スタープレックス

[題名]:スタープレックス
[作者]:ロバート・J・ソウヤー


 地球人類、イルカ、そして異星人ウォルダフード族とイブ族からなる乗員一千名を擁する巨大な探査宇宙船スタープレックス号。その冒険を指揮官キース・ランシングの視点から描いた宇宙ハードSFです。
 本書はなかなか濃厚なSFガジェットが多数詰め込まれたガジェット・ストーリーの側面を持っており、次から次へ明かされる謎が読者を飽きさせません。中には少々トンデモ系に感じられるものが含まれるのは、ソウヤー作品のご愛嬌でしょうか。:-)
 一風変わった構成として、物語の主要エピソード後に相当する場面がストーリー進行の合間に少しずつ挟まれた形で進んでいきます。このため、ミステリーの倒叙形式(先に犯人が明かされ、探偵が犯人のアリバイを崩していくようなタイプの推理もの)に似たテイストを味わえます。例えば、作品冒頭ではいきなりスタープレックス号が戦闘により甚大な被害を受けたことが語られますが、本編に入るとスタープレックス号はまだ無傷であり、この後戦いに巻き込まれるだろうことが読者に暗示される、といった具合ですね。

 銀河中に存在する、謎の瞬間移動ネットワーク、通称ショートカット。何万光年もの距離を一瞬で飛び越えることができるそれは、何らかの知的生命体に作られた人工物でしたが、その出口は何者かが接近しない限り休眠状態となっていました。
 ショートカットを通じてコンタクトを果たした地球勢(人類とイルカ)、豚型異星人ウォルダフード族、統合生物のイブ族からなる惑星連邦は、ショートカットが未知の超種族から若い種族への贈り物だと考えていました。そして、更なるショートカット出口確保のため、四種族合同で探検及び異種族とのコンタクトを目的とした宇宙船スタープレックス号を建造することにしたのです。
 そして就航一年後の西暦二〇九四年、スタープレックス号に新たな情報が入ります。それは、惑星連邦が関与していないショートカットの出口が、突如休眠から目覚めたというものでした。この知らせを受け、スタープレックス号の指揮官キース・ランシングは船を目的のショートカット出口へ向かわせることにします。
 新たな出口の先は、一見特に何もない宇宙空間のようでした。ところが、詳しく調査をしたところ、そこには木星ほどの大きさの球体が数百個も浮いているのが判明します。ウォルダフード族の物理学者ジャグ・カンダロ・エン=ペルシュは、その奇妙な物体が、これまで存在が謎とされてきた暗黒物質(ダークマター)であることを突き止めました。
 更なる調査を行おうとしていたそのとき、スタープレックス号の傍らにあったショートカットから何かが出てきました。超高熱で緑色の光を放つ巨大な物体の正体は、驚くべきことに恒星だったのです。スタープレックス号は大慌てで緊急退避し、船体にダメージを負いながらも、からくも恒星の熱から逃げ延びました。
 どうしてショートカットから恒星が出現したのか、恒星が見たこともない緑色をしているのは何故なのか、そして暗黒物質でできた球体群の正体は――そこには驚愕の真実が隠されていたのです。そして……。

 本書の注目ガジェットは、ショートカットです。
 ショートカットは銀河中に張り巡らされた瞬間移動ネットワークで、いわば出口が複数ある某どこでもドア、といった辺りでしょうか(^^;) 宇宙空間に浮かんでいて、通常空間からは視認困難なただの点ですが、物体が接近・突入するとその物体に合わせた入り口が開いて別の出口に繋がります。ショートカットには緯度・経度が存在し、どの角度から突入するかで複数ある出口のどれに出るかが決定されます。この超高度なネットワークの建設者は、物語開始時点では不明です。
 ショートカットは銀河系内に四十億個も存在していますが、その大半は休眠状態で、出口としては使えません。休眠状態を解除するには、通常空間から一度そのショートカットに突入し、入り口として使う必要があります。一度入り口として使われたショートカットは、その後恒久的に出口としても使うことができるようになります。
 こうした特性から、ショートカットは謎の超種族により、後進の種族への贈り物として建設されたのだろうと惑星連邦は推測しています。つまり、ある知的生命体が自分の星近くにあるショートカットに辿り着けるほど進歩して初めて、他の世界からその星へのルートが開通するということになります。
 作中では、既に光より早く飛ぶハイパードライヴが開発され、スタープレックス号にも搭載されていますが、この最高速は光速の二十二倍とされています。ある程度移動先に制限があるとは言え、何万光年も瞬時に転移可能、かつ通行料が無料(笑)なショートカットは非常に利便性が高い訳ですね。もっとも、その「通行料」は特殊な形でキースが払うことになるのですが。

 冒頭で触れた通り、スタープレックス号の繰り広げるメインストーリーの合間に、キースが終盤に出くわすエピソードが挟まれます。これは、キースがショートカットの建設者であるガラスマン(ガラスのように透き通ったヒューマノイド)と接触・対話するというシーンです(それが「通行料」)。
 ある経緯から、このエピソードは事実上メインストーリーに影響を及ぼさないのですけど、バックボーンの大きな種明かしになっている他、キースの苦悩にも関係しているのが面白いです。この時点でのキースは四十六歳で、自分が他者の調停ばかりやっていることへの疑問や、豚型異星人ウォルダフード族への苛立ち、そして二十年寄り添った妻への愛情といったことで悩んでいるのですが、ガラスマンとの対話を通じて答えを得ることになります。
 ガラスマンの設定も非常に興味深いですね。超越的な存在ながらも少々迂闊な部分もあり、キースとのやりとりはどこかユーモラスです。

 その他、尊大で小うるさい直立した豚に似たウォルダフード族・温和かつ知的ではあるものの少々異質なイブ族・優秀な宇宙船パイロットである陽気なイルカ達といった異種族との交流、暗黒物質からなる生命体、ハイフリック(ヘイフリック)限界を突破することによる不老不死の可能性、時間旅行、観測問題と人間原理、銀河が渦を巻く理由と、到底紹介しきれないほどネタが詰まっています。ただ、このせいで個々のネタに重みが感じられないという難点も生じているのがもったいない部分です。
 また、何万光年も瞬時に跳躍可能なショートカットを登場させているのに、スタープレックス号がほぼ同一宙域に留まり続けるので(一回だけ遠距離へ移動しますが、すぐに戻ってしまう)、せっかくのスケール感が活かせていないのも残念なところですね(^^;)
 作品設定は、デイヴィッド・ブリン氏の〈知性化シリーズ〉とスティーヴン・バクスター氏の〈ジーリー・シリーズ〉を混ぜ合わせたような世界観で、単作で終わらせるのは惜しい内容に感じます。ただ、その分非常に密度が濃く、後味の良さもあってエンターテイメント性の高い作品と言えるのではないでしょうか。

この記事へのコメント

  • nyam

    こんにちは。ソウヤー、大好きです。短篇集とかでないかなあ。

    >>到底紹介しきれないほどネタが詰まっています
    とのことなのですが、一つ気になっていることがあります。ソウヤーは、
    宇宙無限膨張→宇宙の低温(?)死
    宇宙膨張停止→宇宙は末永く続く(ラッキー!) としています。
    しかし、橋元淳一郎氏のご本などをみますと、
    宇宙の膨張→空間の増大→宇宙の熱的死を遠ざける! となっています。
    どちらが正しいのか、よくわかりません。定常宇宙論なららくなんですけどね。
    2012年07月07日 19:51
  • X^2

    > せっかくのスケール感が活かせていないのも残念なところですね

    本筋と関係ないですが、この表現がぴったりだったのが、TVシリーズの「アンドロメダ」でした。三つの銀河に広がる世界での話なのに、まるっきりそれが感じられない、どこかの場末のいざこざを見ているようなストーリーだったのを覚えています。そういえばあの話のワープも、こちらの「ショートカット」と説明の限りでは似たような感じかもしれません。
    2012年07月08日 00:21
  • Manuke

    To nyamさん

    宇宙の未来に関しては、分かっていないことが多いですからね-。
    加速膨張の結果あらゆる物質が散逸し、素粒子レベルで完全孤立するビッグ・リップのような説もありますし。
    まあ、本作の宇宙膨張停止は、別の宇宙とエネルギーを交換して熱的死を防ぐみたいですから、もう何でもありな感じですが(^^;)

    To X^2さん

    ちょっと詰め込みすぎの弊害ですね。せっかく宇宙が舞台なのに(^^;)
    十分面白くはあるんですけど、舞台を移動させて別エピソードに分け、じっくり描いた方がもっと盛り上がったんじゃないかと感じてしまいます。
    2012年07月08日 01:26

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