無限記憶

[題名]:無限記憶
[作者]:ロバート・チャールズ・ウィルスン


※このレビューには『時間封鎖』のネタバレがあります。ご注意ください。

 本書は、地球が宇宙から切り離され、地球上の時間の流れが一億分の一になってしまったエピソードを描いた『時間封鎖』の続編、〈スピン三部作〉の第二弾です。
 物語は、スピンが終了して新たな惑星へ通じるアーチが出現してからおよそ三十年後、人類が植民を始めたその惑星が舞台となります。前作がタイラー・デュプリーの視点(過去と未来の二つ)からの一人称で描かれたのに対し、本書は複数の人物視点による三人称で進んでいきます。

 地球が宇宙から隔絶されるスピンが終了してから三十年余り後、仮定体が海洋上に建設した超巨大な星間ゲート・アーチをくぐり、人類は新たな惑星(新世界、もしくは大陸の名前を取ってイクウェイトリアと呼ばれます)へと植民を進めていました。
 仮定体がどのような意図で地球を四十億年間封鎖したのか、居住可能なよう改造されたイクウェイトリアが人類に提供されたのはなぜなのか、スピンが終わった今もはっきりと分かってはいません。大多数の人々は仮定体の存在をあまり気に留めず、日々の生活を送っています。しかしその一方で、仮定体に固執しコンタクトを試みようとする過激な集団も存在していました。
 そうした中、ある一人の若い女性リーサ・アダムズが地球からイクウェイトリアへやってきます。彼女の名目上の目的は新世界に関する本を書くというものでしたが、実際には違いました。リーサは十二年前に失踪した敬愛する父、新世界地質学者ロバート・アダムズのことをずっと気に病んでおり、彼の行方を突き止めることを願っています。
 リーサはイクウェイトリアで小型飛行機のパイロット業を営んでいる男ターク・フィンドリーと親しくなります。ターク自身はロバートの失踪とは直接関係していなかったものの、その手がかりへと通じる伝手を持っていました。
 一方、イクウェイトリア大陸中央部の砂漠では、ある少年アイザックが特殊な能力を発露しはじめていました。アイザックが暮らす共同体集落は、非道な手段と知りながらもその能力を少年に与えたのです。それはかつて、ジェイスン・ロートンが仮定体とのコミュニケーションを取るために自分自身に対して行ったものと同じ処置でした。
 多数の人々の思惑が絡み合う中、イクウェイトリアに異常事態が発生します。宇宙から仮定体の残骸と思しき灰が地上へ降り注ぎ始めたのです。
 これを契機に、物語は動き始めます。

 本書の注目ガジェットは、仮定体("Hypotheticals")です。
 これはスピン発生当初、事態の背後にいるかもしれない「仮定上の知性体("hypothetical controlling intelligence")」を縮めて呼ばれるようになったもので、その実在性が確かめられた後も「仮定体」という名称が定着してしまった模様です。
 仮定体の正体は前作『時間封鎖』にて、キーパーソンであるジェイスン・ロートンがある程度突き止めています。スピン発生中に地球は火星からの助けを借り、宇宙で何が起きているのかを知るために自己増殖型の宇宙探査ナノマシン・レプリケーターを宇宙へ放ちますが、これは既に存在していた同様の自己増殖機械ネットワークに吸収されてしまいます。この、異星人が作り出したと思しき銀河規模の自己増殖機械ネットワークこそが仮定体です。
 仮定体はそれを生み出した種族が滅亡した後も活動・進化を続け、その過程で多数の(地球人類のような)知的生命が惑星上に発生しては、資源を食いつぶして絶滅していくのを目撃し、これを損失だと認識したようです。つまり、地球に行われたスピンは、人類が滅びる前に別の居住可能惑星を与えるための、延命措置だったわけですね。
 しかしながら、仮定体にどの程度認識力があり、地球人類をどのように認識しているのかに関しては見識が分かれています。多くの研究者は、仮定体がただの機械であり中枢も目的もないと考えているものの、中には仮定体を超越的存在と捉える者もおり、彼らは仮定体とのコンタクトを試みようとしています。

 作中では、火星人(地球から火星に植民した人々)がもたらした第四期(先頭が大文字の"Fourth")の人間が大きな役割を担っています。
 第四期とは、幼年期・青年期・老年期に続く人間の人生における第四番目の時期で、火星の遺伝子技術により人為的に作り出されたものです。第四期となった人間は寿命が延長され、暴力の行使を忌避するようになります。登場人物の描写から見ると、仙人のように浮世離れした人々という感じでしょうか(^^;)
 傾向としては平穏を好むようですが、火星上では第四期には倫理観が求められていたのに対し、地球上ではほぼ野放しで広まったため、第四期だからといって善人とは限らないようです。
 また、地球側ではこの第四期処置が非合法化されており、これを取り締まるために遺伝情報安全保障局(DGS)が暗躍しています。発覚すると拷問・処刑されてしまうため、第四期の者は正体を隠して暮らしています。

 主人公格となるのは、リーサとターク、アイザック、火星人の第四期老女スリーン・モイの四人ですが、その他にもリーサと離婚調停中の元夫でDGS一般職員のブライアン・ゲイドリー、アイザックを擁する共同体のエイヴラム・デュヴァリ博士達、第四期の人間を一網打尽にしようとするDGS上級捜査官達等、複数の勢力が絡み合いながら物語が進んでいきます。
 前作のキャラクタは、唯一ダイアン・デュプリーが登場しています。(残念ながら、前主人公のタイラー君は既に亡くなっています)

 本作は一応、仮定体の実態に迫るという本筋はあるものの、人間同士のいざこざに多くのページを割いているため、やや消化不良気味です(これはこれで面白いのですが)。実は後半にかなり重要なヒントがあるのですけれども、説明台詞の中で述べられるため次作を読んだ後でないとピンと来ず、少々構成に難があるように思います(^^;)
 というわけで、〈スピン三部作〉世界の核心に迫る、完結編『連環宇宙』へGOです。

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