暗黒界の妖精

[題名]:暗黒界の妖精
[作者]:C・L・ムーア


 〈ノースウェスト・スミス・シリーズ〉第三巻にして最終巻です。
 本書収録作は五編になりますが、このうち『スターストーンを求めて』はヘンリー・カットナー氏との、『暗黒界の妖精』はF・J・アッカーマン氏との共著になるようです。カットナー氏はクトゥルー神話体系などで知られるSF作家さんで、ムーア氏の旦那さんに当たります。また、アッカーマン氏はアメリカSFファンジンで有名な方で、サイエンス・フィクションの英語での略称"Sci-Fi"を生み出した人でもあります。

◎生命の樹

 パトロールの捜索船に追われ、火星のイラー遺跡に逃げ込んだノースウェスト・スミス。しかし、食料も水もない火星では、餓えと渇きのせいで投降しなければならなくなるのも時間の問題でした。
 そこでスミスは、古代の火星寺院にはしばしば井戸が設けられていたことを思い出します。すぐに井戸は見つかったのですが、そのとき驚くべきことに女の泣き声が聞こえてきたのです。
 廃墟の中を進んでいくと、そこには奇妙に輪郭のぼやけた女がすすり泣いていました(怖すぎ(^^;))。自分は道に迷ってしまった、〈生命の木〉のある場所へ連れて行って欲しいと嘆願する女を、スミスは〈生命の木〉の飾りが付いた井戸の元まで案内します。
 しかし、それは罠でした。鬼気迫る美しさと冒涜的な恐怖を併せ持つ〈生命の木〉サグが作り出す閉鎖空間に、スミスは捕えられてしまいます。

◎スターストーンを求めて

 ノースウェスト・スミスが火星の酒場でヤロールとセガー・ウィスキーを飲み交わしていたとき、突如として壁から影が現れ、自分に雇われる気はないかとフランス語で話しかけてきました。その影が提示したブルーホワイトの真珠の報酬に釣られ、スミスは仕事を請けることにします。
 影に付いていった先は、一五〇〇年代のフランスでした。影は魔法使いフランガで、遥かな未来からスミスを呼び寄せたのです。招かれたわけではないものの一緒に来てしまったヤロールと共に、スミスはフランガの依頼通り、ジョイリィ国の女戦士ジレルから謎の宝石スターストーンを奪おうとするのですが……。

◎暗黒界の妖精

 深夜にはパトロール隊すら足を踏み入れない無法地帯、金星のエドネス海岸。そこを夜に散策していたノースウェスト・スミスは、闇の中で何者かに追われていた娘を咄嗟に匿いました。
 奇妙な緑光を放つ電灯を携えた不気味な追っ手をやり過ごした後、スミスは娘に手を引かれて小部屋へ逃げ込みました。ところが、明かりを点けても女の姿はどこにも見えません。娘の名はナユサ、異世界の存在「暗闇」と金星人の女の間に生まれた混血児で、普通の光では目に見えないと言うのです。
 ナユサは「暗闇」を信仰する古い種族ノヴに監禁され、不自由な生活を送ってきたところから逃げ出してきました。そして、そのノヴの追跡者が二人の安全を脅かそうとしたとき、ナユサは自分を助けようとしたスミスのため、自らノヴの前に出て行くことにします。

◎幻の狼女

 追っ手から逃れ、寒冷の僻地へと辿りついたノースウェスト・スミス。肩に傷を負い、熱線銃を失って丸腰の彼は、灰色の荒野を歩いていました。
 日が暮れて辺りは闇に閉ざされ、狼のうなり声が聞こえてきました。スミスは懸命に逃れようとしますが、やがてあるものを見た彼は遂に力尽きてしまいます。
 それはただの狼ではなく、白い裸体の狼女達でした。犬歯からよだれをしたたらせ、彼の咽喉首を狙って悪魔的な笑みを浮かべる狼女に、スミスは渾身の力を振り絞って挑もうとします。そして……。

◎短調の歌

 クローバーに覆われた地球の丘に一人寝転んだノースウェスト・スミス。暖かな日差しと穏やかな風の中で、彼は血生臭い日々を忘れ、遥か昔のことを思い起こします。
 それは既にスミス本人以外誰も知る者のない、とある少年の苦い記憶でした。

 興味深いのは、『地球の緑の丘』という作中歌の扱いです。
 第一作『シャンブロウ』においてムーア氏は、スミスが作中世界での流行歌『地球の緑の丘』を好んでいると設定しています。カットナー氏との合作『スターストーンを求めて』では、この歌をスミスが歌う場面が存在し、歌詞が実際に数フレーズ分書かれています。(おそらく『短調の歌』もこの歌を指しているものと思われます)
 その後、SFビッグスリーの一人ロバート・A・ハインライン氏がこの歌の題名を気に入って、ムーア氏の許可を得た上で自作小説の題名として使っています。これが〈未来史〉に属する名作短編『地球の緑の丘』ですね。盲目の詩人ライスリングが詠む、同じ名前の詩が作中に登場しています。(実際にはハインライン氏による創作で、〈ノースウェスト・スミス・シリーズ〉の作中歌とは別物)
 なお、アメリカのSFファンがこの〈ノースウェスト・スミス・シリーズ〉版歌詞と〈未来史〉版の詩を繋ぎ合わせて補完し、実際に歌に仕立て上げたものが存在するようです。複数のSF作家さんとファンのコラボレーションで作られたというのが面白いですね。

 個人的お気に入りは、『スターストーンを求めて』です。ファンタジーとスペースオペラが入り混じった面白さがあります。本作に登場する女戦士ジレルは、ムーア氏の別作品〈処女戦士ジレル・シリーズ〉からのゲスト出演のようです。
 また、締めくくりとなる作品『短調の歌』は番外的なごく短い掌編ですが、ノースウェスト・スミスの人となりを描いている点が魅力ですね。相棒のヤロールすら知らない無頼漢スミスのナイーブな側面が描かれており、本編でもこうした描写があれば「影が薄い」と言われずに済んだような気もします。:-)

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