R.U.R.

[題名]:R.U.R.
[作者]:カレル・チャペック


 SF作品には様々な特有の小道具、いわゆるSFガジェットが登場します。そして、その多くはSF開祖であるH・G・ウェルズ氏が生み出されたものと言われています。
 しかし、現在なおSFのメインテーマとして取り上げられるほど重要なガジェットでありながら、ウェルズ氏の手によらないものが一つあります。それはロボットです。
 本作『R.U.R.』は、チェコスロバキアの作家カレル・チャペック氏による、人工知性体・ロボットを扱った戯曲です(普通の小説とは少々異なりますが、構わずレビューしてしまいます(^^;))。同じく人造人間を扱った作品には、それ以前にもメアリー・シェリー氏の有名なゴシック小説『フランケンシュタイン』がありますが、本作は社会的な側面も扱ったよりスケールの大きい物語になっています。
 天才科学者ロッスムによって生み出された人造人間・ロボット。人々の生活水準を向上させる道具として作られたはずでしたが、それはやがて人類の滅亡へと繋がっていくのです。

 舞台はまず、ロッスム・ユニバーサル・ロボット社(R.U.R.)の場面から始まります。
 ある日R.U.R.社長ハリー・ドミンの元を、グローリー会長の令嬢ヘレナが訪ねてきます。人道同盟に属する彼女の目的は、奴隷のように使役されているロボット達を救うことでした。
 けれども、ドミンはヘレナに対してあくまで冷静に対応し、ロボットがどのようなものであるかを説明します。彼にとって、それは日常茶飯事のことだったからです。
 R.U.R.社で製造されるロボット達は確かに人間にそっくりで、言葉を解し、勤勉に働きます。しかし、ロボットは意思や情熱を一切持たない、単なる機械同然の存在でした。ヘレナが思い描いていたような、酷使される哀れな奴隷などではなかったのです。
 ヘレナはロボットを人間と取り違えたり、逆にドミンに紹介された同僚の人間のことをロボットだと勘違いしたりしながら、ようやくそれを理解します。そして、ドミンとその同僚達に求婚されたヘレナは、ドミンの妻となります。
 ドミンが貧困や飢餓を世界から一掃したいと願って生み出すロボット達は、その望み通り世界を豊かにしていきました。ところが、その結果として人類は活力を次第に失ってしまうのです。
 そしてついに、ロボット達は人間に対して反抗し始めます。自分達ロボットは人間よりも優れた存在なのだと。しかしそれは、ヘレナが望んだあることに由来するものでした。

 本作の注目ガジェットは、言わずと知れたロボットですね。
 この『R.U.R.』に登場するロボットは、我々がその言葉を聞いて連想する機械製のものではなく、原形質から作られた人造人間です。人間そっくりで、切られると血を流したりします。もっとも、フランケンシュタイン博士が人間の遺体を繋ぎ合わせて作ったホラー的な怪物とは異なり、本作のロボットはあくまで工業的に製造されるようです。
 作中では、天才科学者ロッスムが化学的に異なる構造でありながら生物のように働く物質を発見したのだとされています。老ロッスムはそれを元に人造犬を、そして人間そのものを創造しようと試みますが、いずれも成功していません。
 一方その甥であるロッスム技師は、完全な人間を再現するのは無駄なことだと考え、商業的に価値のある労働力としての機能のみを有する人造生物を作り出します。これがR.U.R.社のロボットです。
 老ロッスムの作ろうとしたものとは異なり、ロボットは生殖腺その他の労働に無関係な器官を有しません。人間と会話できるほど高い知能を持つものの、自由意志のない非人間的な存在です。
 この『ロボット』という名称は、カレル・チャペック氏と兄ヨゼフ・チャペック氏の会話中に生まれたそうです。チェコ語で『賦役』を意味する"robota"という単語をもじったもののようですね。

 この作品は戯曲ですので、物語は登場人物の台詞主体で紡がれていきます。
 人物はドミンとヘレナの他、生理学者のガル博士・営業担当のブスマン領事・建築主任のアルクビスト建築士といったR.U.R.社の面々、そしてロボット達からなります。
 特にアルクビスト建築士は物語の最後まで登場するキーパーソンで、自ら手を動かして働くタイプの人間であり、宗教的価値観で人間やロボットの行動を評します。一方、新しい物事を生み出すことのない者とも見なされているようで、特にドミンはアルクビストをいささか軽んじているらしき節もあります。
 ストーリー自体はそれほど複雑ではありませんが、受け手によって様々に深読み可能な点が興味深いですね。人に造り出されたロボットと文明そのものの関わりを描いた、先駆的な古典作品です。

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カレル・チャペック『ロボット(R. U. R.)』
Excerpt:  ロシア語には、「ラボータ работа (ラテン文字転写すると rabota)」という言葉があります。これは、英語の work にあたる単語で、「仕事、活動、職、作品」という意味です。比較言語学の..
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