ミレニアム

[題名]:ミレニアム
[作者]:ジョン・ヴァーリイ


 本書『ミレニアム』は、何万年も先の未来世界と現代が交差する事件を描いた時間SFです。
 物語は主に、未来の住人であるルイーズと現代人のビルの二人による交互の陳述という形で綴られていきます。しかし、それぞれの陳述は時間順でありながら、二人の時間軸は平行ではありません。時に交差しつつ、物語の真相がなかなか明らかにならない様は、推理もの的な面白さを含んでいます。
 救奪と呼ばれる行為に従事する未来人ルイーズと、現代で飛行機の事故調査を行っているビル。二人の時間が交わるとき、そこに大いなる危機が待ち受けていたのです。

 “終末の時代”と呼ばれる遥かな未来、人類は大きな困難に直面していました。過去の時代に行われた環境汚染や原子力・生物兵器による破壊の結果、人間は遺伝子に深刻なダメージを負っていたのです。
 生まれてくる子供達の多くが脳機能に問題があり、知性を持たない幼弱者と呼ばれる存在でした。それ以外の者も例外なく障碍を抱え、機能しなくなった体を次第にサイボーグ化していきますが、いずれ短命のまま人生を終えることになります。
 この事態を打開するため、“終末の時代”の人々はある計画を企てました。そしてその目的に必要な人材を、過去の時代から『救奪』してくることを選んだのです。
 救奪隊長ルイーズ・ボルティモアは隊員を率いて、二十世紀のアメリカで起こった飛行機事故の機内へ赴き、乗客を救奪するという任務を遂行していました。ところが、予想外の出来事により救奪は失敗し、事故機の中に衝撃銃が置き去りにされてしまうのです。
 一方、二十世紀における交通安全委員会の主任調査官ビル・スミスは、飛行機二機の空中衝突という痛ましい事故の調査を行っている際、何やら奇妙なことに気付くことになります。
 もし、ビルが衝撃銃を手にすることになれば、タイム・パラドックスによって歴史は変わり、世界は消滅してしまうと言われています。それを食い止めるため、ルイーズはまた二十世紀へと向かうのですが……。

 本作の注目ガジェットは、救奪です。
 過去の時代へ通じるゲートという装置(いわゆるタイムマシン)を使い、事故等で亡くなるはずの人間を拉致し、代わりにその人間そっくりに変装させた幼弱者を過去の時代へ残してくるというものです。
 作品世界では、歴史は改変に対してある程度の許容力を持つとされています。このため、事故の死者を別の人間にすり替えても、つじつまさえあっていればタイム・パラドックスは発生しないようです。
 但し、過去の時代に存在し得ない物を置き去りにしてしまう等、大きな歴史の矛盾を引き起こす改変がなされると、その影響を急速に未来へと伝搬させる『時震』が発生し、歴史自体が撹乱されてしまいます。その発端となった遺失物、またはその事象を、作中ではトオンキィ(Twonky)と名付けています。
 非常に面白いのが、トオンキィが引き起こす改変の伝達速度です。作中ではこの速さを「時速五百年」等と表現しています。この語感がとても素晴らしいと思いませんか(^^;)

 本書では、各章のタイトルに既存の時間SF小説の題名が使われています。例えば『その人を見よ』、『闇よ落ちるなかれ』、『永遠の終り』等々……。SFファンにはたまらないお遊びですね。:-)
 悪趣味な描写や斜に構えた登場人物、やや反則気味なネタ等、全体的にシニカルな印象を感じさせる物語はヴァーリイ氏の持ち味と言えるでしょうか。そうした点がよりいっそう、“終末の時代”における人間の在り方の異様さを強めてくれます。

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