異次元の女王

[題名]:異次元の女王
[作者]:C・L・ムーア


 〈ノースウェスト・スミス・シリーズ〉第二巻です。
 宇宙船「メイドン」号を駆る無宿者、という触れ込みのノースウェスト・スミス君ですが、実際のところ宇宙船に乗っている場面はほとんどありません。本シリーズのエピソードはほぼ、地球・火星・金星といった惑星上の町で、一仕事を終えたスミスが出くわす奇怪な出来事、という位置付けになるようです。
 つまり、スミスが行う密輸や宇宙戦といったいかにもスペースオペラらしい展開は舞台裏に追いやられており、設定として語られる程度です。この構成が、スミスの影が薄い原因のような気もします(^^;)

◎異次元の女王

 金星のいかがわしいバーでウィスキーを飲んでいたはずのノースウェスト・スミスは、いつの間にか暗闇の中にいる自分に気付きました。何者かが彼のウィスキーに一服盛って、この古代の廃墟らしい場所に連れてきたのだろうとスミスは見当を付けます。
 その場所には、アプリという名の娘がいました。アプリは高名なスミスの名前を知ると、これが手違いだったと彼に告げます。本来このヴォンの廃墟へ送られるのは、捜索の手がのびるような男ではなく、ごろつきや半端者だけのはずだったと。そして、アプリ自身も女王ジュリの機嫌を損ねたために、死ぬ運命にあるのだと。
 伝説の古代都市ヴォンの中で、スミスは女王ジュリにまみえることになります。それは、一つ目で虹色のトサカを生やした、おぞましくも美しい異次元の生物だったのです。

◎冷たい灰色の神

 火星極地の都市リグァで、ノースウェスト・スミスは偶然若い女と鉢合わせしました。女はスミスの人となりを見抜くと、彼を自宅へと招きます。
 自宅に戻り外套を脱いだところで、スミスはその女がかつて金星人の歌姫として宇宙中に名を馳せたジュダイであることに気付きました。ジュダイはその美貌と美声で人々を虜にしたものの、その絶頂期に突然姿を消していたのです。
 引退した歌姫に、どこか不穏な雰囲気を感じ取るスミスでしたが、その理由は分かりませんでした。そんな彼に、ジュダイは一つの仕事を依頼します。それは、「宇宙人の憩」というバーでとぐろを巻いている一人の男から、隠し持っている小箱を奪ってきて欲しいというものでしたが……。

◎炎の美女

 火星のラクダロール空港で仕事を探していたノースウェスト・スミスと相棒ヤロールは、無法者ウィラード一味の小男から仕事を持ちかけられます。それは、木星の月での探検調査依頼でした。
 数年前、ある金星人がその月に遭難した後、正気を失いながらも生き延びたのですが、その男は森をさまよっている間に美しい声の魔女を見たと言うのです。ウィラード一味はその女を捕まえ奴隷として売れるかもしれないと考え、その魔女が本当にいるのかを確かめるためにスミスを使おうと考えました。汚い仕事ではあるものの、金を必要としていたスミスとヤロールは仕事を引き受けます。
 ウィラード一味の探検用宇宙艇で木星の月まで向かった二人は、鬱蒼と木々の生い茂るジャングルへと足を踏み入れました。前人未到と思われたジャングルには人工的な道があり、それを辿って奥へ進んでいくと、果たして美しい娘達が姿を現します。
 ところが、スミスからは赤い髪と桃色の肌を持ち英語で話しかけてきたと思えた女達が、ヤロールの目には漆黒の髪と白い肌を持ち上流金星語で話すと映っていたのです。どういうことなのかといぶかるスミスですが……。

◎失われた楽園

 地球のニューヨークで、雄大なほどの高見にあるテラスで鋼鉄台地を見下ろしていたノースウェスト・スミスとヤロール。そのとき、ふとヤロールが一人の男に目を留めます。
 それは、銀色の髪でどこか人間離れした奇妙な格好の男でした。ヤロールは、それがアジアの人里離れた地に住む古代民族セレス族だと見抜いたのです。彼の話によると、セレス族は不思議で素晴らしい「秘密」を持っているものの、門外不出であるため種族以外の者はそれが何なのか誰も知らない、とのことでした。
 そのとき、セレス族の男は大事そうに抱えていた四角い包みを掏摸に奪われてしまいます。男はとっさに目のあったスミス達に、取り戻してくれれば望み通りの礼をすると嘆願しました。それを聞いたヤロールは、雑踏の中に消えた盗賊を追いかけ、たちまちその包みを取り返してきます。
 ヤロールが対価として男に要求したのは金品ではなく、セレス族の秘密を明かすことでした。男は青ざめ、それを聞けば高い代償を払うことになると警告しつつも、約束通り秘密を二人に開示します。
 驚くべきことに、それは精神のみを過去や未来へ送ることができる力だったのです。

 多くのエピソードに登場している、ノースウェスト・スミスの相棒である金星人ヤロールですが、小柄で天使のように愛らしい容貌ながら、その内面は魔王も救いようのない堕天使と評される、ギャップのあるキャラクタですね。他者に対する同情心は希薄で、邪魔とあらば容赦なく熱線銃で相手を殺してしまう、スミスよりもドライな性格です。
 第一話『シャンブロウ』では、筆頭のスミスに次いで宇宙パトロールに睨まれていると述べられており、二人組でかなりの悪事を働いてきたのでしょう。ノースウェスト・スミスのことを「スミス」もしくは「N・W」と呼び、互いに信頼し合っていますが、その一方でスミスはヤロールの持つ獣性を少々気に留めているようです。
 なお、本シリーズでは金星が湿気の強い沼地の惑星とされています。こうした金星の扱いは、二十世紀前半に描かれたSF作品(スペースオペラだけではなく、全般的に)の多くに共通する背景です。一九六〇年代後半、ソビエトのベネラ探査機及びアメリカのマリナー探査機が金星表面は摂氏四百度もの高温であることを暴くまで、雲のベールに隠された地表がどうなっているのか誰も知らなかったのですから無理もありませんね。ただ、現代ではよほど大胆な作品(現代天文学を無視するか、または惑星改造を行うか)でもないかぎり、SFにおける太陽系内居住環境から金星が除外されるようになってしまったのは少々寂しいところです(^^;)

 個人的お勧めは、珍しくSF的設定が冴える『失われた楽園』です(笑) 時間SFのエッセンスを交えつつ、スミスの巻き込まれ体質(^^;)や幕引きの仕方、後味の悪さがいかにも〈ノースウェスト・スミス・シリーズ〉らしいですね。
 異形の生物の妖艶さをC・L・ムーア氏らしいタッチで描いた『異次元の女王』も悪くないのですが、やはり不動の名ヒロインであるシャンブロウを超えるには至っていない印象です。:-)

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