バベル-17

[題名]:バベル-17
[作者]:サミュエル・R・ディレーニイ


 本書は自由奔放な空想と科学的な考察を併せ持つ、一風変わったスペースオペラです。
 物語の中で大きく取り上げられるのは、言語学です。言語構造の違いが思考へ与える影響等、言語というものを真面目に取り扱った部分は興味深いですね。
 また、空想的な面から見ても十分に面白い作品です。特に輸送員(宇宙船の乗員)が肉体を美容整形によって様々に改造している辺りは異様かつ幻想的で、倫理観の異なる世界を楽しむことができます。
 一連の破壊活動に関連していると目される謎の言葉、バベル-17。軍に依頼を受けた若き詩人リドラ・ウォンは、宇宙船ランボー号を率いてその秘密を探る旅へ出発するのです。

 遥か未来、人類が太陽系の外へと進出した時代です。
 人類は地球を中心とする同盟とインベーダーの二勢力に分かれ、争いを繰り広げていました。(異星人との接触もありますが、その機会は比較的少ないようです)
 そうした状況下、同盟の中で一連の『事故』が発生しました。当初はそれぞれ無関係なものと思われていたのですが、いずれの場合にも出所不明の無線交信が行われていたのが発覚し、それらは破壊活動だと推測されることになります。通信内容はバベル-17と名付けられ、軍の暗号部が解読を試みますが、一向にその内容は判明しません。
 ここで白羽の矢が立てられたのが、二十六歳の若き詩人リドラ・ウォンでした。リドラは暗号部に所属していたことがあり、彼女でなければこの暗号を解くことはできないだろうとかつての同僚達が言ったためです。
 リドラは与えられた情報を元に、このバベル-17が単なる暗号などではなく、独自の論理・独自の文法を持った言語であることを突き止めます。しかし、その内容を知るには情報が不足していて、無線を傍受した状況の詳細が必要でした。
 その情報を得るため、リドラは猥雑な歓楽街へと赴き宇宙船の乗組員を調達します。そして自らキャプテンとなって、宇宙船ランボー号を探索の旅へと向かわせるのでした。
 ところが、出発直後に船内でトラブルが発生します。リドラの機転によって免れることができたものの、そのトラブルは人為的に引き起こされた破壊工作でした。クルーの中の誰がインベーダー側のスパイなのか――リドラは悩まされることになるのです。

 本作の注目ガジェットは、言語です。
 特に探索対象であるバベル-17は、ストーリーが進むにつれ、ある特徴を持っていることが判明します。詳細はここでは明かせませんけれど、作品中での考察はなかなかに興味深いですね。この観点から見ると、「言語形態が思考に影響を与える」ということを実感しやすいかもしれません。
 また、異星人とのコミュニケーションに関するくだりでも言語が関ってきます。作中世界では異星人との相互理解が困難だとされていますが、その理由として語彙の違いが挙げられています。シビリア星人には〈家〉の概念がないため、それを説明するには延々と文章を連ねなければならず、逆に初めて見た複雑な装置をたった九語で完璧に説明することができる、といったように(^^;)

 輸送員の間では、自分の体を美容整形によって改造することがファッションのように受け入れられているようです。例えばランボー号のパイロット・ブラスは全身が黄色の毛皮に包まれ、サーベルタイガーのような巨大な犬歯を持つ大型獣状の姿をしています。その他にもドラゴンやコンドルのような姿へ肉体を改造したものがいたりと、同じ人類でありながら外観は異生物のように見える人々というのは面白い設定ですね。
 更に、輸送員の中には霊体人(ディスコーポレイト)、いわゆる幽霊も存在します。宇宙船では主にセンサー類の役割を果たしているようですが、彼等がどのように生活(死活?)しているのかは今ひとつ不明です(^^;)
 このように、比較的真面目な部分と荒唐無稽な部分が渾然一体となっているのが本書の魅力です。少々風変わりではありますけど、だからこそ色々な楽しみ方ができると言えるのではないでしょうか。

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