ロボットの時代

[題名]:ロボットの時代
[作者]:アイザック・アシモフ


 本書はアイザック・アシモフ氏の書かれた〈ロボットもの〉小説のうち、『われはロボット』に含まれない八篇を集めた短編集です。原題は"The Rest of the Robots"、直訳すると『残りのロボット』という少々身も蓋もないタイトルではあります(^^;)
 ロボ心理学者スーザン・キャルヴィンへのインタビューを挟む形で時系列順に綴られた『われはロボット』とは異なり、本書に収められた短編はややまとまりがありません(それどころか、世界を異にするものも)。とは言うものの、それは本書が面白くないという意味ではなく、むしろそれぞれの作品が強い個性を放っているからこその印象のように思えます。

◇第1部 ロボット登場

 初期の作品二つです。両者ともややコミカルな状況下でのロボットの振る舞いを扱っています。このうち『思わざる勝利』は、アシモフ氏の短編『決定的!』の後日談にあたります。(ストーリー自体は独立したものですので、『決定的!』を読んでなくても楽しめます)

◎AL76号失踪す

 USロボット&機械人間株式会社では、あるトラブルが発生していました。月面のルナ・ステーション17へ送り届けたはずの六台のAL型ロボットのうち、一台が行方不明になってしまったのです。地球ではロボットに対する反感が根強くあり、もしロボットが工場の外へ逃げ出したことが発覚すれば大問題です。しかもAL型は月面に最適化されたロボットで、地球上では大きなストレスに晒されどんな行動を取るか予想がつきません。
 そのロボット、AL76号はハナフォード郊外で混乱していました。廃品修理を趣味とする男ランドルフ・ペインはAL76号に遭遇して恐怖に駆られますが、ロボットが人間に危害を加えないことを思い出します。そして、AL76号の存在をUSロボット社に通報すれば大金をせしめられるかもしれないと思いつくのです。

◎思わざる勝利

 木星に棲息する攻撃的な性質の生物・木星人を調査するため、三体のロボットZZ1号・2号・3号が木星表面に送り込まれました。ZZ型はいかなる爆発物や腐食媒体にも耐え得る非常に頑強なロボットです。
 木星人はロボットが木星表面に降りてきたことを不快に思い、その宇宙船を攻撃します。しかしロボットを破壊することはできず、しぶしぶ彼等はZZ型ロボット達の調査を許すことにするのですが……。

◇第2部 ロボット工学の諸原則

 第2部に属する二つのお話は、どちらもやや番外的な作品ですね。特に『みんな集まれ』は三原則の観点においてアシモフ未来史に組み入れられないと思われるお話です。

◎第一条

 『われはロボット』のいくつかのエピソードで主役を張ったパウエル&ドノヴァン・コンビのうち、マイク・ドノヴァンが話し手となる短編です。但し、酒場の馬鹿話ですので正史に組み入れていいかどうかは不明(^^;)
 酒場でうっかり「第一条に従わなかったロボット」のことを口にしてしまったドノヴァンは、皆にせがまれてエマ2号の逸話を話し始めます。ドノヴァンは、猛吹雪のタイタンで採掘を行うことができる新型ロボット・MAモデル2号が、彼の命を脅かしたと言うのです。

◎みんな集まれ

 かつて“東”と“西”に分かれて世界の覇権を競っていた二大勢力は、時間の経過により緊張が次第に緩和され、互いのことを『彼ら』/『われわれ』と呼び合う状態になっていました。それぞれの勢力の違いが小さくなり、冷戦は穏やかな競争へと変化したからです。
 ところが、ロボット技術局のイライアス・リン局長は情報局員ラルフ・G・ブレックンリッジから寝耳に水の知らせを受けます。『彼ら』が開発した人間そっくりのロボットが十体、アメリカに潜入したというのです。ロボットは単体では無害ですが、それぞれTC(完全消滅)爆弾の一部を有しており、十体全部が一カ所へ集合するとそれが爆発してしまいます。
 二億人の人間の中に隠れた、人間そっくりのロボット十体。彼等はいつ、どこで集合しようとしているのでしょうか。そしてそれを阻止する方法はあるのでしょうか。

◇第3部 スーザン・キャルヴィン

 ロボ心理学者、スーザン・キャルヴィン博士の登場する四つのエピソードを扱っています。「心臓のあるべきところは超空間で、目には液体ヘリウムがたまり、彼女が太陽をくぐりぬければ凍った炎に包まれて出てくる」等と称されるキャルヴィン博士ですが(^^;)、決して冷血なわけではなく確固とした価値観を備えた人であることが見て取れます(間違いなく変人ですけど(笑))。全アシモフ作品で最も魅力的な登場人物だと言っても過言ではないでしょう。

◎お気に召すことうけあい

※『地球は空地でいっぱい』収録作と共通。

 クレア・ベルモントは、夫であるラリイの懇願を受け、実証実験として新型ロボットTN3(トニイ)を家庭へ招き入れることになりました。この実験にはラリイの昇進がかかっていたからです。
 外見はハンサムな青年にしか見えないトニイに対し、クレアは戸惑いと恐怖を隠せませんでした。しかし、完璧なまでに家事をこなし常に礼儀正しいトニイに対し、クレアは次第に別の感情を覚え始めるのです。

◎危険

 このお話は、『われはロボット』収録の短編『迷子のロボット』の後のエピソードに当たり、登場人物も共通しています(ストーリー自体は無関係です)。
 小惑星上に作られたハイパー基地では、重大な実験が開始されようとしていました。ハイパー・フィールドを備えた宇宙船パーセク号をシリウス近辺まで送り込むという試みです。これが成功すれば人類は超光速移動手段を手にすることになりますが、生物が超空間を通り抜けると脳に異常を来すため、パイロットはロボットが代行します。
 実験開始の時刻が到来し、ロボットは指示通り操縦桿を動かしました。ところが、パーセク号は全く反応を見せなかったのです。
 超高額の予算を投入されたパーセク号に何が起こったのか、原因を追及しなければならないことになりました。しかし、接近中に何かの拍子でハイパー・フィールドが作動してしまったら、調査員は生涯を痴呆状態で過ごさなければならなくなります。
 任務に『志願』することを要請された技術者ジェラルド・ブラックは、当然それを拒否しようとするのですが……。

◎レニイ

 USロボット社が一般の人々に対して行っている工場見学によって、一つのトラブルが発生しました。見学者の少年がコンピュータールームに置かれていたキーボードをでたらめに叩いた結果、新型ロボットの陽電子頭脳設計図に支離滅裂な命令が紛れ込んでしまったのです。
 この問題はロボットが完成するまで発覚せず、かくして小惑星帯でホウ素を採取するために制作されたLNE型ロボット第一号は、赤ん坊同然の頭脳を持った全く役に立たない存在となってしまったのでした。
 主任研究員ピーター・ボガートはロボットを取り壊そうと考えますが、キャルヴィン博士はそれを制止しました。そして彼女は、このLNE型をテストしてみたいと言い出したのです。
 キャルヴィン博士の変人ぶりが伺えるエピソードですね(^^;)

◎校正

 USロボット社はノースイースタン大学のサイモン・ニンハイマー教授に損害賠償で訴えられるという事態に直面していました。大学へ貸し出した文章校正用ロボットEZ27号(イージィ)が教授の書を改竄し、不名誉を被ったと言うのです。
 しかし、スーザン・キャルヴィン博士はそれがニンハイマー教授の狂言であると確信していました。イージィが教授の言うような改竄を行うはずはないのだと。けれども、キャルヴィン博士には教授が事を起こした動機が分かりません。
 裁判が始まり、関係者に対する尋問が行われていきます。

 本書の注目ガジェットは、やはりロボットですね。
 この手の人工知性体を扱ったストーリーにおいては、被造物が創造主に対して反乱を起こすというパターンがしばしば見られます(『フランケンシュタイン』しかり、『R.U.R.』しかり)。
 しかし、アシモフ氏はこの繰り返しに飽き飽きされていたようで(^^;)、氏の作品に登場するロボットはこのパターンを踏襲しません。そのために用意されたのが、下記のロボット工学三原則です。

・第一条:ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
・第二条:ロボットは人間に与えられた命令に服従しなければならない。但し、与えられた命令が第一条に反する場合は、この限りではない。
・第三条:ロボットは、第一条及び第二条に反する恐れのない限り、自己を守らなければならない。

 このルールは架空のものであり、現実のロボットには適用できないでしょう。しかし、人間と異なる人工知性体・ロボットを特徴づけ、物語を展開させるロジックとして大きな役割を果たしています。
 本書は「人間への反乱」というお決まりのパターンを使わずとも面白いロボットSFが書けるということを証明してくれる、『われはロボット』と対を成す珠玉の短編集です。

この記事へのコメント

  • 旅雀

    ロボット工学3原則は現実のロボット生産に
    影響を与えています。

    例を挙げるとソニーのアイボ等です。
    千葉大学においても、3原則を全ての
    ロボットに適用するよう提唱されております。

    さすが、アイザック・アシモフ氏は科学者で
    あったので、影響力は大きいようですね^^
    2010年09月02日 19:40
  • Manuke

    確かに、そうした話は伝え聞きますね。
    ただ、アシモフ氏のロボット三原則はロボット自身の行動規範であって、制作者が守るべきルールではないんです。意志を持ち、「人間」や「危険」を認識できるほどロボットの知能が高くないと実行できないという……。
    そこら辺が若干拡大解釈されがちですけど(^^;)、これもアシモフ氏の人気の高さ故でしょうか。
    2010年09月02日 23:24
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