混沌の宮廷

[題名]:混沌の宮廷
[作者]:ロジャー・ゼラズニイ


※このレビューには前巻までのネタバレがあります。ご注意ください。

 〈真世界シリーズ〉第五巻にして最終巻です。
 遂に息子達の前に姿を現した、アンバーの王オベロン。しかしながら、“パターン”の損傷によりアンバーの危機は間近に迫っています。
 自らの命を代償に“パターン”を修復しようとするオベロンと、父に複雑な感情を抱くコーウィン、そして兄弟達。彼らが織り成す物語は、どのように決着するのでしょうか。

 トランプを使ったコンタクトで、これまで親友だと思っていたガネロンの正体が父オベロンだったことを知ったコーウィン。その秘密主義と身勝手さにコーウィンはすっかり拗ねてしまいますが(^^;)、弟ランダムとの会話でようやく機嫌を直します。
 一方、アンバー宮廷にはアヴァロンでコーウィンを面倒に陥れた女性ダラと、ランダムの息子マーチンが現れます。ティルナ・ノグスでの出来事の裏側を思わせる、宙に浮いたグレイスワンダーとベネディクトの奇妙な戦いの後、ダラはコーウィンに事情を打ち明けました――自分は“混沌の宮廷”に属する者だが、“混沌”も一枚岩ではなく、自分達のグループはアンバーの存続を望んでいるのだと。
 アンバーで起きた一連のトラブルは、ブランドこそがその元凶でした。ブランドは“大パターン”の完全破壊を行い、自分で新たな“パターン”を作り出すことで並行世界の王になろうという野望を抱いていたのです。アンバー弱体化を狙い当初はブランドと手を組んでいた“混沌の宮廷”ですが、ブランドがいずれ裏切ることを予期しており、その暁にはコーウィンとダラの息子マーリンを玉座に据える目論見でした。
 オベロンは“審判の宝石”で“大パターン”を修復しようとしており、その成否に拘らず命を落とすらしいと聞いたコーウィンですが、ダラの言葉が今一つ信じられず、真のアンバーに赴きオベロンに真意を直接確かめました。それが事実だと知り、かつガネロンの姿をしていたときが父の本心だと信じたコーウィンは、“審判の宝石”を奪って父の身代わりに“大パターン”を修復しようとします。しかし、それはオベロン達に阻止されてしまいました。
 身を挺してアンバーと自分を救おうとしたコーウィンを、オベロンは後継者に相応しいと認めます。けれども、様々な出来事を経たことで、コーウィンはもはやアンバー玉座への執着を失っており、父の申し出を断ってしまいました。
 かくして、オベロンの名によりアンバーを離れ、“影”の中を“混沌の宮廷”へ向けて出発したコーウィン。やがて彼のところへ、彼自身の血で作られた赤い鳥が、“審判の宝石”を運んできました。それは、修復成功・失敗の結果を問わず、オベロンが死んだことを意味します。
 奇妙な“影”の生き物達との出会い、“審判の宝石”を奪おうとするブランドの攻撃、そして“影”を超えて迫り来る嵐。このままでは“混沌の宮廷”に辿り着けないと悟ったコーウィンは、ある決断をします。
 それは、自らが“審判の宝石”を使い、新たな“パターン”を創造してしまおうというものでした。

 本書の注目ガジェットは、“混沌の宮廷”("The Courts of Chaos")です。
 アンバーの王子達は、アンバーが並行世界に影を投げかける真の世界だと教えられてきましたが、実際には“混沌の宮廷”こそが本来の世界の中心だったことが前巻で判明しています。元々は“混沌”に所属していたドワーキンとその息子オベロンは、何らかの理由によりそこから逃げだし、“大パターン”を作り上げたことで秩序の中心となるアンバーを生み出すことになった訳ですね。二人の行動に激怒した“混沌の宮廷”は、彼らを反逆者と見なしていますが、アンバーの存在自体は有用と認めつつある模様です。
 “混沌の宮廷”のある場所は、空がサイケデリックな虹と、星の踊る夜空の二つに分割され、ゆっくりと回転している奇妙な世界です。コーウィンが初めてこの世界を訪れた際、遠くの山の上に浮かんだ黒い都市のようなものを見ていますが、遠近感がなく見るたびに姿を変えるため、どのようなものかは判然としません。
 “混沌の宮廷”には王族や貴族、騎士が存在することから、階級を伴う何らかの組織があるものと思われます。また、その住人は変身能力を持ち、自在に姿を変えることができるようです。この変身能力はドワーキンとオベロンも持っていますが、アンバーの王子達もその力を受け継いでいるかは不明です。
 なお、どうやら“混沌の宮廷”すら世界の根源ではない節があります。“混沌の宮廷”の更に向こうには、“混沌”ともアンバーとも無縁の究極の暗黒が存在しており、両者からの干渉を阻んでいる模様です。

 さて、締めくくりとして一人称主人公コーウィンを客観的視点から振り返ってみることにしましょう。
 コーウィンはアンバーの王オベロンの息子で、長兄ではありませんが最初の正統な王位継承者(但しコーウィン自身の言)です。過去の出来事はあまり語られないため詳細は不明ですけど、記憶を失う前はかなり鼻持ちならない人物だったものと推測されます(^^;)
 エリックのせいで記憶を失い地球へ島流しにされた後、数世紀の間アンバーに姿を現さなかったことから、事情を知るエリックとフローラ以外の者はコーウィンが死んだものと考えていました。ここで、野心を抱くブランドが、自分の計画がコーウィンに邪魔されるという啓示をティルナ・ノグスで得ます。これを阻止するために、ブランドはコーウィンの居場所を探り当てて彼を殺そうとしますが、失敗してしまいます。
 この干渉をきっかけとして、コーウィンの記憶はわずかに回復し、第一巻『アンバーの九王子』冒頭へと繋がるわけですね。
 こうしてアンバー周辺へと戻ってきたコーウィンですけど、当初は記憶喪失から、その後も自分が留守にしていた間の事情を知らないことから、他の兄弟、父、加えて“混沌の宮廷”にまで体のいい道具として使われてしまいます。ところが、コーウィンのタフさや臨機応変さ、そして幸運のせいで彼らの思惑は外れることになります。息子達を見極め王位継承者を決定しようとしたオベロン、コーウィンの息子をアンバー玉座に就かせ影響力を持とうとした“混沌の宮廷”、エリック陣営にぶつけるかませ犬として使ったブランド一味、自分達の正当性確保のため生かさず殺さずで幽閉したエリック陣営、等ですね。
 特に、投獄しておきながらまんまと逃げられたエリックと、いいように操っているつもりでいたのに裏をかかれたブランドは、コーウィンの行動に恐怖を覚えていたとしても不思議はなさそうです。
 十分にユーモアは持ち合わせているものの、特におどけた様子もなく秩序に逆らうつもりもないコーウィン君ですが、その行動がもたらした波乱を見るに、実は彼こそが〈真世界シリーズ〉におけるトリックスターだったのかもしれません。

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