多元宇宙SOS

[題名]:多元宇宙SOS
[作者]:キース・ローマー


 『多元宇宙の帝国』の続編、平行宇宙を移動する装置を開発したゼロ・ゼロ世界の〈帝国〉を扱ったお話です。
 とは言うものの、本書では〈帝国〉そのものは冒頭早々に退場し、ベイヤードは多元宇宙をあちこち放浪する羽目になります。前作以上に訳の分からない事態に巻き込まれることになったベイヤード君はかなりの巻き込まれ体質ですね。:-)
 ゼロ・ゼロ世界の危機を救った後、故郷の世界BI・3へは戻らずに〈帝国〉へ留まることを決意した元アメリカ合衆国外交官ベイヤード。しかし、彼は再び異次元からの脅威にさらされることになります。果たして、彼はゼロ・ゼロ世界へ戻ることができるのでしょうか。

 帝国情報局大佐ブライオン・ベイヤードが自宅で妻バーブロと夕食を共にしようとしていたとき、突如リヒトホーフェン男爵から電話がかかってきます。呼び出しに応じて情報局へ赴いた彼は、そこで長い尋問を受けることになりました。それはベイヤードが本物かどうかを確認するものだったのです。ベイヤードは忍耐強くそれに答えたものの、事情が説明されないままでした。
 ところがその後、彼は奇妙なものと出くわします。局の中でベイヤードは光と熱を発する火のような男と出会い、昏倒させられてしまったのです。
 目を覚ましたとき、そこには誰の姿もありませんでした――情報局の中だけでなく、外の街中にさえも。車はライトが点いたまま路上に放置され、家の庭に咲き乱れていた草花も消滅しています。そして、自宅でベイヤードを待っているはずのバーブロもいなくなっていました。
 その後、彼は無人のストックホルムを行進する奇妙な大男達を目撃します。それは金髪のゴリラのような毛むくじゃらの怪物であり、独自の位相転移機でゼロ・ゼロ世界へやってきた異邦人でした。
 その異邦人達が異常事態に関係があると睨んだベイヤードは、彼らの位相転移機に忍び込んでそれを起動させました。しかし、操縦レバーがロックされていたせいで、為す術もなく彼は異邦人の故郷世界へ送り込まれてしまいます。
 到着後、囚われの身となったベイヤードは、そこで彼と同じく別世界から来た猿人クソニジール族の特務捜査官ドゾクと出会いました。そして、金髪ゴリラ・ハグルーン族が他世界で奴隷狩りをしていることを教えられます。
 ドゾクと協力して牢を脱出し、再び位相転移機を盗んでクソニジール族の世界へと逃れたベイヤード。けれどもクソニジール世界では、人間は暴力志向の強い種族として嫌悪されていました。その上、ベイヤードが元いたゼロ・ゼロ世界などというものは存在せず、荒廃した世界が広がっているだけだと言うのです。
 ベイヤードは嘘つきだと決めつけられ、記憶を奪われた上に文明の遅れた世界へ島流しにされてしまいました。しかし、彼は女催眠術師オリヴィアの助けを借りて記憶を取り戻し、自力でMC転移機を開発する術を探し始めます――第二の故郷ゼロ・ゼロ世界消滅の謎を解き、愛する妻の元へ帰るために。

 本書の注目ガジェットは、ハグルーン族("Hagroon")とクソニジール族("Xonijeel")です。
 本シリーズの多元宇宙は、A連続体上の近さが歴史の分岐点の近さに対応している模様です。ゼロ・ゼロ世界とBI・3(私達の世界)は十八世紀後半、ブライトの縁は十六世紀半ばまで歴史を共有している、といった具合です。ゼロ・ゼロ世界から遠ざかるほど、分岐点が過去へ遡り、世界間の違いは大きくなっていきます。
 〈帝国〉が交易を行っていたのは比較的近い世界のようですが、並行世界そのものはずっと遠くまで広がっており、中にはホモ・サピエンス以外が知的生命体として進化し位相転移機を発明した世界も存在します。それがハグルーン族の世界とクソニジール族の世界です。(両者は別個に発展)
 ハグルーン族は大きな禿頭・顎のない顔・金髪で毛だらけのゴリラ的容貌ですが、五十万年ほど前に人類と分岐した、比較的ホモ・サピエンスに近い種族です。全体的に粗暴で、文化的にはあまり洗練しておらず、他の並行世界からの略奪によって文明を維持しているものと思われます。
 一方、クソニジール族は赤茶色の毛が生えた南方猿人(オーストラロピテシン:"australopithecine")で、人類との分岐は数百万年前とされています。その文明度・技術力は高く、ゼロ・ゼロ世界やハグルーン族を遙かに上回っています。クソニジール族側はハグルーンの存在を知っており(逆は知られていない模様)、その奴隷狩りをなんとかしようと考えているようです。
 興味深いのは、ホモ・サピエンスは両種族よりも残虐な存在と見なされている点です。どちらの世界でも複数の類人種が共存しており、近縁種族を根絶やしにした人類は暴力的過ぎるとして嫌悪されています。実際のところ、ホモ・サピエンスが他の化石人類を暴力で絶滅させたという直接的な証拠はほとんどないのですが、同一種の中ですら諍いが絶えない現状を見ると、私達が近縁人類と仲良く共存できたかどうかは疑問ですね(^^;)

 前作『多元宇宙の帝国』では、並行世界は「IFの歴史」を形成するガジェットとして用いられています。本作では更にそれを拡大して、ホモ・サピエンスとは別の類人猿が文明を築いた世界まで遠く続いていることが明かされます。この様子だと、恐竜から進化した知性体ディノサウロイドの世界もあったりするのでしょうか。
 なお、本シリーズにおいて、多元宇宙を移動する位相転移機は非常に危険なものであるため、ゼロ・ゼロ世界周辺は開発失敗により生命が死に絶えた世界群・ブライトが広がっています。面白いことに、どうやらハグルーン世界周辺にも同様の荒廃領域が存在するようです(クソニジール世界では言及なし)。
 諸世界で文明の発達具合は異なりますから、そうすると時を経るにつれ位相転移機の開発を試みる世界は増えていき、結果として荒廃領域もどんどん広がっていくような気がします(^^;) 先に転移機開発に成功した世界が、後続世界での転移機開発を食い止める、次元パトロールのような組織がいずれ必要になってくるのかもしれません。

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