スターバースト

[題名]:スターバースト
[作者]:ジェフリー・A・カーヴァー


 本書は、殺されても生き返る不死身の主人公を取り巻く物語を描いた、サスペンスタッチの宇宙SFです。
 主人公ラスキン君は不死身とは言っても、スーパーヒーローのように強大な敵と戦ったりするわけではなく、あくまで受け身で様々な困難に巻き込まれていきます。そもそも、物語冒頭時点ではラスキンは記憶を失っており、自分が何故不死なのか、周囲で何が起きているのかすら分からない状況です。(もちろん、読者にも何が起きているのか分かりません(笑))
 この「訳の分からなさ」は、A・E・ヴァン・ヴォクト氏の古典作品『非Aの世界』を髣髴とさせる部分があります。『非Aの世界』では、主人公ゴッセンの記憶は捏造されたものであり、殺されても予備の肉体で蘇るというものでした。ラスキンの場合はナノマシンで肉体が急速に修復されるという違いはあるものの、状況もやや似ている感じがしますね。
 また、物語の別のサイドとして、恒星ベテルギウスを巡る秘密の計画が存在し、お話を盛り上げてくれます。両者が交わるとき、ラスキンが目にするのは――。

 惑星カンタノ・ワールドの深い森の中で、一人の男が暗殺者によって殺されました。
 パルス・ビーム・ライフルで男の胸と首を射抜いた暗殺者ガンズは、しかし程なくして男が息を吹き返したことに驚愕します。再び額を撃ち抜き、念を入れて胸に風穴を開けたガンズですが、それでも男はしばらくするとまた起き上がりました。
 今度こそはと頭を半分吹き飛ばし男の死を確認したガンズは、暗殺者としてのプライドを傷つけられ、これ以上付き合っていられないとその場を去ります。
 そしてその後、男は三たび目の蘇生を果たしました。彼は自分の名前すら思い出せない状況でしたが、幾度も狙撃で殺されたことを朧げに覚えており、自分がそのたびに死から蘇ったらしいことを認識します。何故自分は殺されたのか、何故再生するのか、そして自分は何者なのか――何もかも分からないまま、彼はうろ覚えに記憶していた山小屋へと戻りました。
 山小屋では、ロボットのジーヴスと二人の連れが彼の帰りを待っており、彼は自分の名前がウィラード・ラスキンであったことを思い出します。しかし、二人の男と一人のロボットの言動には何か怪しげな部分があり、ラスキンは自分が記憶を失っていることを隠したままにすることにしました。
 その後、自宅へと戻ったラスキンですが、自分を殺した何者かを恐れ、彼は自分の異常事態を周囲に悟られまいとします。自分の仕事すら良く理解できないまま数日を過ごした後、彼は意識を失い――そして、自分がある女性を殺そうとしている場面に出くわします。
 その女性は、ラスキンの恋人タミカ・ジョーンズでした。ラスキンは意識を消失している間に、その容貌が他人のものへと変化し、タミカを殺そうと彼女の家に押し入っていたのです。タミカは銃で射殺したはずの暴漢が蘇生し、目の前でラスキンへ変化するのを見て混乱をきたします。
 いよいよ困窮極まったラスキンは、友人で爬虫類型種族ロゴス人のマックスを頼ることにします。彼の感応者(エンパス)としての能力で、自分が本当にラスキンなのか調べて欲しいと。
 一方、赤色巨星ベテルギウス近傍にある宇宙ステーション〈スターミューズ〉では、極秘計画である〈プロジェクト・ブレークスター〉が最終段階に差し掛かろうとしており、研究者達は計画立案者の到着を待ちわびていました。その立案者こそが、ウィラード・ラスキンだったのです。
 複数の陰謀が交錯する中、人々はまだ知りません――計画の要であるベテルギウスが、意識を持った生物であることを。

 本書の注目ガジェットは、NAG("nano-agents":微少作用体)です。
 これは、要するにナノマシンのことですね。本来の用途は、分子サイズの無数の機械を体内に注入することにより、細胞レベルの損傷修復を行うためのもののようです。NAGは自己増殖能力を持っており、実質的には人工ウイルスに近い存在と思われますが、医療用NAGは目的を達成した後に自壊するようプログラムされています。
 しかしながら、ラスキンに注入されたNAGは違法なもので、彼の体内に居座り続け、その肉体や思考に干渉を行います。これによりラスキンは不死、記憶障害、容貌変化といった症状に悩まされることになるわけです。
 作中では、この悪意を持ったNAGに対抗するため、ラスキンには別のNAGが注入されます。ダックスと呼ばれるこのNAGは知性を持った存在で、ラスキンの強力な助けとなります。
 感染することでほぼ不死身になれるわけですから、多くの人がこの技術を欲しがりそうな気がしますけど、作中ではまだNAGが民間レベルで使われる段階には至っていない模様です。もっとも、自分をいいように操られる危険性がありますし、即死レベルの怪我から復活するのはかなり痛そうなので、善し悪しですね(^^;)

 物語はラスキン君の自分探しと〈プロジェクト・ブレークスター〉の二つが軸となっていますが、他にも多数のSFガジェットが盛りだくさんです。
 作中の世界は、人類がK空間という超光速移動手段を獲得し、いくつかのの異星人文明と接触を果たした未来に設定されています。K空間ワープでの移動は光よりも速いものの、到達距離はあまり遠くない模様で、人類の居住宙域はせいぜい数十光年といった辺りでしょうか。
 政治的には、個人の意思を尊重し緩やかに結びついたオーリクル連盟と、複数の異星人を統合する半ば全体主義的なタンデスコ三位一体制(トライユーン)が存在し、対立状態にあるようです。また、学究の徒であるクェレイン・アカデミーも、両者と距離を取りながら独自の行動を起こしています。ラスキンはこれらの諍いに巻き込まれた形ですね。
 他にも、エンパシー(テレパシーではないようですが、似たようなもの?(^^;))能力を持つ蛇型異星人ロゴス人、コンピュータに意識をコピーしたサイバー意識体(ダックスの製作者エ=リク・ダクスター)、自分自身を〈輝くもの(ブライト)〉と認識する赤色巨星ベテルギウス等々、少々盛り込みすぎの感が無きにしも非ずです(笑)
 種明かしがやや後半に集中しているきらいはあるものの、テンポが良くガジェットも豊富なので最後まで飽きさせません。エンターテイメント性の高い、良作サスペンスSFです。

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