多元宇宙の帝国

[題名]:多元宇宙の帝国
[作者]:キース・ローマー


 ユーモアSFの名手なキース・ローマー氏の処女長編、並行世界SFです。
 同じくローマー氏の書かれた、並行世界を舞台とするコミカルSF〈混線次元シリーズ〉とは別の設定で、続刊があることからアメリカでは"Imperium"と分類されている模様です(日本語翻訳版にはシリーズ名称なし)。
 本シリーズは並行世界への移動装置を開発した〈帝国〉とその周辺世界を扱ったお話で、コメディではなく活劇路線ですね。ローマー氏初の長編ながらエンターテイメント性が高く、若干の推理要素もあって強いスピード感のある作品に仕上がっています。
 突如として別の並行世界へ拉致されてしまったベイヤード。〈帝国〉は果たして、彼に何をさせようとしているのでしょうか。

 アメリカの外交官ブライオン・ベイヤードがストックホルムの町を散策していたとき、一人の男に後をつけられていることに気付きました。彼はそれを撒こうとしましたが果たせず、複数人の男達により昏倒させられ、トラック様の乗り物に押し込められてしまいます。
 乗り物の中で息を吹き返したベイヤードは、自分を尾行していた帝国情報局のウィンター先任大尉から、非礼への謝罪と、これが必要な措置だったことを告げられます。しかし、要領を得ないウィンターの説明に業を煮やしたベイヤードは、隙を突いて拳銃を奪い、詳しい説明及び乗り物を止めることを要求しました。
 けれどもウィンターは臆することなく、この乗り物が途中で止めることができないと説明します。これは並行世界間を移動するMC転移機であり、その道中は放射線まみれの死の大地なのだと。そして、彼らの出身世界でるゼロ・ゼロ世界の〈帝国〉を守るためには、ベイヤードの協力が必要なのだと。納得したベイヤードは、とりあえず銃を収めることにします。
 そしてゼロ・ゼロ世界に到着したベイヤードは、自分が拉致されてきた理由を教えられます。MC転移機で移動可能な並行世界範囲・Aラインのうち、ゼロ・ゼロ世界周辺には人間の生きている世界は三つしかなく、そのうちの一つBI・2の住人がゼロ・ゼロ世界への次元侵略を目論んでいるというのです。そして、BI・2世界を支配する独裁者の名はベイヤード一世、別世界におけるブライオン・ベイヤード自身でした。
 世界大戦を経験していないが故に、あまり近代戦に通じていないゼロ・ゼロ世界を気に入ったベイヤードは、BI・2へ潜入してベイヤード一世を暗殺し、彼に成り代わって次元間戦争を食い止めるという任務を引き受けることにしました。しかし、ベイヤード一世は謎の多い人物で、側近に気付かれずに入れ替われるのかは不明な状況でした。
 果たしてベイヤードは、BI・2の暴挙を食い止めることができるのでしょうか。彼は事態の裏に隠された陰謀の存在を知る由もありません。

 本書の注目ガジェットは、Aラインとゼロ・ゼロ世界です。
 ゼロ・ゼロ世界では一八九三年、二人のイタリア人科学者により選択可能ライン("Alternate lines"、別名Aライン)を自在に移動するマクソーニ・コッシーニ界発生機が発明されています。この装置はイギリスに持ち込まれ、他の世界からの資源を獲得できる外交カードとして使われるようになります。この結果、イギリス政府はドイツ帝国政府と交渉の末にアングロ・ジャーマニー帝国を設立、世界大戦は回避される訳です。
 その後の〈帝国〉による調査で、ゼロ・ゼロ世界から離れた場所には無数の豊かな世界が存在するものの、ごく近くには荒廃した世界が広がっていることが判明します。その理由として、MC界発生機が非常に危険なものであるため、転移機の開発失敗により世界が放射性物質に汚染、もしくは地球が丸ごと吹っ飛んでしまったのではないかと推測されています。
 荒廃領域はブライト("the Blight")と呼ばれ、その中には人間の存在する暗い島国("Blight-Insulars")が三つしかありません。ゼロ・ゼロ世界(BI・1)、独裁者ベイヤード一世が支配するBI・2、そして私達の世界BI・3です。この三つは十八世紀後半まで歴史を共有し、その後に分岐した模様です。ブライトの外側はそれ以前(一番近くでも十六世紀半ば)に分岐しているため、この三つの世界同士でのみ同一人物が存在するものと思われます。例えば、ゼロ・ゼロ世界にはヘルマン・ゲーリングが民間人として存在し、BI・3では彼が有名人であることをベイヤードに教えられて大喜びしています。(無論、何故有名なのかベイヤードは説明していません(^^;))
 なお、一つ面白い設定として、私達は日常的に世界間の移動を行っているというものがあります。物が知らないうちに移動していたり、捜し物がなかなか見つからないときは、ごく近い別の並行世界に移ってしまったのだ、というものです。私は読みたい本が見当たらなかったりすることがしばしばあるのですけど、それはきっと整頓不足ではなく並行世界のせいなのでしょう。:-)

 作品の展開としては、序盤の誘拐からBI・2世界への潜入等々、アクション要素が強めです。主人公ベイヤード君は一介の外交官ですが腕の立つ男で、特別な訓練を受けた訳でもなさそうなのに大活躍なのは主人公補正でしょうか(笑)
 最初の長編でこれだけ面白いお話を書かれたというのは、キース・ローマー氏の筆力を伺わせますね。氏のユーモアSFは、その地力の高さに支えられていると言えるのではないでしょうか。

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