アレフの彼方

[題名]:アレフの彼方
[作者]:グレゴリイ・ベンフォード


 この作品は、異なる世界へと人々が植民する様を書いた宇宙開拓SFであり、同時に少年の成長を記した物語でもあります。
 本書の舞台となるのは、木星の衛星ガニメデ。太陽系に存在する衛星の中で最大の大きさを持つものです。この寒冷な世界をテラフォーミング(地球化)し、人間の住める星へ作り替えようと人々は努力しています。
 このストーリーにアクセントを付ける形で登場するのが、異星人が遺したとされる謎の物体アレフです。人の存在を無視して行動する巨大で異質な物体は、人間が征服し得ない世界の象徴として描かれます。
 ガニメデ開拓民として生まれた少年マヌエル。彼は謎の存在アレフに魅了され、それを追いかけます。それはやがて、マヌエルの人生に大きな影響をもたらすことになるのです。

 時は遥かな未来、人類が太陽系の各所へと進出した時代です。
 木星の衛星ガニメデでは、氷に覆われた大地を人の住める場所へと変えるべく惑星改造が行われていました。極寒の地表を核融合の熱で暖め、氷を溶かして大気に変え、アンモニアやメタンを食べて有用な物質を排泄する人工生物を氷原に放つことによって。ガニメデが機密服なしに生きられる星となるのは幾世代も先のことですが、人々は過酷な環境下で来るべき未来のため懸命に働いているのです。
 そのガニメデには謎の存在がいました。アレフと呼ばれるその巨大な物体は、かつて木星圏に来訪したらしい異星人の遺物とされていますが、本当のところは誰も知りません。
 ガニメデの地中深くに潜っていて、時折氷を突き破って地表へと姿を現すそれは、人間の存在を無視してました。幾多の居住ドームがアレフによって破壊され、多数の死傷者を出しているにも関らず、アレフの出現を前もって感知することも、その足を食い止めることも、そして破壊することもできないのです。それは畏怖の対象であり、憎悪を抱いている者も少なからずいました。しかし、いずれにせよガニメデに生きる上ではアレフの存在を受け入れる他ありません。
 マヌエルは、そんなガニメデに生を受けた少年です。彼は噂に聞くアレフという謎の物体に心惹かれていました。そして父ロペス大佐の率いる狩猟隊に参加したおり、生まれて初めてその圧倒的な存在を目にするのです。
 マヌエルは、隊のメンバーで同じくアレフを追い続けている老人マット・ボウレスと行動を共にするようになり、人を一顧だにしないアレフへ関ろうとします。その先に待つものを未だ知らずに。

 本書の注目ガジェットは、アレフです。
 巨大で白い姿という点を除いて、その形状は直方体が連結した形だったり、卵形だったりと、目撃されるたびに変化しているようです。移動手段として足状の突出部、電磁的反発装置、穿孔機、プロペラや浮揚場といった器官を有していることは判明しています。けれども、誰にどのような目的で作られたのかということは分かっていません。
 アレフの行動は予測できず、周囲に群がる人間を意識する気配もないため、それに近づくことは非常に危険です。木星の衛星ではアレフ以外にも異星人の(それほど危険でない)遺物が発見されており、このため研究の主眼はそちらに移ってしまっている模様です。
 家族をアレフに殺された人間の中にはそれを憎み、銃を持ってそれを追い回す者もいますが、磁気擾乱を纏うアレフを傷をつけることすらできないようです。
 人の理解も支配も拒み続ける、半ば超自然的な物体。マヌエル少年ならずとも心惹かれるものがありますね。

 グレゴリイ・ベンフォード氏は我々の知るものとは異なる世界を緻密な設定で描き出してくれる方ですが、本作でもその『ベンフォード節』を大いに味わわせてくれます。
 テラフォーミングが進行している途中のガニメデは、非常に過酷な世界です。大気は冷たく有毒で、人々はドームの中での生活を強いられています。居住区で収穫された作物を小惑星経済圏へ輸出し、代わりに機械を輸入していますが、その生活は裕福ではありません。
 ガニメデの環境を改造するべく地表に放たれた人工生物は、DNAの複製が上手くいかずに突然変異を起こしてしまうことがしばしばあります。この突然変異種(ミューティー)がテラフォーミングの障害となるため、狩猟隊を編成して駆除しなければなりません。間引きは必要なことであるのと同時に、閉鎖空間で生活するガニメデ住人にとって気晴らしともなっています。
 作中の時代では、動物の純血種は(人間を除いて)ほぼ絶滅状態にあるようです。生き残っているものの一部は、サイボーグ化されて知能を若干高められ、人間の忠実な僕として使役されています。
 こうした詳細な舞台描写により、本書は非常にリアリティ溢れる物語となっています。登場人物達の生活感を肌で感じられそうなほど綿密に練られた、良作ハードSFと言えるでしょう。

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