スター・キング

[題名]:スター・キング
[作者]:エドモンド・ハミルトン


 この作品は〈世界破壊者("World Wrecker")〉との異名も名高いエドモンド・ハミルトン氏による痛快スペースオペラです。
 氏の物々しい称号は、ハミルトン作品でしばしば宇宙が破壊されるほどの危機が訪れることを揶揄したものですね。:-) 本作でも読者の期待を裏切らず、最強破壊兵器ディスラプターがその威力を大いに見せつけてくれます。
 物語の構図は、言ってみればスペースオペラ版『王子と乞食』でしょうか(王子様側の視点が描かれないのが残念ですが)。特に秀でたところのない平凡な人間が、ある日突然巨大な銀河帝国の王子に成り代わってしまう――読者の変身願望を満たしてくれる憎い設定です(^^;)
 遥か未来からの呼びかけにより、中央銀河帝国の王子と精神を交換することとなったジョン・ゴードン。しかし、彼はそこで銀河の命運を左右する陰謀へと巻き込まれてしまうのです。

 二十世紀で保険会社に務めていた青年ジョン・ゴードンは、ある晩眠りにつく直前、心の中で誰かが自分に呼びかけてきたことに驚きます。その呼びかけは翌日にも起き、自分の正気を疑うゴードンでした。けれども、ついに彼はある日その声に返事をしてみることにします。
 その声は、自分はゴードンの生きている時代より二十万年未来の人間、中央銀河帝国の王子ザース・アーンだと名乗りました。ザース・アーンは精神を過去へ飛ばす装置を持っており、それを使って過去の歴史を探究しているのだと言うのです。そして、六週間だけ自分とゴードンの精神を交換することを持ちかけてきます。
 その申し出に応じたゴードンは、二千世紀の地球でザース・アーンの肉体の中に目覚めました。しかし未来世界を堪能する間もなく、王子ザース・アーンを拉致しようとやってきた暗黒星雲同盟の者に、ゴードンの正体を知る唯一の人物である老科学者ヴェル・クェンが殺されてしまいます。
 からくもその襲撃者から逃れたゴードンは、今度は中央銀河帝国の王子として、父である皇帝アーン・アッバスの元へ連行されてしまうのでした。そして、あれよあれよと言ううちにフォマロート王国の王女リアンナと政略結婚させられそうになります(^^;)
 しかし、皇帝のお膝元である惑星スルーンでは恐るべき陰謀が密かに進行していました。ゴードンは知らないうちに、ある殺人事件の犯人とされてしまったのです。
 王子ザース・アーンの中身が、二十世紀人ジョン・ゴードンであることを知る者は誰一人としていません。そしてゴードンには右も左も分からないのです。彼は果たして無事、この窮地から逃れることができるのでしょうか。

 本書の注目ガジェットは、精神の時間移動です。
 但し、作中でこれがどのように働くのか詳細な解説はありません。物質が過去へ移動するのは不可能でも、精神だけなら可能だという説明のみです(ザース・アーンはゴードンに対し、「きみの心だって、きみがなにかを思いだそうとするときは、いつもちょっと過去に旅している」などと無茶なたとえ話をしています)。まあ、スペースオペラですから細かいことは言いっこなしで。:-)
 ザース・アーンはこの装置を使い、ゴードンとの交信前にも別の時代の人間と同様のことを行っていたようです。過去の時代を直接体験することができますから、歴史研究家にとっては便利な道具と言えそうです。もっとも、一国の王子でありながら学問にうつつを抜かす道楽息子として、父アーン・アッバスはザースのことを苦々しく思っていたようですが(笑)

 宇宙を股にかけた冒険活劇とは言うものの、主人公ゴードンはスーパーヒーローではありません。たまたま銀河帝国の王子という立場を一時的に得ただけの、ごく普通の青年です。そんな彼が銀河の命運を握ってしまうという戸惑いが、本書の醍醐味と言えるでしょう。
 王子として他者に敬われたり、美しき王女リアンナと婚約する等、一見ゴードンは美味しい目を見ているように見えます(^^;) しかし、彼自身本当は王子ではなく、しかもザース・アーン本人には愛する妾姫が別にいるとあっては心穏やかならぬところです。ここで自分本位に行動しないあたり、ゴードンという青年の誠実さが感じられます。
 また、暗黒星雲同盟の指導者ショール・カンも、悪役ながら味のあるキャラクタです。彼はゴードンに自分の質素な部屋を見せたとき、それが追随者を感心させるためのポーズだと言いますが、そこに偽悪的な韜晦が感じられるのは気のせいでしょうか。豪華絢爛なガラスの宮殿でパーティーに明け暮れる中央銀河帝国の支配者とは対照的な、野心的ですが魅力のある人物ですね。
 いささか足早に話が飛んでいく部分はありますけど、未来世界をよく知らない主人公という設定の妙もあって、さほど苦にはなりません。ハミルトン氏の代表作〈キャプテン・フューチャー・シリーズ〉とはまた別の味わいがある、スペースオペラの傑作です。

この記事へのコメント

  • Kimball

    映像化されるとしたら、小生が一番みたい
    シーンは....

    ザース(ゴードン)とリアンナが
    「日の出の音楽」\(^o^)/を聴き?ながら
    朝食をとるシーン、

    ですわ、やっぱ!! \(^o^)/\(^o^)/
    2007年02月28日 21:39
  • Manuke

    あのシーンは素敵ですよねー。
    惑星スルーンのガラスでできた山脈が奏でる、天上の音楽。朝日の中で山々がさぞかし美しく輝くのだろうと思います。
    ぜひスクリーンで見てみたいものです。
    2007年03月03日 00:21
  • X^2

    始めまして。スター・キングは「レンズマンシリーズ」と共に、子供時代の一番のお気に入りのSFでした。もちろん、ヒロインのリアンナ王女が憧れの女性という事で。上のコメントにあるシーン、確かに映像で見てみたい気もします。
    ところで、ショール・カンは明らかにデスラーの原型に思われるのですが、実際のところどうなんでしょうか。
    2008年11月23日 21:47
  • Manuke

    いらっしゃいませー。
    どこかの映画会社が映像化してくれるといいのですが。その際は、是非ザース・アーン側のエピソードも補完希望(^^;)

    デスラーとの相似はちょっと分かりません。
    あちらはもっと直接的に、かの「総統閣下」がベースになっているんじゃないかと……。
    2008年11月25日 00:14

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