時間封鎖

[題名]:時間封鎖
[作者]:ロバート・チャールズ・ウィルスン


 いきなり地球が何者かの手により宇宙から隔離され、地球の外では地上の一億倍のスピードで時間が流れていく――そんな出だしから始まるハードSFが、『時間封鎖』です。(後に二つの続編が発表され、〈スピン三部作〉となっています)
 本作は、主人公タイラー・デュプリーの半生を通じ、怪現象「スピン」の謎に取り組む研究者達とも、それを宗教的な観点で受け取る人々とも距離を置いた視点で描かれていきます。
 また、面白いことに、エピソードの合間に『西暦4×10^9年』(=西暦四十億年!)におけるタイラーの物語が挟まれ、交互に続くような形でストーリーが進展していきます。つまり、メインストーリーは西暦四十億年のタイラーが記した回顧録の位置付けになるわけですね。

 隣家の裕福で聡明な双子姉弟、ダイアン・ロートン及びジェイスン・ロートンと共に育ってきた十二歳の少年タイラー・デュプリー。三人がある晩、天体観測のために外へ出ていたとき、突如としてすべての星が消滅してしまうという事件が起きます。
 この消失は恒星や惑星にとどまらず、地球の月、そして人工衛星にまで及んでいました。太陽だけは一見何の変わりもないように見えましたが、実はこの太陽は黒点やプロミネンスが一つもない偽物でした。
 何者かが地球を封鎖し、宇宙から隔離してしまったらしいことが分かりますが、いったいそれを行ったのは何なのか、そして封鎖の動機はなんだったのかは謎のままでした。
 たまたま国際宇宙ステーションに滞在中で、封鎖後に地球へ帰還した宇宙飛行士の証言、そして封鎖後に試みられた人工衛星打ち上げ失敗から、驚愕の事実が判明します。外宇宙と地球の間で、時間の流れが異なっていたのです。その比は一億倍――地球上で一年が過ぎると、その外では一億年が経過しているという状況でした。この不可思議な封鎖措置はスピンと呼ばれるようになります。
 このままの状態が続けば、およそ四十年後(外では四十億年後)には太陽の寿命が尽きることになります。はたして、そのとき地球がどうなってしまうのか、それは誰にもわかりませんでした。
 一方、タイラーは大学に進学後、ロートン家の双子とは少し疎遠になりながら、自らの進路として医師となる道を選びます。大学を卒業して医学部で学んだ後、実習医として多忙な日々を過ごしていました。
 研修を終えてアパートを引き払おうとしていたとき、タイラーはジェイスンから誘いを受け、別荘で休暇を過ごすことになりました。久々に再会したジェイスンは、彼の父が設立した研究機関・ペリヘリオン財団で天文学者として働いており、野心的な計画を進めていることをタイラーに打ち明けます。
 その計画とは、火星に無人のロケットでバクテリアや藻類、そして植物を送り込み、本来なら何百万年もかかるはずの火星テラフォーミングを(地球上時間で)数ヶ月で成し遂げてしまおうという大胆なものでした。

 本作の注目ガジェットは、スピンです。
 スピンは、人類を地球に閉じ込め、その障壁内部における時間の流れを一億分の一にしてしまうものです。
 地球をすっぽりと包み込んだ障壁はスピン膜と呼ばれ、内部の時間を遅くするだけでなく、外界から降り注ぐエネルギーから地上を保護しています。何しろ一億倍も時間の流れが異なるため、何もしなければ地球上には一億倍の密度の太陽光が降り注ぎ、一瞬にして焼き尽くされてしまうわけですね。
 空には太陽の偽物が輝き、本物と同じように地上へ陽光を照射しています。季節により南中高度も変化するという念の入りようで、星と月が見えなくなったほかは何も変わっていないように感じられます。このため、人々の中にはスピンという現象の存在自体を信じない者もいるようです。
 地球にスピンを施した謎の存在は、仮定体("Hypotheticals")と名付けられます(「仮定上の知性体」から)。仮定体がいったい何者で、どんな意図をもってスピンを実行したのか、当初は皆目見当がつかないのですが、終盤のある行動をきっかけとして一気に理解が進むことになります。

 さて、主人公はタイラーですけれども、どちらかというと傍観者に近い立ち位置で、物語は親友の双子ダイアンとジェイスンを軸として動いているように思われます。
 弟ジェイスンは天才的な青年で、スピンという現象に真っ向から取り組む科学者の立場です。ジェイスンサイドでは、父E・D・ロートンとの衝突がストーリーに絡んできます。ジェイスンは謎を解き明かすことに全力を尽くしますが、同時に病魔に冒されており、父との対峙の中で彼の体は損耗していきます。
 一方、聡明だった姉ダイアンは、スピンへの恐怖から新興宗教へ傾倒し、そのコミュニティに取り込まれていきます。当初は居心地のよかったコミュニティも、スピンと仮定体が彼らの思い描いたものではなかったために、次第に変質していきます。
 非常に大雑把な言い方で申し訳ないのですが(^^;)、おそらく古典SFならジェイスンが、ニュー・ウェーブSFならダイアンが主人公に選ばれたのではないでしょうか。『時間封鎖』はその二人と深く関わるキャラクタに焦点を当てたことで、両者のいいとこ取りと言えるかもしれません。
 タイラーは双子の弟のような存在ですが、ダイアンに対しては淡い恋慕の情を抱いており、彼らのすれ違いもエッセンスとなっています。(この二人に関しては、明言されなかった関係があるように思われるのは気のせいでしょうか)
 また、中盤で登場する火星人ワン・ンゴ・ウェンも重要なキャラクタです。ワンは地球から植民された火星文明出身で、彼が持ち込んだものは地球に大きく影響を及ぼすことになります。

 地球の外では一億倍のスピードで時間が過ぎていく、という奇想天外な設定ですけど、それ以外の部分では奇抜に走りすぎないのが面白いですね。スピンという怪現象を核に据えつつ人々の心の機微を描いた、傑作ディザスターSFです。

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