アイ・オブ・キャット

[題名]:アイ・オブ・キャット
[作者]:ロジャー・ゼラズニイ


 ナヴァホ・インディアン神話とSFを融合させた、サスペンス・タッチのSFです。
(作中ではネイティブ・アメリカンという呼称はほとんど使われませんので、本レビューでもアメリカ・インディアンと記させていただきます)
 ゼラズニイ氏はデビュー以来いくつか神話SFを手がけられていますが、本書の主人公は神話的存在ではなく、あくまでナヴァホ族の狩人という点が異なるでしょうか。主人公ビリーは強大な敵との戦い、及び神秘的体験を通じて自己の分裂という問題と向き合っていくことになります。

 二十世紀のナヴァホ居留地に生を受けながら、そこを出て白人社会の中で教育を受けたビリー・ブラックホース・シンガー。彼はナヴァホ・インディアンの狩人としての能力を買われて、宇宙生命機関(別名、宇宙動物園)からの依頼で異星の生命を捕まえるという仕事に就き、いつしか〈星の狩人(スタートラッカー)〉と呼ばれるようになりました。
 しかしながら、星々を渡り歩きながら異星生物を狩り集めていたことで、ビリーは故郷を失ってしまいました。冷凍睡眠と時間遅延効果(ウラシマ効果?)の作用により、ビリー自身はまだ若いのにもかかわらず、柔軟性の高いナヴァホ社会は変化し、もはや彼の知る新石器時代さながらの生活とはすっかり様変わりしてしまったのです。更に、白人女性ドーラを妻としたことで、ビリーは変化後のナヴァホ族に受け入れてもらえませんでした。
 そして、ドーラを事故で失った三年後――妻を救えなかった悔恨と、伝統的アメリカ・インディアンの最後の一人となってしまったことで、ビリーは狩人の仕事を引退していました。その彼のところへ、国連事務総長の特別補佐官エドウィン・テダースがコンタクトを取ってきます。
 テダースの依頼はこうでした――近々通商条約を結ぶ予定の異星人・ストレイジ人の中に、地球人を排斥しようとする宗教団体が存在し、その一人が条約妨害のため国連事務総長ウォルフォードの暗殺を目論んでいるのだ、と。ストレイジ人は肉体を自在に変化させることができる種族であり、かつ厳しい鍛錬により超能力を獲得することができるため、優秀な狩人であるビリー以外に暗殺者を止めることは不可能だ、と。
 依頼を受けることにしたビリーには、一つのアイディアがありました。彼は以前から、自分が捕まえた異星生命たちの中でも最強だった“キャット”という呼び名の生物が、実は知的生命体だったのではないかと疑念を抱いていたのです。そして、キャットの協力さえあればストレイジ人暗殺者を倒せるかもしれないと考えました。
 誰もいない夜に宇宙動物園へ忍び込んだビリーは、そこで推測通りキャットが知的生命であったことを知ります。しかし、五十年も檻の中に閉じ込められ、故郷の星はノヴァ化して消滅してしまったキャットに残されたのは、ビリーに対する憎しみだけだったのです。
 国連事務総長暗殺を阻止する見返りとして、キャットはビリーの命を要求しました。ビリーはそれに同意し、ナヴァホ・インディアンと変身生物の奇妙なコンビが結成されます。そして、ストレイジ人暗殺者は彼らの敵ではありませんでした。
 目的を果たした後、自らの命を差し出そうとするビリーにキャットは失望を見せます。キャットが真に望んでいたのは、己を捕らえた狩人との再戦であり、ビリーの命懸けの抵抗でした。キャットは、一週間生き延びれば解放してやると言い、逃走のための一時間の猶予をビリーに与えました。
 かくして最強の生物と最後の狩人の、立場を入れ替えた追跡劇が始まります――そして、もう一つの戦いもまた。

 本書の注目ガジェットは、キャットです。
 キャットは自身の肉体の形や色を自在に変化させることができる生命体(ストレイジ人と同様ですが別種族)であり、強力なテレパシー能力を有しています(大きな宝石状の一つ目だけは変化させることができない模様)。岩に化けたり、コートを羽織りサングラスをかけた人間の姿(コート等も肉体の一部)を取ったりもしますが、四足獣の姿を好むようです。
 キャットは元々トルグリンド星に生息していた肉食獣ですが、ビリーがこれを知的生命体だとは気付かずに捕獲、動物園送りにしてしまいます。なお、キャット("Cat")という名前は、ビリーがこの異星生物を捕獲した際に付けた便宜上の個体名ですけど、本人はそう呼ばれることを気に入っています。
 知能はかなり高いものの、いかにもプレデターらしい狩猟本能優勢の性格をしています。狩りをすることそのものに喜びを見いだしているようで、そのせいで少々迂闊な部分があるのは愛嬌と言えるでしょうか(^^;)

 作中ではナヴァホ・インディアンの神話がモチーフとして大きく取り上げられており、ストーリーにも大きく関わっているようです。(残念ながら私はナヴァホ神話に詳しくないので、詳細に解説することができません。ご了承ください)
 ざっと比較してみると、神話に登場する大地の女神・変身する女(チェンジング・ウーマン)がストレイジ人暗殺者(女性)、神話のトリックスターであるコヨーテがキャット、ということになるのでしょうか。
 また、最も重要なポイントであるビリー内面のアメリカ・インディアン的人格と西洋人的な人格の分裂は、ナヴァホ伝承の悪霊〈チンディ〉という形でストーリーに関わってきます。
 その他の登場人物として、国連事務総長暗殺を防ぐためテダースに雇われた六人の超能力者が登場します。中でもスコットランド人とスー族(ナヴァホ族とは別のアメリカ・インディアン)の混血ジェイムズ・マッケンジー・アイアンベアは、スー族の血を引きながらも西洋社会で成長した男性で、ビリーと対になるキャラクタかもしれません。
 見所はやはり、最強生命体キャットとの対決ですね。シンプルながらも猛々しく誇り高いキャットとの戦いを通じ、ビリーは失われていた自己を次第に取り戻していきます。ナヴァホ神話をバックボーンに語られる、一人の男の再生を描いた物語です。

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