地獄のハイウェイ

[題名]:地獄のハイウェイ
[作者]:ロジャー・ゼラズニイ


 華麗な文章で物語を紡ぐロジャー・ゼラズニイ氏による、核戦争後の荒廃したアメリカを描いた近未来SFです。
 ゼラズニイ氏と言えば世界各地の神話をモチーフにしたSFを多数手がけられている方ですが、本作はそれら一連の作品には含まれないようです。シチュエーションに西部劇と共通する部分があることから、「これはアメリカ神話だ」と位置づける向きもあるようですけど、他の神話SFに見られる積極的なキーワードの取り込みは伺えませんし、個人的には関連は薄いのではないかと感じています。
 このお話における特徴の一つは、主人公ヘル・タナーのキャラクタです。タナーは数多くの罪を重ねてきた犯罪者ですが、その彼が図らずもヒーローの役割を果たすことを求められることになるのです。タナーの生き様は作中における見所の一つでしょう。
 核戦争によって分断されたアメリカで、ボストンがペストの流行により滅亡に瀕していました。犯罪者にして天才ドライバーのヘル・タナーに、人々を救うための血清が託されます。果たしてタナーは無事ボストンへ血清を届けることができるのでしょうか。

 世界を破滅させる核戦争が起きて数十年――地球はその暴虐行為のために地獄と化していました。上空では暴風が吹き荒れ、様々なものが巻き上げられては別の場所に叩き付けられる有様です。飛行機は飛べず、無線も長距離に届くことはありません。地上にはあちこちに放射能汚染された場所があり、そして突然変異を起こした生物が人に牙を剥きます。
 そうした中、北アメリカではただ二つの都市だけがなんとか生き延びていました。しかし、そのうちの一つボストンは、ペストの流行により死の淵にあったのです。
 救援を求める使者が、もう一つ残された都市カリフォルニアへ瀕死の状態で辿り着き、そして亡くなりました。知らせを受けたカリフォルニア政府は、ペストの治療薬ハフィカイン血清をアメリカ東海岸へ送るべく準備をします。けれども、それはあまりに危険な任務でした。政府はその輸送隊へ囚人ヘル・タナーをメンバーに加えることに決めます。
 ヘル・タナーは、殺人・麻薬密売・その他無数の犯罪を犯し、無期懲役の刑に服している男でした。しかし、彼のドライバーとしての腕は天才的で、数多くの伝説を残している程です。
 全ての犯罪に対する特赦を見返りとして輸送団への参加を持ちかけられたタナーですが、とても割にあわないと考え、脱走を図ります。タナーはその任務の危険さを誰よりも理解していたからです。しかし逃亡は果たせず、再び捕まったタナーはしぶしぶ輸送任務を受けることにします。
 そして特別あつらえの装甲車三台からなる血清輸送団は出立するのです。救いの手を待つボストンまでの、想像を絶する過酷な旅へと。

 本書の注目ガジェットは、核戦争後の未来です。
 作中の年代は不明ですが、核戦争が起きて数十年程が経過した時代です。気象が滅茶苦茶になり、飛行機も無線も使えません。このため、移動は陸路か海路しか残されていないようです。文明社会は分断され、世界にどれだけ人間が生き残っているのかも不明です。
 地上では頻繁に嵐が訪れ、凄まじい風雨と落雷のせいで行動不能になります。更に、巨大な竜巻や放射能だまり、そして放射能によって突然変異を起こした巨大生物等が行く手を阻みます。このため、大陸中央部は〈呪いの横町〉と呼ばれているほどです。
 この難関を突破して血清を輸送するために、カリフォルニア政府は特別あつらえの装甲車を準備します。放射能を防ぐ分厚い装甲を持ったこの車は、火炎放射器やロケット砲、機関銃といった武装を備え、車体側面で自在に動く“翼”を使って相手を切り裂くことも可能です。もっとも、それでもなお猛威を振るう自然の驚異の前には無力なのですが。

 主人公ヘル・タナーはどう割り引いても善人ではありません。粗暴かつ短絡的で、しばしば無用の暴力を振るってはいざこざを起こします。一時は郵便輸送の仕事でその能力を真っ当な方向に役立てたこともありましたが、結局は暴力事件を起こしてその功績をふいにしてしまいます。いわゆるゴロツキに類する人間ですね。
 しかしながら、タナーは単に粗野で無情な男というわけでもなさそうです。輸送隊の出発前、高い報酬に釣られてメンバーへ加わろうとした兄のデニーを、危険だからと病院送りにして阻止します(やり方は乱暴ですが(^^;))。また、旅の途中で出会う人々との関わりの中で、幼少の頃に汚濁と危険に満ちた世界に対して抱いていた気持ちを思い起こしたりするのです。
 とは言うものの、タナーは最後までタナーであり、露悪的な飄々とした態度を保ち続けるところは逆に清々しくさえあります。

 本書を読んだときに強く印象づけられるのは、その末尾の切れ味です。
 個人的に、ロジャー・ゼラズニイ氏の作品には結末の切れ味が良いものが多いと感じています。氏が短編での評価が高い作家さんであることと無縁ではないのでしょう。(本書も元々は中編として書かれたものに加筆した長編小説ですし)
 その諸作の中でも『地獄のハイウェイ』はとりわけ爽快な末尾であり、それが読後感の良さに繋がっています。何年か経った後にふとそれをまた味わいたくなる、そんな作品です。

この記事へのコメント

  • A・T

     はじめまして。今まで読んだ(といっても『わが名はコンラッド』『ドリーム・マスター』と合わせて三作品ですが)ゼラズニイの作品では、実はこれが一番好きです。僕はSF素人なんですが、ちょっとニューウェーブの作品は難しい・・・・・・。その中でも、嵐や魑魅魍魎が跋扈する中を武装した車で爆走するこの物語は、とてもわかりやすくて、単純に楽しかったです。
     他に取り上げられている作品も面白そうです。これからの読書の参考にさせていただきます。
    2007年08月23日 09:27
  • Manuke

    はじめまして~。
    ニューウェーブは古典SFの殻を破るために現れてきたムーブメントのようですから、文学性が高い作品が多い反面、やっぱり難しいという印象がありますね。
    ゼラズニイ氏のお話はニューウェーブSFに属しながらも取っつきやすく、個人的にも好みです。
    (難解なものにも、また別の面白さがありますけど)

    あと、ゼラズニイ作品の魅力はなんといってもそのカッコ良さですよね(^^;)
    特に本作のヘル・タナーは、繊細な部分とワイルドな言動のアンバランスさが好きです。
    2007年08月24日 01:02

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