸した彼らは、暴力の気配がない平穏そうな光景を訝しみながらも、二人の隊員を調査に向かわせるのですが……。

◎太陽をめぐるリング

 ユナイテッド宇宙郵船所属の宇宙船パイロット、ジミー・ターナーはある日、気難しい総支配人フランク・マカッチャンから呼び出しを受けます。マカッチャンの話は、ユナイテッド宇宙郵船が金星向けの郵便を一年中受け入れるようになるというものでした。
 金星が地球から見て太陽の向こう側にある時期は採算が取れないはずだ、とジミーが指摘すると、マカッチャンは新たに開発された装置で近道が可能だと言います。偏向場(デフレクション・フィールド)を発生させると、太陽からの放射を曲げてしまうことができ、その熱にやられずに太陽のそばを通る近道ができるのだ、と。
 未だ実際にテストされていない新型装置の実験台など御免被りたいジミーでしたが、もう一人のパイロットをロイ・スニードが引き受けた、とマカッチャンに聞かされます。ロイに対抗心むき出しのジミーは、ライバルに馬鹿にされまいと仕事を引き受けることにします。もっとも、ロイもまた同じ手口でマカッチャンに乗せられたのですが(笑)
 かくして、新型郵便船ヘリオス号で金星へ向かうこととなったジミーとロイ。ところが、偏向場は彼らが思いもよらなかった事態を招いてしまいます。

◎一攫千金

 製薬会社ではなく個人で化学実験を続けてきた化学者ウォルター・シルズと、その相棒の青年ユージーン・テイラー。資金が乏しい中で続けられてきた彼らの努力は、ようやく報われようとしていました。
 シルズは新たに作り出したアモナリンという物質を使い、金属にアンモニウムめっきを施す技術を開発したのです。アンモニウムめっきは黄金色に輝き、大気の中で完全に不活性な金属であり、しかもアルミニウムと同程度安価に製造できるという性質を持っていました。もしこれが実用化されれば、金属産業に大変革をもたらし、二人が大金持ちになることも夢ではありません。
 しかし、この発明を二人が新聞社に知らせたことで、三人の人間の興味を引くことになります。それは、自分の会社が彼らの発明で脅かされることを危惧したアクメ・クロム&シルバー鍍金コーポレーションの会長J・スロッグモートン・バンクヘッド、金の匂いを嗅ぎ付けた元下院議員ピーター・Q・ホーンスワグル、そして悪名高いギャングのマイケル・マグワイア、の三人でした。

◎時の流れ

 ロケット開発に人生を捧げた男ジョン・ハーマンと、その部下たち(一人称主人公クリフォード・マッケニーはその一人)。しかし、世論はこれに対し、厳しい視線を向け始めていました。
 第二次大戦終結後(この短編は第二次大戦勃発前に書かれています)、宗教的反動により科学技術が忌避されるようになりました。特に二十世紀福音協会の宗教運動家(リヴァイヴァリスト)オーチス・エルドッリッジは、ハーマンの行動を神への冒涜だとして人々を扇動しています。
 そうした中、宇宙を目指すロケット船プロメテウス号が完成し、いよいよ打ち上げの日が訪れます。ところが、研究所の一員でありながら二十世紀福音協会の信者シェルトンが破壊工作を行ったため、プロメテウス号は打ち上げと同時に爆発しハーマンは重症、多数の死者を出す事態となりました。爆発は事故とされ罪に問われることはなかったものの、ハーマンは世間の憎悪を一身に浴びることになってしまいます。
 クリフォードはハーマンを民衆から匿い、人々の怒りが収まるのを待ちました。そしてまた、彼らは宇宙を目指してロケット開発を再開します。

◎恐ろしすぎて使えない武器

 金星が地球に征服され、先住民たる金星人が“劣等種族”として奴隷扱いされる時代――。
 古代金星に興味を持つ地球人カール・フランターは、金星人アンティルのガイドで金星の古代遺跡アシュタズゾルを訪れました。その高度な技術に驚嘆していたカールは、たまたま遺跡に隠された秘密の部屋を発見します。そこにあった厚板に刻まれた古代儀式語を目にしたアンティルは、比較的金星人に同情的なカールに対し、ほどなく金星が蜂起すること、地球の安全のために金星人の扱いを向上させるよう忠告します。しかしながら、カールはそれを真に受けませんでした。
 それから五年、アンティルの言葉通り金星人は地球人に反乱を起こし、次々とドーム都市が陥落するという事態に発展します。地球側は驚きつつも、武力に差があることを過信して金星を恐れてはいませんでした。
 しかし、その裏にはアシュタズゾルで発見された古代金星の秘密武器があったのです。

◎焔の修道士

 人類が銀河へ進出し、トランターやサンターニといった恒星系に植民して多数の国家が成立した時代。人類の故郷たる地球は、爬虫類型異星人ルハジヌーに占領されていました。しかしながら、地球を聖地と崇める宗教ロアーラ宗や、ルハジヌー占領を快く思わない民族主義者以外の人々は、地球を時代遅れの世界と見做してあまり気に留めていません。
 ところが、民族主義者のスパイがルハジヌーの戦艦から命がけで秘密指令を奪い、ルハジヌーが地球から人類を全て追い出し惑星をルハジヌー化する計画があることが判明します。民族主義者のリーダー、ラッセル・ティムボールはロアーラ宗のポール・ケイン師に協力を求め、ケインもしぶしぶながらそれに応じることにします。とはいうものの、かつて同様のルハジヌー侵攻を宗教扇動で覆したロアーラ宗も、今は弱体化していました。
 そうしたおり、地球へ巡礼に来たロアーラ信徒フィリプ・サナトは、ルハジヌー達の会話を立ち聞きして計画の存在を知ります。そして……

◎混血児

 科学者ジェファーソン・スキャンロンは、未来の動力源たる原子力モーターを開発中でしたが、理論通りに装置が動作せず苦戦していました。気晴らしにスキャンロンが散歩に出たところ、たまたまトゥイーニーの少年が人間の少年達に苛められているところに出くわし、彼を助けました。
 トゥイーニーとは地球人と火星人の混血児のことで、頭髪が真っ白い針金状であるほかは人間と姿は変わりません。しかしながら、トゥイーニーは人々から怪物と見做されて迫害を受けており、全員が施設の中で暮らしています。
 そのトゥイーニーの少年マックスは、友人が亡くなったことで一人きりになったため、施設を脱走してきたとスキャンロンに打ち明けました。スキャンロンは彼に同情し、家政婦ビューラの反対を押し切ってマックスを自分の家へ迎え入れることにします。
 それから一週間後、スキャンロンが出かけていた間に、機能しない原子力モーターに興味を持ったマックスは独自に改造を施してしまいました。帰ってきてそれを見たスキャンロンはマックスを叱ろうとしますが、彼の改造が当を得たものだとすぐに悟りました。果たして原子力モーターは、彼の理論通りに動作するようになったのです。
 その瞬間、スキャンロンはトゥイーニー達が憐れむべき存在などではなく、敬意を払うべき新たな種族なのだと認識を改めます。

◎秘密の感覚

 地球人のリンカーン・フィールズは、親友の火星人ガース・ヤンの前でピアノを演奏しましたが、火星人の聴覚は音を聞き分ける能力が低いために音楽の美しさを理解できませんでした。加えて、火星人は視力も地球人に比べて劣っていたのです。
 そのことをフィールズは憐れむものの、ガースは火星人にも地球人の知らない感覚があると、ついうっかり漏らしてしまいます。火星人には電流を見分ける感覚が備わっており、それは大層美しいものだと。そして、地球人にも生涯一度だけそれを体験することができるのだと。
 それを聞いたフィールズは、自分にそれを体験させるよう説得します。火星人の義理堅さにつけ込まれ、ガースは仕方なしに折れることになりました。
 その措置は火星人の“電盲”治療のためのものであり、地球人にもある痕跡的な電気感覚器官を濃縮ホルモンで無理矢理活性化するというものでした。しかし、五分後には細胞が破裂して再活性化が不可能になり、二度と体験することはできなくなります。
 特別な注射を受けた後、フィールズは電気的な交響曲を演奏する演奏家の前で効果が表れるのを待ちました。陶然とした様子で聞き入るガースの傍ら、最初のうちフィールズは何も感じなかったのですが、やがて……。

 デビュー時の年齢もあって、冒頭の作品は少々ぎこちなさが感じられます。それでも、時系列で並べられていることから、急速に実力を付けていくのが読み取れる面白い構成です。
 個人的なお気に入りは、人種差別を扱った『混血児』、ユーモラスな状況が楽しい『太陽をめぐるリング』辺りです。『混血児』はどことなく、〈ミュータントもの〉の名作『スラン』を思わせる部分があります(雑誌掲載はこちらが先)。さしずめ、科学者サミュエル・ラン視点の『スラン』と言えなくもないですね。もっとも。お話はあちらと違ってほのぼのしていますが(^^;)
 また、収録作の『焔の修道士』は、作中にトランターといった〈銀河帝国もの〉の固有名詞が登場している点が興味深いです。本作世界には異星人ルハジヌーが存在しているため〈銀河帝国もの〉には含まれませんけど、この設定(作中では独裁者に率いられた強力な軍事宇宙国家)が後に活かされることになるわけです。

この記事へのコメント

  • しろくま

    はじめまして。
    「カリストの脅威」の題名拝見しなんだかコメントさせていただくなってしまいコメントさせていただきました。
    アシモフ初期短編集著者のコメントいですよね。
    ときには作品よりも良かったり...。

    私もぼちぼち読書感想をブログに書いています、「カリストの脅威」も前書いたのでよろしければ見ていただければ幸いです。
    2013年09月07日 14:22
  • Manuke

    いらっしゃいませー。
    しろくまさんも同じ本をレビューされていたのですね。なんだか好みも似ているようで、嬉しい限りです。
    この短編集は、若き日の初々しいアシモフ氏の姿が見えるような点も楽しいです。解説も、ちょっと照れが入っている感じで(^^;)

    余談ですが、この短編集でも幾度か名前が登場するフレデリック・ポール氏が先日(9/2)、呼吸不全で亡くなられたそうです。
    20世紀を代表するSF作家さんが世を去られていくのは、無理からぬこととは言え寂しい限りですね。
    2013年09月08日 00:07
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