地球は空地でいっぱい

[題名]:地球は空地でいっぱい
[作者]:アイザック・アシモフ


 人間ライティング・マシーンことアイザック・アシモフ氏の短編集です。
 本書には中編クラスから一発ネタ(^^;)のショートショートまで、十七編のお話が収録されています。中には氏ご自身を題材にした詩が含まれているのが興味深いですね。それを受けてか、締めの作品『夢を売ります』が、創作者という生き方を題材にしているという構成が面白いです。

◎死せる過去

 アーノルド・ポッタリイ博士は、古代カルタゴを研究している考古学史の教授でした。
 この時代には、過去を覗き見る装置クロノスコピイが発明されており、ポッタリイはカルタゴを調べるためにタイム・ヴューを行う許可をクロノスコピイ局に申請し続けてきました。しかし、一向に許可が下りる様子がありません。業を煮やしたポッタリイはクロノスコピイ局へ押しかけますが、局長サデュース・アラマンにあしらわれて追い返されてしまいます。
 怒り心頭のポッタリイは、自分が後回しにされているクロノスコピイのことを調べてみることにしました。学者が専門外のことに興味を持つのはご法度であり、社会的破滅に繋がりかねないものでしたが、ポッタリイはあるトラウマからカルタゴの研究に没頭しており、そのためには危険を冒すことを厭わなかったのです。
 ところが、周囲の歴史学者に尋ねて回っても、誰一人としてタイム・ヴュー使用許可を得た者はいませんでした。それどころか、クロノスコピイに関する研究自体がほとんどなされていないことにポッタリイは気付いてしまいます。
 果たしてクロノスコピイは実在しないのか、はたまた何らかの陰謀が裏に隠されているのか――それを突き止めるため、ポッタリイ物理学の新任講師ジョナサン・フォスターに接近し、クロノスコピイの謎を解くよう説得するのですが……。

◎SF成功の要諦

 SF作家として名声を得る秘訣を皮肉と自嘲たっぷりに綴った詩です(^^;)

◎投票資格

 二〇〇八年十一月、インディアナ州に住むごく普通の男性ノーマン・マラーは、アメリカ大統領選の全有権者代表に選ばれました。
 この時代には、超巨大コンピュータのマルティヴァックがあらゆるものを予測するようになっており、大統領選も例外ではありません。しかし、人間の心の反応パターンには未知の部分があり、マルティヴァックは最低一人の人間の心理傾向を調べる必要がありました。そして、その一人に選ばれたのがノーマンであり、彼に心理テストを実施すれば実際に投票を行わずともマルティヴァックが選挙結果を予想できる(ので選挙は行わない(^^;))という仕組みだったのです。

◎悪魔と密室

 軍隊から除隊した傷病兵で、愛していた娘からの縁切り状を受け取ったイジドア・ウェルビーは、彼を誘惑しに現れた悪魔シャプールと契約を交わすことになりました。それは十年間、妥当な範囲内でなら望みのものは何でも手に入るという美味しい報酬で、かつ十年後に簡単な課題を果たせば悪魔になれるというものだったのです。
 かくして、仕事はトントン拍子、よりを戻した恋人と結婚して四人の子供に恵まれたウェルビーは、地位・名声・富を築き上げていきました。そして約束の十年が過ぎたとき、再び現れたシャプールはウェルビーを継ぎ目もなく溶接された密室の中に閉じ込め、脱出してみせろと言ったのです。彼に与えられた魔力があれば脱出可能だが、思いつかなければ地獄へ墜ちるというものでした。
 シャプールはウェルビーに告げます――彼が手に入れた幸せは、勤勉でありさえすれば本当は悪魔と契約しなくても手に入ったものなのだ、と。屈辱を感じたウェルビーは……。

◎子供だまし

 ファンタジイ作家ジャン・プレンティスが原稿をタイプしていたとき、デスクの上に突如として奇妙な昆虫が出現しました。驚くべきことにその虫は、自分がアヴァロンからやってきた小妖精(エルフ)だと名乗ったのです。
 自分の正気を疑うプレンティスでしたが、エルフは夢でも幻覚でもないと彼に告げます。昆虫は哺乳類が誕生するより遥か昔から世界に存在しており、地球の先進種族だったと言うのです。
 そして、そのエルフは同属の中でも特殊であり、恐るべき野望を抱いていたのでした。

◎高価なエラー

 アイダホ州トウィン・ガルチの保安官であり、雑貨屋その他様々な副業を持つバート・キャメロンは、毎年の所得税申告の時期になるといつもよりいっそう不機嫌になる有様でした。
 そして折り悪く四月十四日、保安官事務所のすぐ近くに空飛ぶ円盤が着陸し、中からチャコール・グレイのスーツを着た二人の男が姿を現しました。それを目撃した副保安官(一人称話者)は唖然とするものの、キャメロンは税の計算に集中して全く気付いていませんでした。
 やがて、その男たちは保安官事務所へとやってきます。相手が宇宙人だと知らないキャメロンは、作業を邪魔されたことに苛立ちながら応対をするのですが……。

◎住宅難

 遥かな未来、人類は可能世界(並行世界)への移動方法を確立していました。そして、人口増加による住宅問題を解決するため、別の可能世界にある地球へ住居を移すということが行われるようになったのです。可能世界は無限に存在するため、ほとんどの人間は生物が存在しない無人惑星を探し出し、そこへ家を建て住むようになりました。
 そうした一家の一つリンブロウ家は、十五年以上暮らしてきた家の外から何か音が聞こえることに気付きました。二酸化炭素の大気を持った無人惑星上の一軒家であるはずなのにどういうことなのかと、主人のクラレンス・リンブロウは住宅供給局に苦情を申し立てます。
 局員のビル・チンとアレック・ミシュノフが、その惑星へ赴いてみると……。

◎メッセージ

 戦争のなくなった三十世紀で生きるジョージは、役所の手続きに二年を費やした後、ようやく過去の時代へ送り返してもらえることになりました。彼は第二次大戦中の歩兵の生態について論文を書いており、実際にそれを目にすることで事実に基づくものに仕上げようとしたのです。
 数分間は誰も近づくことがないと分かっている、北アフリカの無人の建物の陰に現れたジョージは、現実の戦闘のまっただ中に自分がいることを自覚し、純然たる傍観者ではなくそこに参加したいという思いに駆られます。そして――。

◎お気に召すことうけあい

※『ロボットの時代』収録作と共通。

 クレア・ベルモントは、夫であるラリイの懇願を受け、実証実験として新型ロボットTN3(トニイ)を家庭へ招き入れることになりました。この実験にはラリイの昇進がかかっていたからです。
 外見はハンサムな青年にしか見えないトニイに対し、クレアは戸惑いと恐怖を隠せませんでした。しかし、完璧なまでに家事をこなし常に礼儀正しいトニイに対し、クレアは次第に別の感情を覚え始めるのです。

◎地獄の火

アルヴィン・ホーナー:コンチネンタル新聞社ワシントン支局の新聞記者
ジョーゼフ・ヴィンチェンツォ:原子力研究所の科学者

 核爆発を記録した世界最初の超高速度映画を見るため、科学者、お偉方、国会議員、新聞記者といった人々が集まっていました。その映画は、間歇的に光の入射を調節する特殊レンズを用いて、毎秒十億コマという超高速度撮影で核爆発の瞬間を捉えたものだったのです。
 その映像に映っていたのは……。

◎最後の審判

 世界は一九五七年、遂に最後の審判を迎えることになりました。
 千年そこそこの昔に創り出された駆け出しの熾天使エセリエルは、創造されてからこのかた地球周辺の直接管理を任されてきました。どさまわりの空扶持(笑)もいいところの仕事でしたが、何世紀も経るうちにエセリエルはこの小世界に愛着を抱いてきており、突然の破壊を知って天使長ガブリエルに抗議します。しかし、ガブリエルの反応はけんもほろろの有様でした。
 一方の地球上では、死者が続々と復活しつつありました。R・E・マンはあちこちを歩き回り、復活に伴ういざこざを目にすることになります。

◎楽しみ

 二十二世紀の未来、学校はもはや子供達が一つの建物に集められるものではなく、各家庭に備えられた教育設備へと変化していました。
 ある日、マージイの友達のトミイ少年は屋根裏部屋でほんものの本を発見します。それはスクリーンの上を動いていく現代的な本ではなく、文字が紙の上で止まっているという骨董品でした。マージイとトミイが二人でその本を読んでみると、そこには何百年も昔の学校のことが書かれていたのです。

◎笑えぬ話

 史上最大のコンピュータ・マルティヴァックがあらゆる問題を解決できるようになった時代――ネックになるのはむしろ質問の方でした。マルティヴァックから正しい答えを引き出すためには、コンピュータに対し意味のある質問をしなければならず、蓄積された情報量が増大するにつれそれはますます困難になっていったのです。理屈ではなく、たぐいまれなる直感力で質問を突き止めることのできる者はグランド・マスターと呼ばれ、世界中で十二人しか存在しません。
 そのうちの一人、ノエル・マイヤホーフの部屋へうっかり踏み込んでしまった主任分析学者ティモシー・ホィスラーは、マイヤホーフがマルティヴァックにジョークを言っているところを目撃してしまいます。ジョーク屋のマイヤホーフが、ネタが尽きるのを恐れてマルティヴァックを私用に使っているのではないかと考えたホィスラーは、それを内務省コンピュータ・オートメーション部局長のエイブラム・トラスクに報告しました。
 しかし、ホィスラーの考えは間違っていました。マイヤホーフは、あらゆるジョークはそれ以前のジョークのもじりに過ぎず、全てのジョークにはルーツがあるのではないかと疑念を抱いていたのです。この質問に対し、マルティヴァックが出した答えは……。

◎不滅の詩人

 クリスマス・パーティーで、すこしばかり酔っていた物理学者のファニアス・ウェルチ博士は英文学講師スコット・ロバートスンに、過去の大人物の魂や肉体を呼び返すことが可能だと教えました。それは時間内転送の問題に過ぎないのだと。
 そして実際に、ウェルチ博士は既に幾人か、アルキメデス・ニュートン・ガリレオといった偉人を現代に連れてきたのだと言います。しかし、最初こそ喜ぶものの、誰もが現代文化に馴染めずに塞ぎ込み、仕方なく送り返さねばなりませんでした。
 そこで一計を案じた博士が、より柔軟性のある人物として不滅の詩人シェークスピアを選んだのですが……。

◎いつの日か

 ニコロ・マゼッティ少年は、〈詩人(バード)〉と呼ばれる無限に物語を紡ぐ装置を持っていました。しかし、それはきこりや王女様、しゃべる動物といった古くさいおとぎ話しか作ることができず、ニコロはもっと新しいものが欲しいと思っています。しかし、父親は彼の頼みを聞いてくれませんでした。
 友人のポール・レーブが遊びに来たとき、ニコロは友達にその不満を打ち明けます。すると、コンピュータに詳しいポールは〈詩人〉に語彙を加えればマシになるのではないかと、〈詩人〉を分解して記憶シリンダーを取り出します。

◎作家の試練

 作家であることが生活にどのような影響をもたらすのかを綴った、ユーモラスながらも興味深い詩です。

◎夢を売ります

 録夢とは、人間が頭の中で夢想したことを記録し、他者の頭中で再生することのできるものです。書物や演劇、映画といった従来のメディアよりも遙かにダイレクトに創作者の夢想を伝えられるものであり、幅広く支持を得るに至りました。そして、録夢を作り出す人間はドリーマー(夢想家)と呼ばれ、その中でもレベルの高い作品を創造できる者は貴重でした。
 録夢の販売を手がけるドリーム社の社長ジェシー・ウエイルは、新しくスカウトされたドリーマー候補の少年と面接したり、他者の量産録夢にどう対抗していくか編集者フランシス・ベランジャーと議論したりと、忙しい日々を送っていました。
 そうした中、ドリーム社お抱えの最優秀ドリーマー、シャーマン・ヒラリーがウエイルの下を訪れてきます。彼は、録夢創作のためにいつも気もそぞろであり、妻や娘をないがしろにしていることに耐えられなくなり、ドリーマーを辞めたいと言い出したのです。

 収録作のうち『お気に召すことうけあい』は、短編集『ロボットの時代』にも収められている、いわゆる〈ロボットもの〉の一エピソードです(スーザン・キャルヴィン博士も登場)。興味深いのは、このトニイはおそらくアシモフ未来史で最初に人間そっくりに作られたロボットである点ですね。
 ロボット黎明期では他にも、人に似せたロボットとして『われはロボット』のスティーヴン・バイアリイ(作中ではロボットかどうかの明示なし)、『バイセンテニアル・マン』(映画『アンドリューNDR114』原作)のアンドリュウが存在しますが、どちらもある意味特殊な存在です(かつ、両者よりもトニイの方が多分先)。つまり、〈イライジャ・ベイリ三部作〉で人間の社会に溶け込むことを目指して作り出されたヒューマンフォーム・ロボット、R・ダニール・オリヴォーのルーツはトニイにあるわけです。
 ダニールは遙か未来、ロボット開発における先進的な宇宙国家オーロラで作られる訳ですが、テスト運用の限定的状況とは言えロボット誕生から間もない時代に人間と見まごうトニイが製作されていたというのは、さすがはロボット偏愛者キャルヴィン博士と言うべきでしょうか(笑)
 展開には恋愛要素が絡んでいますけど、その根本にはロボット三原則の厳格なルールが流れる、小粒ながらも〈ロボットもの〉の名作です。短編向けストーリーではあるものの、映像化したら面白そうですね。

 また、冒頭で述べた通り、『作家の試練』と『夢を売ります』は対になる作品と言えそうです。『作家の試練』はフィクションではなく、アシモフ氏がご自身を振り返り作家であることの代償と報酬を綴った詩ですが、『夢を売ります』も同じ題材を扱いながら少しビターな後味の物語に仕立て上げているのが面白いですね。
 ライティング・マシーンとあだ名されるアイザック・アシモフ氏にも、作家であることに苦悩していたことがあったのかもしれません。それでもきっと、ひとたびタイプライターの前に座れば執筆を大いに楽しんでいたのだろうことが、氏の数々の作品から伝わってくるように思われるのです。

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